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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第8話 〜金トサカのオルシス〜

 森の隙間の小さな村。陽光の中、人間とオークの乱闘が繰り広げられていた。


「兄貴!!」

灰色の毛が赤黒く染まったハイオーク、大斧の主を見上げて声を出した。


「おう。

 これはどういう事だ。

 なぜ人間がここにいる?」

黒い毛の巨体、どのオークよりも大きな体と、それを更に大きく見せる金色のトサカ。

 ハイオークの更に上位種グレートオーク、こいつこそが群れのリーダーだった。


「俺もよくわからねえ。

 あっちの男が魔王で、この女が強え」

傷だらけのハイオークは、動かせぬ体を一旦休ませながら理解した事を伝える。


「魔王?

 そんな馬鹿な話があるかよ。

 そもそも魔王が誕生したなんて聞いた事もねえ。

 なのにこんな辺境に居るわけねえだろがよお!」

グレートオークは、赤髪の少女と金髪の青年を見回していた。


「アリシア!」

ガーランドが大声でアリシアを呼ぶ、その声は戦場すべてに響き渡るほどのものだった。

 これは事前に決めていた事、不測の事態が発生した時。撤退の決断を問う合図。

ガーランドは、真剣な面持ちでアリシアを見つめていた。返答次第では即時撤退を全体へと伝える事になる。


「ガーランド様!

 心配する事はございません。

 こいつはわたくし1人で倒してみせます!」

アリシアの即答。ハイオークより強いとはいえ、アリシアはまだ全力を出してはいない。

自信と村を救いたい想いが、アリシアを奮い立たせる。


「いいだろう!

 お前に任せよう!」


「ありがとうございます。

 ガーランド・・・様」

アリシアは、剣を構えて一気にグレートオークへと斬りかかった。

 ハイオークと戦った時よりも更に早く、鋭く切り込んでグレートオークを翻弄する。

 グレートオークは大斧を振り回すが、まるで当たる気配が無い。

ただ、振り回された大斧は辺りの木々をなぎ倒し、空振りながらも風圧が家を揺らす。

振り下ろしは地面にも深く突き刺さり、グレートオークが大斧を地面ごと持ち上げる。

強烈な横薙ぎでそれは石つぶてとなり、アリシアへと向けて放たれた。


 石つぶては土壁の家に突き刺さり、木の柱を折って崩壊させる。

だがアリシアには通用して居なかった。すべての軌道を見切り、躱してグレートオークの懐へと入る。

 アリシアの剣がグレートオークの腹を裂き、さらなる追撃でグレートオークを切り刻む。

肉を裂く音と飛び散る血、それはグレートオークが膝をつくまで続けられる。


「ぐっ」

グレートオークの巨体で地面が揺れる。

今にも倒れ込みそうなグレートオークを見て、アリシアは一旦距離を取った。


「貴方がこの村を襲う指示を出したのですか!」

アリシアが剣を突きつけて猛る。


「だからなんだってんだ、人間。

 てめえになんか関係あんのか?」

グレートオークは、息を切らせながらアリシアを睨みつけた。


「関係なら大ありだと言っています!

 ここは魔王ガーランドの支配地!

 この村は我々の庇護下にあるのです!」


「だから魔王ガーランドなんて知らねえって言ってんだろ!

 それによ、勝ち誇るのはよ。この金トサカのオルシス様を倒してからの話だろうがよ!」

オルシスの咆哮で大地が軋む。その威力は風圧となって辺りを吹き飛ばし、全員の戦闘を中断させる。

 注目が集まる、金トサカのオルシスは立ち上がり、大斧を構えていた。

 到底立ち上がれない重症だった、むしろ致命傷といえるほどの。

だが既にオルシスの血は止まり、体中の傷は全て塞がっている。大きく開いていた腹の傷でさえ。


「そんな!

 立ち上がれるなんて」

オルシスの咆哮に押されながら、アリシアが驚く。


「金トサカのオルシス様は不死身よ!

