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貴族学園シリーズ

皇太子殿下から妹のように溺愛されているせいでモテない上に悪女のレッテルを貼られて困っています

 ◇◇◇


「ねぇメアリー、私ってそんっなに魅力がないのかしら?も、もしかして、とんでも無い不細工、とか?」


 お仕えするお嬢様のいつになく深刻な様子に、メアリーは慌てて首を横に振った。


「何をおっしゃいますか!不細工だなんてとんでもない!帝国広しと言えど、お嬢様ほどお美しいご令嬢は他におりませんわ!陽の光のような淡い金の御髪に、神秘的なアメジストの瞳。女神もかくや!のお姿でございます」


 大袈裟ではなく、オリビアは誰がどう見ても大変な美少女だ。顔立ちの美しさは言わずもがな。ほっそりとした腰に似合わぬ豊かな胸。しなやかに伸びた長い手足に抜けるような白い肌。どこもかしこも瑞々しく美しい肢体は同性でもうっとりと見惚れてしまうほどで、メアリーは初めてお嬢様に会ったとき、本気で天使かと思ったくらいだった。


「そ、そお?そうよね!わたくしにそっくりなお母様も、若い頃は社交界の華として君臨されていたって仰ってたもの!」


「左様でございますとも!奥方様はその美貌で数多くのご令息を虜にし、デビュタント以降、ご実家の侯爵家の前には求婚者達が絶えず列をなしていたと聞きますわ!」


「数多のライバルを蹴散らして、見事お父様が射止められたのよね」


「旦那様は公爵家としての権威に頼らず、毎日薔薇の花束を持参して100日間愛を伝え続けたとお聞きしておりますわ」


「ロマンチックよねぇ」


「そしてその花束には、花の色に合わせた宝石がこれでもかと散りばめられていたそうですわ〜なんてロマンチック!」


「……それは、金にモノを言わせたってことで良いのかしら?」


「何をおっしゃいますか!『君はこの花よりも宝石よりも美しい』と言う愛の言葉が添えられていたそうですわ!愛です!」


「……ぎりセーフかしら?」


「ときには男の甲斐性を見せ付けることも必要ですわっ!」


 メアリーの熱弁にオリビアは肩をすくめた。何はともあれ、今も大変仲の良い両親はオリビアの憧れだ。いつかは自分も、素敵な男性と巡り合い、愛し愛されて、幸せな家庭を築くものだと思っていた。だが、今のオリビアにとってそれは叶わぬ夢となりつつある。


「はあ。でもこのままだとわたくし、確実に行き遅れるわね。せめてもう少し身分が低ければ職業婦人として生きることもできたかもしれないのに」


「うう、かわいそうなお嬢様!お嬢様はちっとも悪くありませんのに!それもこれも全部、皇太子殿下のせいですわ!」


「ちょ、メアリーってば、不敬よ!」


「だって悔しいじゃありませんかっ!入学早々、お嬢様のことをよく知りもしないご令嬢たちから好き放題言われるなんて!」


「反論しようにも、面と向かって非難してくるわけでもないし、誰も私の話を聞いてくれないんだもの」


「お嬢様ぁ……」


「もしこのまま誰からも求婚されなかったら、修道院にでもいこうかしら……」


「溺愛する可愛いひとり娘がそんな目に合えば、旦那様が黙っていないと思いますけど」


「そうよねえ……」


 今年成人を迎えた年頃の貴族令嬢だというのに一切モテない。それが公爵令嬢として何不自由ない生活を送ってきたオリビアの、ここ最近の悩み。そしてその原因が、皇太子殿下からの溺愛だというのだから頭が痛い。


「学校、行きたくない……」


 ◇◇◇


 美しく飾り付けられた広間では、すでに数多くの令嬢や子息たちが歓談を楽しんでいた。今宵はオリビアの通う貴族学園で、学生たちが主催する交流パーティーだ。オリビアは今回責任者として参加している。婚約者と楽しそうに参加する学生もいれば、意中の相手を思い切ってダンスに誘おうとそわそわしている学生もおり、なかなか盛況のようだ。


