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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第6話 〜アリシアの勇者〜

 陽気なゴブリン達に見送られ、きれいになった砦跡から森の奥地へと向かう。

冒険者ラルの4人パーティ。カイオの3人パーティ。そしてガーランドとアリシア。

モンスターを警戒しながら、9人は森を切り開いて進む。

 昼のうちに進めるだけ進み、ようやく行程の半分を踏破したと言ったところ。

今夜は川のほとりで野営をし、明日の昼には到着できる見込みになっていた。



「それでは、カイオさん達は同じ村の出身なのですね」

ガーランドが、食卓を囲むカイオに尋ねる。


「ああ、村での日常が退屈で、

 俺と、ナーラとコリン。

 3人一緒に冒険者を始めたんだ」

黒髪の青年。軽装の冒険者が好む格好をしたカイオが答えた。

 他の仲間も同じような格好をしていた、灰色かかった髪をしたナーラ。

白髪のコリン。斥候部隊といった装いの3人組は、自ら率先して魔王領の調査を進めている。


「王都で仕事をしていた頃から調査専門だったな。

 俺もカイオの調査をいつも頼りにしている」

ラルが思い返すようにして話す。


「だから、・・・なんというか。

 ・・・こうなってしまったのは、すまないと思っている」

カイオが目をふせ、ナーラとコリンが身構える。


「皆!武器を!!」

アリシア王女が、立ち上がり武器を構えて警戒する。

 野営の火を中心に、森から複数の人影が現れた。

人のような影は、その全てが人間ではない。毛深い容姿に犬の顔。ワーウルフと呼ばれる人型のモンスター。

50体をこえるワーウルフが冒険者達を取り囲み、もはや逃げ場など無い。

 そしてカイオ、ナーラとコリンの姿も変わっていく。

それぞれ髪の色と同じ色、毛深い容姿のモンスターへと変貌していった。


 緊張が走る。カイオが息をのみこみ、覚悟を決めて体を動かす。




「勇者様!どうか俺たちの村をお救いください!!」

カイオの動きに合わせ、ナーラ、コリンが同じように地面に頭をつける。

 3人は懇願するようにアリシア王女に向けて頭を下げた。


「えっ!?」

呆気にとられたアリシア王女は、緊張がとけたように声をあげる。

 周辺を取り囲んでいたワーウルフは、次々と頭を下げて冒険者たちを取り囲む。

よく見ればワーウルフは、誰一人武器を持っていない。女性や老人、子供までその場に居るのだ。

 これは襲撃などではない。助けを求めている普通の村人。疲れた顔をして、怪我をしているものも居た。

助けを求めているのがモンスターというだけで、人間との違いなど種族というただ一点のみ。




「この先にある村は、ワーウルフの村。

 俺達が生まれた村です」

黒い毛のワーウルフ。カイオが不安そうな顔で話す。


「僕達の村がオークに襲撃されたのが3日前。

 調査の合間で、偶然村に戻っていた僕達では対処が出来なくて、

 それで、モンスターでも助けてくださる『勇者』様と、

 モンスターの指導者である『魔王』様ならば・・・」

白が強い灰色の毛のコリンが、纏まらない言葉をつなぎ合わせ、要領を得ず先がつまる。


「身勝手なお願いなのはわかっています。

 お願いします!勇者様。

 俺達の村を救ってください!」

灰色のワーウルフ、ナーラが切実な表情でもう一度頭を下げる。




「ガーランド。

 一旦カトラ村へ戻りましょう」

緊張で言葉が止まった中、アリシア王女が声を発した。

 その言葉でワーウルフ達に動揺が広がる、不安の声と落胆の声が少しずつ浸透していった。


「そうですね。

 子供や老人もいます。

 皆疲れているようですし、今晩は休むとして、

 明日の朝には出発しましょう」


「それが良いわ。

 人数分の食料や寝る場所は足りるかしら?」


「食料は短期間ならなんとかなると思います。

 寝る場所も、砦と村で分散すれば足りるのではないでしょうか」


「えっと・・・?

 それはなんの相談でしょうか?」

困惑したカイオは、二人の会話の意味がわからずアリシアを見た。


「大勢の村人を連れて奪還作戦なんて出来ないわ。

 だから一旦カトラ村へ帰還して、全員を保護します。

 それから編成を組み直して、奪還作戦を立てます。

 それでよろしいですか?カイオ」

アリシアは、カイオに微笑みかけて答える。


「アリシア王女様、それでは!」


「はい!

 困っているものに人間とかモンスターとか関係ありません!

