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無能弟子サブリナの救世巡礼  作者: 小谷杏子
第二章 女傑の怪鳥狩り
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7 次なる旅路

 ひとしきりモフリンや子供たちと戯れたあと、ようやくサブリナは発つ準備を始める。モフリンの足に乗る姿は、鳥獣使いのようである。

 クライドは適当にごまかし、サブリナの旅路を見送ることにした。

 ──俺の杖、まだ返ってきてないからな……

 じっとりとヴェドラナを見ているも、彼女はどこ吹く風でサブリナと別れを惜しんでいる。

「それでは皆さん、お元気で!」

 バサバサと大きな羽ばたきが旋風を巻き起こし、辺りの植物や人を大きく扇ぐ。

 その勢いに転がる子供たち、見上げるヴェドラナとメル、クライドはサブリナの旅路を静かに見送った。

「さて……」

 おもむろにヴェドラナが言う。クライドの袖をちょんとつつき、彼女は杖を渡した。

「おぉ!」

「どうもサブリナにはバレたくない秘密があるらしいようじゃからなぁ。ワシの気遣いに感謝しろよ、ギル」

 ヴェドラナはふんぞり返るように言う。本来の彼女はこんな風におどける性格なのだろう。

 クライドは苦笑を返し、こちらをじっとりと見るメルの頭を意味なく叩いた。

「──それじゃ、俺も行くか」

 村の外れまで向かった先で瞬間移動する。

 目を開けたらそこはきらびやかな宮廷の敷地内であり、夢から醒めたような心地になった。どこもかしこも整備が整った荘厳な景色が、なんとも別世界のように見えてしまう。

 クライドは頬を叩き、行商人の姿から宮廷魔術師へと瞬時に変身した。

「……よし、陛下に報告だ」

 すぐさまここまでの経緯をフレデリック国王に報告すべく気分を切り替えた。


 ***


「──以上で報告を終わります」

 力強くそう締め括るも、フレデリック国王は不満そうな顔をしている。

「陛下?」

「……彼女、無能だと言ったな?」

「は? あ、はい。魔力を持たないと、そうはっきり言って……ました」

 顔を上げると、国王が羽根ペンを握り潰していた。上等な鷲羽根の繊維がぐしゃりと撚れ、今にも芯が折れそうだ。

 ──ここまでの話を聞いて、反応がそれだけ?

 なんとも不服だったが顔に出すわけにいかない。そう思っていると、国王は頭を抱えた。

「あぁ心配だ……やはり一人で行かせるべきじゃない! クライド! そなたがついていながらなんだ! 今すぐ彼女の後を追え!」

「えぇぇっ!? ですが、私がいなければ宮廷の魔術師は留守ですよ!? 誰が陛下をお護りするんです!?」

「そんなの衛兵だけでも事足りるわ!」

 取り乱すフレデリック国王の暴言に、クライドはわずかに苛立った。

 執務机にドンと拳を置く。

「お言葉ですが、衛兵で事足りるなら宮廷に魔術師など、そもそも必要ないということではないですか! 私は無用ということですよね!?」

「あ、すまん……そういうつもりじゃないんだ、クライド」

 取り乱すと心にもないことを言うのがこの若き国王の悪癖である。

 クライドはため息をつき、怒りを鎮めた。

「……いえ、陛下の心配はごもっともです。私も結局、彼女の本質がまだまだつかめていません。それに彼女にはどうも信用されていないようですし、より信頼を結ぶため、逐一様子を見ようと思います。よって、何か異変があった場合や連絡が途絶えたら私が現地へ赴き、確認もしくは援助して参ります。それでよろしいですね?」

 一息に早口で捲し立てると、フレデリック国王は圧倒されたように仰け反り「あぁ……」と小さく返した。口元を引きつらせ、クライドを見つめている。

 一方、クライドはさっさと執務室を後にした。怒ってはいたものの、不思議と足取りが軽い。

 自室まで向かっていると、廊下の窓辺に白鳩がちょこんと留まっているのに気づいた。

「あぁ、サブリナの……」

 窓を開け、鳩を出迎える。

 足にくくりつけられた文には彼女の元気な文字で【カゲバス村、カリオケット村、任務完了】と書かれてある。また、物資の要請もしっかり記載されていた。

「ったく、遅いんだよ」

 もうすでに手配は済んでいる。

 しかし、彼女からの報告が今までより穏やかな気持ちで受け取ることができ、クライドは思わず噴き出した。

「やれやれ……仕方ない。こいつをサブリナに返しておくれ」

 あらかじめ書いていた受領の文を白鳩の足にくくりつけ、窓から飛び立つ白鳩を見送った。


 ***


 クライドの安息はしばらく訪れないだろう。

 今、まさにサブリナは窮地に陥っていた。溝の底に沈み、身動きが取れないのである。

「あー……どうしよう……」

 彼女の消息がまたも途絶えた。

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