「良かった。皆さん楽しんでらっしゃるみたいね」


 会場の片隅でこっそりパーティーの様子を伺い、ほっとするオリビア。一応ドレスアップはしているものの、今回もパートナーはいない。それどころか、高等学校に入学以来、オリビアに誘いをかけてくる子息は一人もいなかった。だが、今夜こそ勇気を出して誰か誘ってみよう。自分から動けば少しは状況は変わるかもしれない。オリビアは小さく気合を入れる。


「やあオリビア。会場の準備お疲れ様」


 そこに声を掛けてきたのはオリビアの二歳年上の従兄であり、幼いころから実の妹のように可愛がってくれているサイラス皇太子殿下だ。サイラスの隣には婚約者であるアイリス侯爵令嬢がにっこりと微笑んでいるが、その目の奥は笑っていない。アイリスはサイラスから初めて紹介を受けたときから、なぜかオリビアのことを明確に敵視していた。


 現在この国の未婚の女性で最も位が高いのは、公爵令嬢であるオリビアだ。けれども、アイリスは貴族学園の先輩でもあるし、いずれサイラスと結婚すれば、アイリスのほうが上の身分になる。そのため、オリビアは出会ったころからアイリスに対して失礼のないよう礼を尽くしているのだが、ちっとも打ち解けてはもらえなかった。


 生徒会副会長であり才女として名高いアイリスは生徒のみならず教師からの信頼も厚く、そんなアイリスに嫌われているオリビアはよほど付き合いにくい令嬢だと思われているのか、生徒会の役員や他の生徒たちとの関係までぎくしゃくする始末。オリビアはこの状況をなんとかしたいと思いつつも、どうにもできずに手をこまねいているしかなかった。


「サイラス皇太子殿下にアイリス侯爵令嬢、ごきげんよう。新参者のわたくしに重要なお役目を任せていただきありがとうございます。なんとか皆さんに楽しんでいただけているようでほっとしておりますわ」


 オリビアは今年貴族学園の中等部から高等部に進学したばかりの一年生。本来であればこうした催しは上級生である二年生や三年生が中心となって準備をすることが多い。しかし、今回は生徒会副会長であるアイリスの推薦により、オリビアがパーティーの取り仕切りを任されることになった。だが、こうした催しに詳しい上級生に親しい知り合いもおらず、誰も手助けをしてくれなかったため、オリビアは孤軍奮闘で今日までコツコツと準備を進めて来たのだ。ちなみにサイラスが手伝うと言うのは自分から断った。


「せっかく高等部で行われる初の交流パーティーなんだ。わたしはオリビアにももっと気軽にパーティーを楽しんで欲しいと思っていたんだけど。会場の準備のせいで楽しめてないのではないか?」


 サイラスがオリビアの顔をじっと覗き込み、頭を撫でながら申し訳なさそうに声を落とす。


「おに……、サイラス殿下!もう子どもじゃないのだから、気軽に触るのは辞めてください!」


「ははは、ごめんごめん。オリビアが可愛くてつい」


 サイラスとは従兄妹同士と言うこともあり、子どものころからよく一緒に遊んでいた。そのため今でも昔のように子ども扱いしてくる。お互いそこに色恋の感情はないのだが、こうしたサイラスのオリビアに対する態度がアイリスの気に障るようで。


「あら、公爵令嬢であるオリビア様に指示を出せる方なんていないでしょう?責任者にはオリビア様がふさわしいと、サイラス様もおっしゃっていたじゃありませんか!」


 そう言うとものすごい勢いでオリビアを睨みつけてきた。


(ううっ、どうして私が睨まれるのかしら)


「それはそうだが。何も会場の準備までオリビアがすることは……」


「では、オリビア様の代わりに私がやれば良かったとおっしゃるのかしら?わかりましたわ!これから雑用は全部わたくしがやりますから、サイラス様はオリビア様とパーティーに参加すればいいんだわ!」