 私は理不尽な支配と戦う勇者なのですから」


「ありがとうございます。アリシア王女様!」

カイオが涙をためて感謝を伝え、アリシアへとひざまずく。


「あ、それとカイオさん。

 こういう事はもっと早く言ってくださいね!

 出発前に伝えてくれれば、もっと準備が出来たんですよ!」


「・・・申し訳ございません。

 まさか快諾してくださるなどと、思いもしませんでしたので」


「うん。

 わかってくれたなら良し!」

アリシアの笑顔とともに、ワーウルフ達に安堵が広がる。

 そうして冒険者達と、53匹のワーウルフ達は野営地で眠りについた。




 大きな体をドスドス揺らし、赤毛のトットが走る。

すぐに息が切れ、膝に手をついて顔を下げた。


「おーい、トット」

ガーランドが友人へと手を振る。

 その後ろには冒険者の集団と、大勢のワーウルフがひかえていた。


「先行して帰って来たカルニアさんから聞いてはいたが・・・」

トットはなんとか顔を上げ、ワーウルフの数に圧倒されて言葉を止める。


「53人いるらしい、犬種の育成士トットの腕の見せ所じゃないか?」


「53って。

 そもそもワーウルフって犬種のモンスターで合ってるのか?

 言葉を使える犬種なんて扱った事がないんだが」


「多分大丈夫だよ。

 皆疲れている、食事と寝る場所の手配はどうだ?」


「王都の役人と俺の親父でやってる。

 ただ、やっぱりモンスターって事でビビっちまって。

 他の村人は家を貸してくれそうにない」


「危害を加えるようなモンスターでは無いんだけどな。

 トットならわかるだろう?」


「まあ見た感じ大丈夫そうだけどよ。

 家畜化してない野生のモンスターなんて、そりゃビビるだろ」


「アリシア様やストナさんとかは全然平気そうなんだけどなあ・・・」

困った顔をして頭をかくガーランド、その後ろからは女性達の黄色い声が漏れ聞こえていた。



「まあ可愛い、ワーウルフは赤ちゃんの頃からふわふわなのですね」

アリシア王女の声が響く。

 ワーウルフの母親、そして抱かれた赤子をアリシアとストナで囲んでいた。


「どんな種族でも子供は可愛いですねえ。

 あ、こっち見ましたよアリシア様」

既に毛深く、子犬のような見た目のワーウルフの赤子。

 小さな手でアリシアの指をつかみ取って少し笑う。

アリシアは、嬉しそうに愛おしそうにその小さな手の感触を確かめていた。



「勇者様、よろしければ抱いてみますか?」


「お預かりしてよろしいのですか?」


「はい、貴女のような方でしたら」

そう言って、ワーウルフの母親はアリシアへと子供を預ける。

 アリシアは、自分の子供を抱くように優しく赤子を抱えている。


「勇者様は、モンスターを敵視していないのですね。

 人間、特に勇者様は、創造主サテラ様の生み出した我らと敵対しているものかと、思っておりました」

ワーウルフの母親は、一つの疑問を投げかけた。


「わたくしの大切な人の、大好きな考え方。

 種族に善悪などない。

 人間でも、モンスターでも守るべき良き民は居ます。

 こうやってお話も出来て、可愛らしい赤ちゃんも抱かせてくれましたし。

 貴女は優しい母親で、モンスターの村人です。

 わたくしの『勇者』の恩恵は、良き民を守るためにあるのです。

 人間の村人となんの違いもないでしょう?」


「勇者様っ・・・!」

ワーウルフの母親は、涙ぐんで言葉がつまる。


「必ずわたくし達で村を取り戻します。

 だから、安心して待っていてください」



「おう、ガーランドにアリシアちゃん。

 そろそろ会議だぜ」

ガーランドによく似た体つきの良い男性が声をかける。


「おじさまっ!

 あ、いえ、トリスタン男爵」

金髪に顎ひげ、ガーランドと同じように爽やかな笑顔のトリスタン。

 アリシアは、つい出てしまった昔からの呼び方を言い直した。


「いいって、いいってアリシアちゃん。

 俺も男爵とか領主なんてガラじゃねえしさ」


「ふふっ。

 意匠を尽くした服も似合っていますよ」

いわゆる貴族の服。

 細かい装飾の施されたジャケットとマント、竜をあしらった紋章。

トリスタン・タマラク男爵。グランダル王国に住む、炎竜タマラクとトリスタン。

国への貢献と、炎竜との親交の証として、タマラクの名を家名とした。

 これから冒険者組合事務所の一室で、ワーウルフの村とオークへの対策が話し合われる。

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