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詩《うた》をきかせて  作者: 生永祥
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☆第12話 フルーツキャンディ

 すると教室の出入り口のところで、大賀の横に並んで立っていた笹野明博ささのあきひろが、すっと小夜子の隣にやって来て小さな声で声を掛けた。


「立花さん、大丈夫?」


 突然明博に声を掛けられ、驚いた小夜子はどもりながら明博に返事をした。


「わ、私は大丈夫だけれど、あっちの二人が……」

「あぁ、あれは二人のスキンシップみたいなものだから。立花さんが気にすることはないよ」


「そんなところにずっと立っていたら寒いよ」と言って、明博は小夜子を教室の中へと誘った。そして教室の出入り口の引き戸を静かに閉じて、小夜子の方へと振り返る。


 しかしそんな明博の様子に気が付くことも無く、小夜子はまだ口論が続く二人の様子をぼんやりと見ていた。


 大賀と美香の様子を黙って見ていた小夜子の頭の中は、ずっと若菜のことでいっぱいだった。自分のせいで若菜が大変な思いをしているのかと思うと、とても胸が痛くなる。

 それを察したのか、明博が小夜子の顔を覗き込んでこう言った。


「若菜先生なら大丈夫だよ」

「え、え?」


 その言葉に、小夜子は慌てて明博の方へと振り返る。


「だから安心しなよ」と言って、明博は床に置かれていた小夜子の鞄を手に持つ。そして廊下側の前から3番目の席の横に、小夜子の鞄を置く。

 その行動と言葉に驚きながら、小夜子は明博の後を付いて行った。


「……さ、笹野くん」

「うん?何?立花さん」

「で、でも若菜先生、さっき、入院したって……」


 スカートの裾をぎゅっと握りしめながら、小夜子は明博の方を向いた。

 明博はスカートの裾を握りしめる小夜子の両手が、小刻みに震えている事に気が付いた。

 そんな小夜子に微笑みかけながら、明博は穏やかな声でこう言った。


「立花さんが心配することは無いよ。若菜先生、今日は研修でお休みらしい」

「え、え?」

「さっき大賀と一緒に、職員室に行って確認してきたから、間違いないよ」


「きっと噂が一人歩きをしたのだろうね」と続けながら、明博は小夜子の顔を覗き込んだ。


「それにね。僕と大賀が、昨日の立花さんと若菜先生の様子を見ていたのだけれど。立花さんは自分の鞄を若菜先生の足にぶつけただけでしょう?確かに痛そうだったけれど、あれで入院するような先生ではないよ」


「だからそんな顔はしない」と言いながら、明博は鞄に入れていたフルーツキャンディをひとつ取り出し、それを小夜子に手渡した。


「食べると落ち着くよ」


「あっちの二人にも渡したら落ち着くかな?」と言いながら、明博はまだ激しく口論を続けている大賀と美香の間に割って入った。

 突然明博にキャンディを手渡された二人が、拍子抜けをして口を閉ざす。


 その様子を見つめていた小夜子はようやくほっとして、震える手でキャンディの透明な包み紙を開いた。封を切ったキャンディを勢いよく口に含む。

 すると檸檬の甘酸っぱい香りが、小夜子の鼻孔を強く刺激した。


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