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新たなる犠牲者たち

それから数日後、また犠牲者が出た。


今度はグリセリンキッドだ。

自宅マンションのベランダで上半身が灰になった状態で発見された。


警察は捜査を進めているそうだが、手がかりは掴めていない。俺は恐怖に怯えながらも、ファスナーの注文をさばき続ける。


さらに数日が経った。

また犠牲者が出る。

ミスターバクテリオだ。


自宅のキッチンで何者かに襲われ死亡した。

警察によると今度は下半身が灰になっていたらしい。


食べ残しの野菜くずにかじりつく食用なめくじを見ながら、次の犠牲者を予想し、俺は恐怖に震える。


犯人は『本物』の怪人だろう。

いくら何でも人体の一部を灰にするなんて芸当が普通の人間に出来るはずがない。

偽ヒーローたちは本物の怪人に狙われているのだ。


俺もいずれ殺されるかも知れない。次は俺の番かも知れない。


「……」


更に数週間後、俺の運営していたファスナー専門サイトは大盛況を博していた。

通販サイトにはファスナーを求める人々からの注文が殺到し、運営から支払われる給料はこれまでの数倍に跳ね上がった。だが、俺はもう何もやる気が起きなくなっていた。また新たな犠牲者が出たからだ。


「あぁ……」


強制キス三郎が灰になって死んでいた。アヒルガーガーも殺された。

引き裂き係長とストレッチパンダに至っては語るに堪えない無残な姿で発見されている。

マネージャーからの連絡はない、事務所に問い合わせたら無視された。


次は俺かもしれないと怯える日々が続く、こんなことが永遠に続くなんて耐えられない!


「だ、大丈夫だよな……ま、まだ、偽ヒーローは残ってるんだし……」


情けねえ……何言ってんだ俺は……本物のヒーローなら、ここで皆のために立ち上がるべきなのに……。


でも無理だ。俺はヒーローじゃない。怖いし。死にたくもない。

俺は臆病者だ。俺はソファの上で膝を抱えながら、ただひたすらに自分を責め続けた。


俺に家族はいない。

俺が死んでも悲しむ人はいない。友人も恋人も、誰ひとりとして存在しない。付き合いがあるのはすべてビジネス上の関係だ。

でも、それでも……俺は死にたくない。生きていたい。せめて死ぬ前に一度でいいから彼女くらい欲しかった。


「……ッ!!」


その時、インターホンの間の抜けた音が鳴った。


誰か来たのだろうか。俺は動くことが出来ず、息を潜めて玄関の方を見つめる。そんなわけもないのに、身じろぎ一つすれば外に立っている何者かに気付かれてしまう気がして、身動きが取れなかった。


もう一度、インターホンが鳴る。

俺の緊張は一気に高まる。俺はまだ動けずにいた。


警察なら「警察だ」とでも言ってくれたり、ノックの一つでもしてくれるはずだ。だが、そんな様子は微塵もない。俺は息を潜めながら、じっと身をかがめることしかできなかった。


その時、三度目のインターホンが鳴り響く。

だが、いくら待ってもノックの音は聞こえない。


「…………」


嫌だ。絶対出て行かないからな。

俺には力がない、少なくとも怪人と戦う力はない。

だが、これが俺の戦い方だとばかりに俺は口を押え、鼻に指を突っ込み、必死に息を殺し、やり過ごそうとする。そして数分が経過し、ドアの向こうにある気配が消えたような感覚を覚えた。


「(……行ったか?)」


俺は這うような姿勢で恐る恐る玄関に近づくと、そっとドアスコープを覗き込む。

そこには誰もいなかった。どっと力が抜け、抑えていた汗が噴き出す。


「なんだよ、俺を殺しに来たんじゃねーのかよ……」


思わず口に出してしまう。

その時、背後からいきなり声をかけられた。


「ピンポーン、大正解」

「……おっ、ぉおっ!?」


慌てて振り返ると、そこには全身黒ずくめの男が立っていた。その顔は燃え盛る青い炎に包まれ、表情は一切読み取れない。


「お、お前……ッ」


俺は腰を抜かし、尻餅をつく。

男は青い炎を揺らめかせながら、一歩ずつ俺に近づいてくる。


「ある時はアーマードトロル、またある時は千獣鬼ボアキング、そしてまたある時はクリムゾンオーガ、しかしてその実体は……」


男は何かブツブツと呟いている。

その言葉の意味を理解する暇もなく、男の手が伸びてきて俺の首を掴む。その力は尋常ではなく、気道が塞がれ息が出来なくなった。


「偽怪人、ギガボンバーだな」


俺は必死に男の手を外そうとするが、まるで万力に挟まれたかのようにびくともしない。

数100キロの重量が頸椎にかかり、首の骨がきしむ。


「あかッ……あ……」


目の前がチカチカと点滅し、意識が遠のく。このままでは本当に殺されると思ったその時、リビングのテーブルに向って思い切り投げ飛ばされた。

俺の身体は吹き飛び、なぎ倒されたテーブルはバラバラに砕け散った。頑丈だ思っていたテーブルが、まるで発泡スチロールのように粉々になっていた。

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