「そんなことは言っていないだろう!」


 ますます不機嫌になるアイリスにサイラスもさすがに声を荒げた。最近二人は言い争いが増えたようで、不仲説もささやかれており、オリビアは慌ててフォローに回る。


「いえ!とんでもない。今回任せていただいたことでいい勉強になりましたわ!アイリス様には心から感謝しております!」


「……オリビアがそう言うなら……」


「はいっ!アイリス様、私を信頼して任せていただきありがとうございます」


「……オリビア様をぜひにと推薦したのは生徒会の他の方たちですわ。でも、残念でしたわね。せっかくの素敵なドレスですのに、サイラス様と一緒に踊れなくて」


 ドレスアップしたオリビアに凍り付くような冷たい視線を浴びせ、ぷいっと踵を返して行ってしまうアイリス。今日のドレスは頑張ったご褒美に、とサイラスからプレゼントされたものだ。サイラスは「ごめんね、オリビア」というと、慌ててアイリスを追いかける。気が付けばオリビアは遠巻きにされたまま、会場の視線を一身に浴びていた。


(うう、サイラスお兄様と踊りたいだなんて一言も言っていないのに!ドレスだってわざわざ今日のためにと贈ってくださったから仕方なく着ただけだし。でも、これでまた悪女の評判が立つんだわ……)


 毎回毎回このような痴話げんかに巻き込まれ、オリビアの評判はすっかり地に落ちていた。オリビア自身に恥じるところはないと思っているのだが、アイリスの周りにいる令嬢たちが「思わせぶりな態度でサイラス殿下の気を引いている」とか、「わざと甘えている」とか、「婚約者であるアイリスに対する配慮が足りない」とか噂しているのは嫌でも耳に入ってくる。


 会場のいたたまれない空気に耐えられず、オリビアはそっと園庭に出た。準備は全て整っているので、オリビアがいなくてもあとはみな楽しくやるだろう。ライトアップされたガゼボの近くには、夜露に濡れた薔薇が咲き誇っていた。この薔薇も、今日のためにオリビアが公爵家から特別に取り寄せたものだ。皆の素敵な想い出になるようにと園庭にも気を使ったのだが、せっかくの薔薇を見にくる人もいない。


「ふふっ。私なりに皆さんと仲良くなりたくて頑張ったんだけどなあ。お父様がお母様に贈ったこの特別な薔薇も、好きな殿方と一緒に見たらロマンチックで素敵だなとちょっと期待してたのに。高等部に入ったし、私だって恋のひとつやふたつしてみたい。大体サイラスお兄様が悪いのよ。はっきり私のことなんて興味ないってちゃんと言わないから!」


 サイラスへの恨み言を呟いているうちに、涙がこぼれてきた。分かっているのだ。サイラスが悪いわけではないと。ただ、幼いころから変わらず、妹のように可愛がってくれているだけだ。ちょっと、いや、かなりデリカシーがないだけで。アイリスも、そんなサイラスにイライラしているだけで、恨み言の一つや二つ言いたくなるのもわかる。


 だけど、それではオリビアはどこに不満を言えばいいのだ。オリビアばっかり損をしている気がする。


 公爵令嬢だから。身分が高いから。立場的に恵まれているからといって、陰口を言われても平気なわけではない。オリビアだってただのか弱い女の子なのだ。


 でも、立場があるから、皆の前で大声で泣くこともできず、皇太子殿下やその婚約者の態度を表立って非難することもできない。そんなことをすれば、やはり噂は本当だったと言われてしまうだけだ。それが事実であろうがなかろうが、一度ついた悪いイメージはなかなか払拭できないものだ。


「オリビア?どうしたの?もしかして、泣いてる?」


 不意に声を掛けられて肩が跳ねた。そこにいたのは黒髪に黒目のため息の出るような美少年で。


「アレク!?どうしてここに……」


「オリビアが植えた薔薇を見ようと思ってさ。夜露に濡れた薔薇が一番素敵だって言ってたから。それより、顔見せて。可愛い顔が台無しだよ?誰にいじめられたの?」


「い、いじめられてなんか……」


「嘘つき。こんなに泣いてるくせに」


 いきなり胸にぎゅっと抱きしめられて、思わず涙が溢れる。


「相変わらずオリビアは泣き虫だね」


「年下のくせに、生意気だわ……」


「はいはい。オリビアの方がお姉さんだもんね。一歳だけだけど」


 サイラスの弟でこの国の第二皇子であるアレクは、オリビアにとって弟のような存在だ。最近はすっかり背も伸びて生意気になったけど。中等部では一緒に過ごすことが多かったが、オリビアが高等部に入ってからは自然と逢う機会も減っていた。泣いているところを見られたのは恥ずかしいけれど、今日もずっと肩身が狭かったオリビアは、正直アレクに会えて嬉しかった。


