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第1話:女神が示すは復讐の道


「おいおい、野暮ったい事をするんじゃないよ少年」


女神が舞い降りたと、そう錯覚した。


世界が音を失ったように周りの音が聞こえなくなる。

気付けば声も出なくなってしまった。


白銀を鋳溶かしたような美しい長髪が月に照らされて輝いている。

鈴を転がすような声は僕の心にじんわりと染み渡るようだ。


「救える命が目の前で失われるなんて、寝覚めが悪くなるだろう?」


サファイアのように深い色をした碧眼が屈んだ事で僕の目線と同じ高さまでくる。

ザシュっと地面に深紅の剣が突き立てられる。


「キミは被害者なんだ、キミが死ぬ必要なんて全くない」


碧眼がほんの一瞬怪しく揺れたように感じた。


カラン……


僕が自分の心臓に突き立てようとしていた短剣が落ちた


「ひがいしゃ…」


「そうだ、キミは何も罪を犯してなんていない」


僕は、シェイル・フォールンという。ただそれだけで、何もしてない


今日だっていつも通り過ごしてただけ


家族がいて村のみんながいて、みんな笑い合って過ごしてただけ


「……じゃあなんで……なんで………」


彼女の肩を握った

再び世界が時間を取り戻して動き出す

同時に視界が端の方から滲んでぼやける


「なんで………みんな殺されたんですか………」


パチパチと、崩れた家屋を焼く火の音が弾ける


吐き気を催すような血なまぐさい匂いが漂う


握った手には火傷が広がり血が滲んでいた


「誰も…なにもっ…してないのにっ………」


言葉に嗚咽が混じりちゃんと喋れない


そこらに転がってるのは友達だったものだ

誰だったかわからないものもある、全部血まみれだ


「あいつらはっ…ぜんぶ奪ったっ…!」


あの騎士を引き連れて豪勢な甲冑に身を包んだ貴族が全部奪った


家も金も作物も、あまつさえ命までも


「みんなみんなっ、なんで奪われたんだっ…!」


気付けば彼女の肩を叩いていた

力なんてこもってるはずない、彼女はびくともしない


彼女の当たるのは違う、そんなのわかってる


でも…そうでもしないと正気なんて保ってられない


大人は言っていた、貴族は贅沢ができていいなと

俺たちにないものを全部持ってていいなと


「なんもないのに…理不尽じゃないか………」


なんで僕たちから余計に取り立てるんだ


僕たちは生きることすら許されないのか


知ってる人はいないし、暮らす家も日銭もない


またこんな思いをするぐらいならいっそ死んだ方が………



「死んだ方が良かったなんて、考えちゃいけない」



ふわりと、気づけば彼女に抱きしめられていた


あたたかくて、柔らかくて、ずっとこうしていたい心地よさ


心地いいまま安らかに死んでしまいたかった


耳元で言葉が紡がれる


兄さんのように僕に真剣に向き合って道を示してくれる言葉が


「誰もキミの死を望んじゃいない、死んだところで何も残せない無駄死にさ」


「でも…でも…僕だけ生き残って……!」


「1人だけ生き残ってしまって辛いのはわかるさ、自分の無力さを呪いたいのも理解するよ」


「でもっ...でも.........」



「キミには生き残ってやらなきゃならないことがあるんじゃないのかい?」



やらなきゃならないこと


そんな冷静になれるわけ...


「冷静になんてならなくていい、自分自身に対するその殺意、本当に向けるべき相手を定めるんだ」


殺意を..向ける...相手.........





ぴちゃん





ひび割れて涙で溢れた心に負の感情がたった一滴だけ滴り落ちた




………憎い



人を人だと思わない貴族が


なんの罪も犯していないのにみんなから全てを奪ったその欲望が


力のない僕が抗うことの出来ない不条理が、理不尽が



その全てが憎くて仕方ない



仇を取りたいあいつを殺してやりたい



この身に降りかかる理不尽を全て払い飛ばしてやりたい.........!



「憎め恨め理不尽を嫌悪しろ少年、その感情を決して忘れるんじゃない」


まるでかつての自身を僕に重ねるように、そっと労るように僕の頭をぎゅっと抱きしめる


「今は生きることだけに専念するんだ、その感情は生きて生きて生き抜いた先にあるのだから」


言葉の一音一音がゆっくりと僕の感情の昂りを抑えてくれる


ああ、本当に女神のような人だ


「生き...る......」


ああ、散々泣いたからだろうか、急激に眠気が襲ってくる


「後のことは私に任せてゆっくりと眠るといい、大丈夫、キミの身の安全は私が保証するさ」


母さんのように僕に無償の愛を注いでくれる優しい声だ



…散々酷い目にあったんだ...ちょっとぐらい甘えても.........



「いい...か......」


シルクのように柔らかな頭を撫でる

湧き上がっていた激情が嘘のように心の中に息を潜めた




意識が薄れゆく中で地面に突き立てられた深紅の剣がこちらを見ているような気がした




目を開けて見える景色はよく見知った古びた木材の天井だった。

小さい窓から日差しがさしている。

まだ気温はさほど高くないはずなのにシーツまで汗でぐっしょりとしていて気持ち悪い。


「………夢か」


まだ幼かった頃の悪夢、全てに絶望したあの日の記憶。

この夢を見るたびに襲ってくる黒い感情を、際限のない破壊衝動を押さえ込むのに何度苦労したことか、今だって何もかもを壊したくて仕方ない。

おかげで汗だくになってしまった。


「………水浴びでもするか」


今日は用事がある、こんな汗だくのまま行ったら迷惑極まりない。


起き上がってびしょびしょになってしまったシーツを剥ぎ取って洗濯籠に入れてその上から寝巻きを脱ぎ捨てる。


浴室の壁に刻まれた小さな魔法陣に手をかざすと淡い光を宿し、身体から少量の魔力が吸い取られる感覚がした。

それに連動して天井から雨のように水が降り注ぐ。


冷水で物理的に頭を冷やす、少しは冷静になれた気がした。


今日は恩人と再会できるんだ、こんな野生的な衝動を丸出しで会ったらなんて言われるか想像に苦しくない。


もうあの頃の僕とは違う、成長した姿を見せると決めた。



しばらくの間降り注ぐ冷水が心地よかった。



読んでいただきありがとうございます!

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それではまたお会いしましょう!

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