 人間ごときに俺様は倒せねえ!」

オルシスは自慢げに笑い、アリシアを指さした。


 固有スキル保持者。死から最も遠い者、超再生能力。

オークの上位、ハイオークすら凌駕するグレートオーク。

だが金トサカのオルシスは、通常のグレートオークですらなかった。

 オークの統率者。世界最強のオーク。オークキングへと至る道半ばの者、王の候補者オルシス。



 アリシアは、再度オルシスを翻弄して切り刻む。

だがその傷はすぐさま回復し、オルシスは構わず大斧を振り回す。

オルシスには元々回避する気が無い。当然の事だろう、する必要が無いからだ。

 アリシアの攻撃は、決して軽いものではない。その洗練された剣技は大木をも両断する。

 一つの考えに至り、アリシアはオルシスの足元を切り崩す。

足元の再生が終わらぬうちに、アリシアはオルシスの左腕を切り飛ばした。

宙を舞う左腕はそのまま地面に落ち、オルシスは苛立った顔でアリシアを見下ろす。


「チッ!

 当たりゃしねえ!」

悪態をついて舌打ちをするオルシス。

 左腕の再生が始まっていた、欠損した部位ですら再生する超再生能力。

切り傷のように一瞬とはいかないものの、アリシアが呼吸を整える間に左腕が元に戻る。

地面には全く同じ形をした、オルシスの左腕が転がっていた。


「くっ!!

 これでも駄目ですか・・・」


「これが俺様の力よ!

 どれだけ切り刻まれようとも俺は死なねえ!」

再生したばかりの左腕を確かめ、オルシスはアリシアを指差す。


 両者の戦いは拮抗しているとは言える。

素早い動きで攻撃が当たらないアリシア。傷がすぐさま再生するオルシス。

だが、もし大斧がアリシアを捉えたら。地面を破壊し、家を振動させる程の威力。無事ではすまない。

一方のオルシスはどれだけ食らっても問題がない。振り回している斧が当たりさえすれば良い。

このまま戦うのはまずい、アリシアはそう感じていた。


 アリシアは大きく息を吸い、またもやオルシスの足元を狙い剣を走らせる。

またもや足元を切り刻まれ、オルシスは振り回した大斧を支えきれずに膝を崩す。

 それを見たアリシアは大きく跳躍し、大上段に構えたショートソードが光り輝く。

狙いは首。いくら超再生能力といえど、首を落とされても生きているなどあるはずがない。


「ライトソードブレイカー!!」

アリシアの声とともに、真っ直ぐ剣が振り下ろされる。

 オルシスの首を切り落とさんとするその攻撃。だが、その狙いにオルシスは気づいていた。

 黒く太い腕が宙を舞う。オルシスの左腕。それは再度切り落とされ、二本目も地面に落ちた。

だがオルシスの首は落ちてはいなかった。首元に剣は食い込みながらも、威力のほとんどは左腕が吸い取っていた。

 オルシスはにやりと笑い、右腕でアリシアを殴りつける。

剛腕。黒い右腕が真横からアリシアを捉える。とっさの反応でアリシアは左腕を上げ、体への直撃だけは防いでいた。

しかしその右フックの威力は凄まじく、軽いアリシアは真横に飛んで家壁を破壊する。

 オルシスは再生していく左腕を確認しながら、地面に刺さった大斧を引き抜いて構えた。


「次はてめえか?

 魔王様よお」

大斧を肩に担ぎ、再生したばかりの左腕でガーランドを指差す。


 ガーランドは静かに立ち尽くしていた。

腕を組んだまま、動くこともなく。だがその顔は平静とは程遠い。


「黙ってろ!」

アリシアの代わりに戦えるなら、とっくに代わっている。

 ガーランドは、言葉を続けずに喉の奥へと押し込めた。

なぜ自分は隣で戦っていない?なぜアリシアを守る事が出来ない?

『勇者』などと贅沢を言うつもりはない。なぜ自分は戦える恩恵とスキルを持っていない?

わかっている。自分がオルシスに勝てない事も。彼女の隣で戦えていない自分への怒りが形相に現れていた。


「終わったつもりになってんじゃねえ!