「私、中等部に戻りたいわ」


 思わずぽつりと漏らした本音に、アレクは首を傾げる。


「そうなの?せっかく俺、来月から高等部に通うことになったのに」


「え!?どうして!?まだ一年あるじゃない」


「ああ、飛び級したんだ」


「びっくり。貴族学園でも飛び級なんてできるの?アレクってとんでもなく優秀なのね」


「まあね。これからはまた前みたいに一緒に過ごそう」


「ふふっ、ええ、いいわ!」


 気心の知れたアレクがいてくれるなら高等部でも楽しく過ごせるかもしれない。オリビアの顔に笑顔が戻った次の瞬間。


「あらあら。サイラス殿下だけじゃ物足りなくて、他の殿方まで物色しているみたいね。怖いわ~」


「本当に。こんなところで逢引なんてして恥ずかしくないのかしら」


「まあ。殿方と抱き合って。なんてふしだらなの!」


 悪意のある声に振り向くと、生徒会でアイリスの取り巻きをしている令嬢たちがこれ見よがしに声を上げていた。オリビアは慌ててアレクから離れようとするが、アレクはそのままオリビアの腰をぐいっと引き寄せる。


「今のはオリビアに対して言ったの?」


 今まで聞いたことのない冷たい声。オリビアを侮辱されたアレクは本気で怒っていた。


「あ、あら。オリビア様でしたの?ちっとも気が付きませんでしたわ」


「ええ、まさか公爵令嬢であるオリビア様がこのようなところに殿方と二人でいるなんて思いもしませんでしたから!ところであなたは?お見かけしたことはございませんけど、どちらの貴族家のかたかしら?」


 オリビアの手が小刻みに震える。


(どうしよう。今度ははっきり若い殿方と密会してたって言われるわ。取り返しがつかない!)


 だが、アレクはオリビアににこっと微笑みかけると、その手をきゅっと握ったまま令嬢たちに向き合い、冷ややかな声で堂々と名乗りを上げた。


「俺の名前はアレク・キャッスル。オリビアは俺の婚約者だ。おかしなことを言うのはやめてもらおうか」


 アレクの名前を聞いた令嬢たちはさっと顔色を変える。


「キャッスル?え!?では、中等部に在籍中の第二皇子殿下!?」


「え?第二皇子殿下とオリビア様が婚約?聞いてないわ、そんなこと」


「ちょっと!まずいわよっ!あなたがオリビア様の後を付けようなんて言うから!」


 ざわざわと好き勝手なことをいう令嬢たちを心底馬鹿にした目で見つめるアレク。


「で?人に名乗らせておいて自分たちは名乗らないつもりかな?まあ、名乗らなくても君たちが誰かくらいわかるけど」


「ひっ!し、失礼しました!」


「ご無礼をお許しください!」


 アレクからぎろりと睨まれて令嬢たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。だが、オリビアはアレクの言い放った言葉に慌てた。


