表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
7/13

第7話 〜村の奪還作戦〜

 カトラ村、冒険者組合事務所。

村の集会所を改装した、この仮設事務所で対策会議が始まった。

 現場を確認した冒険者達、トリスタン男爵と村長のゴドラン、そして王都からの役人や兵士長。

そしてそこにはガーランドとアリシアの姿もあった。


「20体〜25体のオーク、そして1体のハイオークか・・・」

壮年の兵士長がため息をつく。


「占拠されているのは、ワーウルフの村。

 それもグランダル王国領外、魔王領でしょう?

 彼らは税を納めているわけではありません。

 わざわざ助ける理由があるのですか?」

綺麗な身なりの役人が、顔色を伺うようにまわりへ問う。


「理由なんて!!

 虐げられ、支配されている民を救うのに理由などいりません!!」

アリシアが憤る。その心は全て言葉と叩きつけられたテーブルに現れていた。


「『勇者』の恩恵を持つ、アリシア様はそれで良いでしょう。

 ですが我々はそうは行きません。

 兵を動かして、大規模な奪還作戦を行うには費用がかかります。

 ただでさえ魔王領の探索で、冒険者へ大金を支払っているのですよ!

 ここからさらに大金をかけてまで、モンスターの村一つ救うのですか!」


「金の問題はともかく、20体以上のオークが侵攻して来たらどうする?」

トリスタンの声が、出兵の是非を巡る討論を切り裂いた。


「そ、それは・・・」


「オーク共が、流れ者の盗賊だとする。

 いずれ襲撃した村を捨てて、次の獲物を探しに行くんじゃないか?」


「確かに報告によれば、オークは魔王領の奥地から侵攻して来ている。

 このカトラ村、グランダルへとたどり着くかもしれない」

兵士長が腕を組み、トリスタンの言葉に同調した。


「そ、それならば!

 冒険者に討伐依頼と言う形で出しましょう!