 アリシアが任せろと、勝つと言った。

 ・・・お前の相手は俺じゃない。

 お前を倒すのは・・・、アリシアだ!」

倒壊した家壁を指差しながら、ガーランドの怒りを込めた怒号のような声が響く。

 気迫のような威圧とも感じられる怒り、矛先はオルシスでは無かったが、あまりの形相にオルシスは怯む。

 オルシスにとっては不思議な感覚だった、この男の言葉には何かを感じる。

正しく、そして従うべきものであるかのような強さ。モンスターを統べる者。魔王。

一瞬だけよぎった言葉を振り払い、オルシスはガーランドが指し示す方へと目を向ける。


「信じてくださいまして、

 ありがとうございます。

 ガーランド」

そしてごめんなさい。わたくしが弱いばかりに、貴方にそんな顔をさせてしまった。

 貴方の分まで戦うと決めた。ガーランド、戦う力が無いと自分を卑下してほしくない。

 こんな事を言うと貴方は怒るかもしれないけれど。貴方は強いわ。訓練で一度も勝った事の無い、わたくしが言うのですもの。

わたくしは弱い。所詮神の恩恵に恵まれ、神の力で貴方より強く見えているだけ。


「全て間違って無いはずだ、そうだろ?アリシア」


「ええ、あいつはわたくし1人で倒せます!」

ボロボロの体で、それでもアリシアの目は強い意思を持って答えた。

 アリシアには確信があった、オルシスは左腕で防御をした。なぜ?

頭すら再生できる、不死身の再生能力があるのであれば防御など必要無い。

頭は再生出来ないから、再生が出来る左腕を防御に使った。オルシスは不死身じゃない。

 アリシアは右手で剣を構え、オルシスを見る。

左腕は上がらない、体が軋む。それでも勝てるとアリシアは確信していた。


「勝てよ、アリシア」

ああ、力が湧いてくる。勇気が湧いてくる。

 ガーランドが近くに居てくれる。わたくしを信じてくれている。

だからわたくしは戦える。理不尽な暴力と支配を行う悪と戦うのが、わたくしの『勇者』。

 ガーランドの言葉がわたくしを強くする。幼い頃から彼の言葉に間違いなんて無かった。

わたくしがここまで強くなれたのも、戦うべき悪も。全て彼が示してくれた。

 彼の隣に居ると、わたくしは正しい行いをしていると信じられる。


「金トサカのオルシス。最後です。

 罪の無い住民を殺害した事を償うつもりはありますか?」


「償う?

 強えやつが好きな事をして何が悪い?」


「そうですか。・・・では貴方の正義に合わせましょう。

 わたくしの正義。貫かせて頂きます」

アリシアは体勢を低く、鋭い矢のように剣を構えた。

 幼い頃、言われた事を思い出す。




 あれは10歳くらいの頃だろうか、王城でガーランドと訓練をしていた時。


「アリシアは、小さくてすばしっこくて。

 本気でスキルも使われたら、僕じゃ追いつけないよ・・・」

金髪の少年、ガーランドが悔しそうに頭をかく。


「だからさ、大きな大人に力で敵わなくても、

 アリシアのスピードで翻弄しちゃえば絶対勝てるよ!」

わたくしのスピードは、オルシスが反応出来るほどに遅いの?

そんなはずはない。もっと!もっとわたくしは速い!


 大きく息を吐き、アリシアは全てのスキルを発動した。

『身体能力強化+』『剣技』『俊敏+』『足運び+』『頑強』『見切り』

スキルの強化を分散せず全てを一点に、自分のスピードを強化する事だけに全てを注ぐ。

 限られた短時間しかスキルが発動出来ないから、ガーランドはいつも工夫している。

必要な瞬間だけ、必要な能力を強化したり、強化を一点に絞って爆発力を上げたり。

このスキルの使い方も、ガーランドが教えてくれたものだ。



 アリシアは一直線にオルシスへと突撃した。

飛んでくる矢を防ぐように、大斧で受けを試みるオルシス。

 だがアリシアという矢は軌道を変え、大斧をすり抜けてオルシスへと肉迫する。

オルシスは迎撃を試みて、振り回す左腕は空を切る。

アリシアは三度オルシスの足元を崩し、またもやオルシスは膝を付く。

 不意に飛び上がった影を目の端に捉え、オルシスは空を見上げた。


「剣の・・・鞘?」

飛んだものはアリシアの手から投げられた鞘。

 アリシアは、下からオルシスの首へと剣を振るう。

空へと意識を向けていたオルシスには反応が出来ない。

 もしかしたら、鞘が無くとも反応は出来なかったかもしれない。

それほどに速く、鋭い剣がオルシスの喉を通過していった。


 オルシスの首が地面へと落ちる。

反射的に上げていた左腕は、3本目が地面へと落ち、オルシスの体も制御を失った。

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