内大臣の悩み
おじいさんのありがた~い おはなし。
教通には悩みがあった。朝廷の運営に関わるうちに常に税収の不足があることに気が付いた。老朽化した内裏の修理もままならない。それに比べてわが摂関家は父、道長が寺を造営すると主だった公卿から浮財が集まり、財政に何の苦労もなかった。藤原家の荘園から上がる利益は既に朝廷の税収を上回っていたのだ。朝廷の税収を上げるために荘園を整理しようと提案したものの、大部分を占める藤原家の荘園は整理されず、何ら税収の改善になっていなかった。これでは地方からいつ反乱が起きてもおかしくない状況になりつつあるのだが、父、道長は病床で、兄の頼通は朝廷との婚姻政策ばかりに目が行って危機感がないように見えた。
教通には、そんな父兄に従いながら、藤原家の立場と、朝廷の内大臣の立場のバランスを取りながら、地方貴族、豪族の不満を抑え、朝廷の財政を改善することに腐心していた。そんな心労続きの中での今回の正室の死は、頼通の心身を蝕んでいた。
そんな教通をやっと寝かしつけて、小式部は義父の保昌の護衛で、母と子供たちと、夕方になって帰宅した。乳母は既に帰っており、家に残った歓と円を十兵衛があやしていた。3歳の歓は十兵衛にかなりなついているようだった。
「あっ、十兵衛さん来てたんだ。子供の面倒見させたみたいでごめんなさい。」
円を背中に背負ったまま十兵衛は答えた。歓は裾にしがみついている。
「話は聞きました。教通殿の正室が亡くなられたとか。」
「ええ、産後の具合が悪かったようで……。」
「悪霊に取り殺されたのよ。祓うことができなかったの。」
小式部に隠れて真が訴える。
「この子は悪霊を見たのか?」
「ええ、たまたま公任さんのお屋敷にいるときに知らせが届いて、臨終に立ち会ったの。」
「悪霊がね。義母さんを引っ張っていったの。」
「藤原さんの祖霊は、みんな道長さんを守っているみたいだから、手が足りなかったんだと思うわ。」
「うん、俺はあまり歴史に詳しくないんだけど、この後、藤原家の力は衰えて、武家の世の中になるんだ。」
「それって、藤原家を呪う勢力に負けてしまうということなのかしら。」
「どうだろう。あっ!」
「どうしたの?」
「歴史に詳しい。旅の副将軍っていうのがいるそうなんだ。」
「旅の副将軍?」
「ああ、どうやら、時空を超えて全国を旅し続けて、歴史を正しているそうなんだ。」
「そんな人がいるんだ。十兵衛さんの時代って進んでいるのね。」
「いや、時空を越えられるのは月の世界の力らしいんだけど、その人に聞けば細かいことは分かるかもしれない。」
「でも、どこにそんな人がいるんだろう。」
その時、ヒューっと物音がして、部屋の板戸に一本の風車がささっていた。
「あっ、ママこれきれい。ちょうだい。」
歓が、十兵衛の裾から離れて、風車に飛びついた。それを見て十兵衛の背中にいる円も手を伸ばして欲しがっている。
「ママ、何か紙が付いてるよ。字が書いてあるみたい。」
小式部が、受け取って十兵衛に渡した。
ー鞍馬山の天狗に会うのじゃー みつくに
「鞍馬山? 天狗? あっ、そういえば将軍様が鬼や天狗と仲良くしろって」
「みつくにさんって誰?」
「黄門様、旅の老人だ!」
「歴史に詳しいっていう人?」
「そうだ。この時代に来ているのか?」
「鞍馬山に行けば会えるんじゃない。わたしも行くよ。」
「小式部さんがついてきてくれれば、話はできそうだな。」
「ちょっと、ちょっと待って」
小式部は急いで、縁に出ていった。そしてしばらくして戻ってくると
「十兵衛さん、ごめんなさい。私行けないみたい。」
「どうしたんだ?」
「また、出来たみたい。教通くん明るい家族計画やり過ぎよ。」
小式部は5人目の子供を身ごもったようであった。
「ママ、またなんだ、休んでて。静、行くわよ。」
「真、こうなったらママの身も心配だよ。」
「大丈夫、ママには強そうな人と、賢そうな人と、かっこいい人がついてるから。」
「なんか一人増えてないか?」
静は、母の小式部を天神様と業平様が守護していると言う話を生前の晴明から聞いていた。
「強そうな人って、誰なんだ。」
「多分、田村麻呂様だと思うわ。波動に覚えがあるわ。だから私は大丈夫よ。明日、気を付けて行ってらっしゃい。」
翌日、十兵衛は静と真を連れて、鞍馬山にピクニックに行くことになった。
「そういえば、金さんからこんな本を預かってきたんだ。」
「金さん?」
「時空の番人の恋人さ。」
十兵衛は「小しきぶ」と書かれた書物を手渡した。
「え?これ何?」
「600年後に残る小式部さんのことを書いた本みたいだ。書かれたのは400年後ぐらいだそうだけど」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
改革っていっても自分の損になることは
やりたがらないものなんだ。
自分の身を切ってこその改革じゃぞ。
この辺りの事情は史実準拠ですね。