 どちらにせよ村に駐留している兵では足りない、王都から兵を呼ぶよりは良い。

 王都の冒険者組合にも依頼を出して、冒険者をかき集めれば・・・」

役人が立ち上がって、まわりへの同意を求める。


「オークの数が最大25体。

 ハイオークをアリシア様に任せたとして、

 必要な冒険者は40人と言ったところか。

 村の駐留兵は11人。カトラ村を拠点としてる冒険者が20人程度。

 足りないな・・・」

兵士長が現状を分析し、難しい顔をしてうなる。


「村の奪還に関して、作戦があります。

 聞いていただけますか?」

ガーランドの声が響き、全員の注目が集まった。




 夕暮れのに村人達が忙しく働く中、冒険者組合事務所の会議もようやく終わりを迎える。

様々な提案がされたものの、どれも決定的なものにはならなかった。

 結局は最初に出たガーランドの案が採用され、準備をして明日には決行される事となる。


「全く・・・、ただでさえ金がかかるのに、

 モンスター共を養ってなんの利益があるというのだ・・・」

役人が、いまだ収まらぬ不満を漏らしながら部屋を出た。


「ガーランド。

 わたくしが必ず貴方を守ります。

 だから、絶対に成功させましょうね!」

アリシアの純心な笑顔がガーランドを照らす。

 ガーランドは、少し拳を握りしめて太陽のような少女を見つめ返していた。





 森、そして山。

歩いても進んでも途切れない木々。深い森の中にその村は存在していた。

 人目を避けて、隠すように作られたワーウルフの村。今はオークに蹂躙され、ワーウルフの姿は見えない。

村を闊歩するのはオークばかりで、生きているワーウルフはここには誰も居なかった。

 今日もオーク達は略奪品をあさり、食料を見つけては食らい、酒で腹を満たしている。

 茶色がかった体毛に分厚い脂肪、それを支える大きな体と筋肉、そして豚のような顔のオーク達。

大柄で屈強なオーク達、その中でもさらに一回り大きなハイオークがこの集団の中心に居る。

彼はおそらく、集団のリーダーなのだろう。


 彼らオークの襲撃は大胆で大雑把なものだ。

手にした大剣、大斧、棍棒を振り回して壁を破壊し、大きな音を立てて威圧する。

 だからなのだろう、彼らは音を立てずに侵入した小さな影に気づく事は無かった。

オークに比べると小柄、しかし人間としては十分に体格が良く、たくましい金髪好青年のガーランドがハイオークを睨みつける。


「貴様ら・・・

 この俺の領地で随分好き勝手やってくれたな!」

怒りと恫喝。眉間にしわを寄せ、オークからの注目を浴びたガーランド。

 温厚で優しい笑みを持つ、普段のガーランドからは想像も出来ないものだ。


「なんだチビ。

 小さくて体も細いくせに、俺達に文句があるのか?」

オークの一匹が、ガーランドを笑いながら罵る。


「愚かものめ。

 いかに覚醒したばかりとはいえ、

 この魔王ガーランドを知らぬか」

目をつぶり、一呼吸の後に剣が走る。

 茶色の太い腕が宙を舞う、オークはその腕が地面に落ちるまで、自身の腕だという事に気が付かなかった。

ガーランドの剣がオークの腕を切り飛ばし、オークは痛みに耐えかねてうずくまった。

 酒と食料にうかれていたオーク達の表情が変わり、鋭い目つきで武器を取る。


「貴様!」


「よくもやりやがったな!」

4体のオークがガーランドへ仕掛ける。

剣や斧、それぞれに使い慣れた武器を振り上げ、仲間を傷つけた者へと斬りかかった。

 ガーランドはそれを事もなげに躱し、全てを斬り伏せる。

あっという間に、ガーランドまわりには4体のオークが倒れていた。


「本当に強いよね、ガーランド君」

森に隠れ潜み、機をうかがっていたストナは、目の前の光景に驚いていた。


「ああ、

 だが彼の言ってたとおりそろそろ限界が近い。

 事前にかけた強化魔法も、彼のスキルも効果時間が切れる」

ラルは自身の出番を感じ、剣を構えて合図を出す。


「まずは魔王ガーランドが切り込んで力を見せつける。

 オーク共が怯んだところをたたみ掛けて、魔王配下のアリシア様がハイオークを倒す。

 ハイオークより強いアリシア様、それを配下にしている魔王ガーランド。

 強い者に従う、オークの習性を利用した作戦の第一段階は成功だな」

ダンが盾や武器を見直して、仲間へと渡す。


「よし!じゃあ出るぞ!」

ラルの号令で潜んでいた冒険者達が飛び出す。

20人の冒険者達が、オークの集団を取り囲んで大規模な戦闘となった。

 ラルのパーティ、そしてカイオのパーティもこの戦闘の中に居る。

冒険者達は、連携の取りやすい仲間達と陣形を組み、1〜2体のオークへと立ち向かっていた。

 その中に1人、赤髪の少女が真っ直ぐに魔王ガーランドの御前へと歩み進む。


「魔王様、ここはわたくしにお任せください」

アリシア王女は綺麗な所作で跪き、魔王ガーランドへと上申する。

それはまさに、魔王様へと自身の力を見せるべく邁進する部下を思わせる。

 もちろんそんな事は無い。アリシアは王女で、ガーランドは先日男爵位が与えられた男の一人息子だ。


「良いだろう、このハイオークはお前に任せる」

そう言ってガーランドは、剣をしまって腕を組み、近くの木へと寄りかかる。

 もう既に限界だった。ガーランドにかけられた強化魔法も、使用していた汎用戦闘スキルも全て効果が切れている。

オーク4体を一斉に切り捨てるどころでは無い、1体が相手でも勝てる見込みが無い。

 ガーランドは拳を固く握り込み、隠すように組んだ腕の中へとしまい込む。

誰にもこの気持をさとられないように、強敵へと向かう彼女を不安にさせないように。


 ガーランドは、自分に渦巻く複雑な感情を整理出来ずにいる。

これは怒りだ、戦えない自分への怒り。これは悔しさでもある、戦闘への適性が無い事への。

憧れもある、全ての戦闘スキルに適正を持つ勇者アリシアに。

そして悲しみ、一番守りたい大切な人に守られる現実。どうすることも出来ない諦め。

全ての感情を混ぜ合わせて、アリシアの戦いを見守っていた。


 アリシアはハイオークを圧倒していた。

ハイオークの緑がかった灰色の毛は、血に染まり赤黒くなっていく。

大振りな斧は全て空を切り、小ぶりな剣は肉を裂く。

 アリシアは複数の戦闘スキルを高いレベルで習得し、常駐化している。

『身体能力強化』『剣技』『俊敏』『足運び』『頑強』『見切り』

 恩恵を持ち、適正があるスキルは一定レベル以上で常駐化となる。

更に自身の魔法力を使い、常駐化したスキルの効果を短時間だけ高める事も出来る。

常駐化した『身体能力強化』に、更に『身体能力強化』を併用できるのだ。

 スキルの常駐化。適正の無いスキルは常駐化出来るレベルまで到達出来ない。

これこそ戦闘適性の無いものが、戦いに向かない最大の理由だった。

スキルの効果時間が短く、継続戦闘能力が無いのはもちろん、爆発力も劣る。

常駐化の有無により、絶対に越えられない壁がそこにはある。


「くそっ!」

形勢が不利だと見たハイオークは、斧を大きく振りかぶってアリシアに襲いかかる。

アリシアはそれを余裕で躱し、強力な蹴りでハイオークを突き飛ばした。

 力の差がはっきりと感じられるよう、あえてアリシアは余裕を持って痛めつけている。


「魔王ガーランド様の領地を荒らした罪、

 そして平和に暮らしていたワーウルフを殺した罪。

 全てその体で償ってもらいます!」

アリシアはハイオークを睨みつけ、王家の意匠が付いたショートソードを突きつける。

 村の惨状を見て、アリシアは怒りに打ち震えていた。

無惨に殺され、家の裏に捨てられたワーウルフの遺体。

激しい戦いで遺体は傷ついてるが、ほとんどが男性体に見える。皆、村を守るために戦ったのだろう。

あの母親の夫、あの子の父親もその中にいるのかもしれない。

 鬼気迫る表情で、アリシアはショートソードを振りかぶる。その斬撃は、ハイオークの首を切り落とすには十分な威力があるように感じられた。



 強烈な鐘の音を思わせる轟音が辺りに響く。

乾いた打撃音、金属が金属を打ち付ける音。ハイオークの首は撥ねられる事はなく、地面に突き立てられた大斧により阻まれていた。

 ハイオークの顔前でショートソードと大斧が交差する。アリシアはショートソードから伝わる痺れと共に、大斧の持ち主を見上げる。

 黒色の体毛をして、オークよりもハイオークよりも更に大きなオーク。

黄金のトサカを日の光で輝かせる、巨体のオークが大斧の持ち主だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