「ちょ、ちょっとアレク!婚約者だなんて!どうしてあんな嘘ついたのよ!」


「困る?俺は別に困らないけど」


 突拍子もない嘘をついておきながら少しも悪びれないアレクにたじたじのオリビア。


「と、突然そんなこと言われても困るに決まってるじゃないの!」


「顔赤いけど?」


「からかわないで!」


「からかってなんていないよ」


 端正な顔に至近距離からじっと見つめられて心臓が跳ねる。いつのまにかたくましくなった腕。男らしい固い胸に、吸い込まれそうな黒い瞳。


「ねえ、オリビアは俺のこと、いつまで子ども扱いするつもり?」


 男らしいアレクの魅力に思わずくらりとしかけたそのとき、


「婚約破棄なんて絶対に認めないわ!」


 今度は近くから聞こえた叫び声にハッとなった。


「今のは……もしかしてアイリス様?」


「しっ……」


 アレクがオリビアの手を引き、素早く薔薇の陰に身を寄せる。


「アイリス。残念だが君の近頃の振る舞いにはうんざりだ。このままだと、僕は君を愛せなくなりそうだ。婚約破棄なんて言っていない。だが、一度距離をおかないか?」


「……そんなにオリビア様がいいのね」


「だから何度も言っているだろう!彼女はただの幼馴染で妹のようなものだと!」


「嘘よっ!信じないわ!」


「はあ。もう信じてもらわなくても構わない。確かにこのまま君と結婚するぐらいなら、オリビアと結婚したほうがマシかもしれないな!」


「ほら!ようやく認めたわね!今までそうやって二人して私を裏切り続けていたくせに!全部知っているのよ!裏切り者の卑怯者!」


 ヒートアップしていく二人の会話に、オリビアは真っ青になる。このまま二人が婚約破棄してしまえば、勝手に婚約破棄の原因にされてしまうのだ。たまったものではない。


 だが、オリビアが動くより早く、アレクが二人の間に割って入った。


「兄上、いい加減にしてくれないか?」


「アレク?どうしてお前がここに……」


 突然現れた弟に唖然とするサイラス。アイリスも気まずそうに口を噤んだ。


「今そんなことどうでもいいだろ?とにかく、兄上たちの問題にこれ以上オリビアを巻き込むのはやめてくれ。迷惑だ。アイリス侯爵令嬢、多少のやきもちは可愛いけど、行き過ぎた嫉妬はみっともないよ?」


「なっ……」


「おい!アイリスに失礼なことを言うな!」


「兄上も、愛してるなら愛してるってちゃんと言葉と行動で伝えなよ」


「なっ……」


「おいで、オリビア。公爵家まで送るよ」


 アレクに呼びかけられ、気まずそうにおずおずと姿を現したオリビアに、二人は更に目を丸くする。


「アレク、オリビアと二人で何をしていたんだ」


「一緒に薔薇を見ていただけさ。ね、オリビア」


「あ、はい……」


 流れるようなエスコートでオリビアを抱き寄せるアレク。しかしさり気なくその額にキスをすると、真っ赤になったオリビアの唇に素早くチュッとキスをする。


「なっ……アレク!!!いきなり何するのよ!」


「ふ、真っ赤になっちゃって、可愛い。二人とも、痴話げんかもほどほどにね?素敵な薔薇でも見て、仲直りしたら?」


 ぎゃーぎゃーと言い争いをしながら立ち去っていくアレクとオリビアを呆然と見送る二人。


「……もしかして、アレク様とオリビア様って恋人同士だったのかしら」


 ポツリと呟いたアイリスの言葉に、


「昔から仲が良かったからなあ……」


 と頷くサイラス。


 サイラスとアイリスは顔を見合わせると、どちらからともなく笑いあう。


「……わたくし、ずっと自信がなくて。オリビア様ほど美しくもなく、身分が高いわけでもないわたくしがサイラス様にふさわしいのかって」


「君はそんなことを考えていたのか……」


「愚かだと思うでしょう。わたくしたちはただの政略結婚なのに。でもわたくしは、サイラス様にオリビア様と同じように愛してもらいたかったんです……」


「君は本当に馬鹿だ。いや、馬鹿なのは私のほうか。君を選んだのは私の意思だ。むしろ、父上からはオリビアを勧められたがきっぱり断ったんだ」


「えっ?」


「君を、愛していたから」


「う、嘘ですわ!わたくしに魅力なんてありませんもの!」


「君は、自分が思っているよりずっと、魅力的だ。確かにアレクの言う通り、言葉にしないと伝わらないものだな」


「サイラス様……」


「これからは私もちゃんと言葉にして伝えるよ」


「はいっ……」


 ◇◇◇


「オリビア、今まですまなかったね」


「本当にごめんなさい。許していただけるかしら?」


 生徒たちが大勢いる食堂の真ん中で、別人のようにいちゃいちゃする二人を埴輪のような顔で見つめるオリビア。あの後何があったのか知らないが、二人は手を繋ぎあったまま恥ずかしそうに頬を赤らめている。何かあったのだろう。


「……誤解が解けて何よりですわ」


 兄のように思っているサイラスのデレデレとだらしない顔を見るのは正直しんどいが、二人が幸せそうなのでまあいいかと思い直す。


「これからは誤解を生まないよう、お二人でよく話し合ってくださいませね」


「ああ!やっぱり気持ちを伝えあうと言うのは大切だな!」


「ええ!今まで意地を張っていたのが馬鹿みたいですわ!」


 スキップでも踏みそうな二人を前に、これ以上邪魔をするのは空気が読めないというのはオリビアにもわかる。ここは早々に退散するとしよう。


「お兄様たちが幸せなら、わたくしも嬉しいですわ」


 そう言って立ち去ろうとするオリビアにサイラス達は屈託のない笑顔を向ける。


「ああ!いずれは本当の兄妹になるしな!」


「ええ!わたくしもオリビア様の良き姉になれるようにがんばりますわ!」


 途端にざわつく生徒たち。特に男子生徒からどよめきが巻き起こった。


「えっ!?実の妹に!?」


「と言うことは今度はアレク殿下と!?」


「くっ!皇太子殿下がオリビア様のことを諦めて下さるなら、真っ先に俺が婚約を申し込もうと思っていたのにっ!」


「俺だってずっと機会をうかがっていたのに!」


(え?あれ?もしかして、わたくし、モテてる!?)


 思わずそわっとしそうになったオリビアの腰を、隣にいたアレクがぐいっと引き寄せる。


「残念。もう予約済みだよ?」


「アレク!」


「オリビアは、浮気なんかしないもんね?」


「うっ……まだ、ちゃんと婚約の話を受けたわけでは……」


「よし、今から二人でじっくり話し合おうか!」


「ちょっ、だ、駄目っ!ち、近いってば!」


 二人の姿をにこにこと見守るサイラスとアイリス。その様子に男子生徒たちはがっくりと肩を落とした。


 ちなみに、アイリスにオリビアがサイラス殿下を狙っていると嘘を吹き込み不安を煽ったり、オリビアの悪評を広めたりした令嬢たちは、そろって学園から追放された。


 どうやらアイリスとサイラスの仲を引き裂き、更にオリビアの評判を落とすことで、自分たちにもチャンスがあるのではないか、と画策していたらしい。だが、皇子二人の不興を買い、将来の皇子妃たちを敵に回した代償は思った以上に高くついたようで、この先彼女たちを妻にと望む貴族令息は現れないだろうという話だ。


 完全に切れたサイラス達の姿にオリビアは涙目になっていたが、それから少しずつ誤解していた周囲の生徒たちと打ち解けて、悪女の噂はすっかり鳴りを潜めた。ようやくオリビアの平穏な学園生活がスタートするかに思えたのだが……。


「好きだよ。オリビア。諦めて俺のものになって?」


 兄の次は弟。相変わらず皇子に振り回されっぱなしのオリビア。けれど今度の溺愛は、まんざらでもないようです。



 おしまい


読んでいただきありがとうございます

(*^▽^)/★*☆♪

下のほうにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして、応援して下さるとすっごく嬉しいですっ♪ポイントがたくさん貯まると作者がニヤニヤします。

広告の下に読み周り用にリンクを貼ってあるので、ぜひ、色々読んでみて下さいね。

皆様の感想、お待ちしてま~す。

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わがまま

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不安を煽って漁夫の利を得ようとしてた連中がちゃんと罰を受けてるのがすっきりです
オリビアちゃんはもちろん、アイリスちゃんが思ったより可愛すぎました。 きゅん。きゅん。 サイラスくん、女心のわかんなさが長男じみてますね。 そこが可愛い! みんな可愛い。可愛いが渋滞してます。大好き。…
拝読させていただきました、 結局、一番年下のアレクが一番しっかり者だったのですね。
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