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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第5話 〜勇者と魔王〜

 旧魔王領の探索が決定してから早1か月。

カトラ村には冒険者組合事務所が開かれ、国をあげての探索準備が進んでいる。

 資材搬入、街道の整備、砦跡の改修作業、住居の増築などなど。

カトラ村は、未だかつて無いほどに活気づいていた。



「いきますよ!魔王ガーランド!」

赤い髪の少女、アリシア王女が自信に満ちた表情で剣を構える。

 アリシア王女は、驚異的な跳躍力で飛び上がり、上段に構えた剣に力を込める。

装飾のあるショートソードは、まばゆく光り輝いていた。



「ライトソード!ブレイカー!」

そのまま一気に剣を振り下ろし、眼前の目標へと一直線に向かっていく。

 魔王ガーランド。ではなく、街道の邪魔をしていた大木へと向けて。

大木は真っ二つに裂け、更に砕け散る。

アリシア王女は、その様子を後ろに感じながら、剣を一振りして自信の笑みを浮かべる。



「お疲れさまです、アリシア様」

アリシア王女を見守っていたガーランドは、微妙な表情をしながら拍手をしていた。


「ただ、魔王ガーランドはちょっと困ります。

 ゴブリン達が勝手に呼んでるだけですから、

 アリシア様まで真似しないでください・・・」

そんなガーランドの後ろには、驚いて呆然としているゴブリン達。

 雇われた冒険者達は、切り倒された大木の後始末をしていた。


「ふふっ。もちろん冗談ですよ、ガーランド。

 心の優しい貴方が、『魔王』なわけ無いじゃないですか。

 それに『鑑定士』により恩恵を鑑定済ですもの」

アリシア王女が、いたずらっぽく笑う。



 そう、恩恵を鑑定出来る『鑑定士』という恩恵が存在している。

王都や大きな街であれば『鑑定士』が居て、グランダル王国は10歳で恩恵の鑑定を受けられる。

恩恵は絶対に変わる事がない為、『魔王』では無いものが後天的に『魔王』になる事などありえない。

 僕は10歳の時に『育成士』と鑑定されている。

村人の大半が『育成士』のカトラ村。僕の家系も『育成士』しか生まれた事はない。

 それに、『勇者』と『魔王』が小さい頃から仲良く暮らしているなんて。

もしそんな事が起きるとしたら、僕はどうしたら良いんだろう。

『勇者』に一目惚れした『魔王』は、どうするんだろうか。彼女を支配したいと思ってしまうのだろうか。



「魔王様。

 どうされたのですか?」

大きな杖を持ち、ガーランドを見上げる緑色のゴブリン。

 名前が無いと不便だったので、僕がメルと名付けたゴブリンメイジだ。


「おう魔王様。

 ようやく木の根が抜けそうだ、こっち手伝ってくれないか」

冒険者のラル。黒髪長身の男性がガーランドへ声をかけた。


「メルに、ラルさんまで・・・」





 日も高くなり、作業も一段落したお昼どき。

カトラ村から砦跡へと伸びていた旧街道は、少しずつ以前の姿を取り戻しつつあった。



「それにしても、勇者の力ってのはすげえよなあ」

金髪のカルニアが、携行食のパンとチーズを食べながら話す。


「あの若さで、すでに剣士としては上級クラスに達している。

 あの大木を一太刀とは、俺達なんて3年やっても雑用依頼がメインの冒険者なのにな」

砕いた大木を椅子にして、ラルは鍋のスープをかき混ぜていた。


「アリシア様のライトソードブレイカーは、汎用戦闘スキルの身体能力強化で跳躍力を強化。

 更に剣士スキルの大上段切りを跳躍で強化しつつ、魔法属性付与(剣)で聖属性を付与した大技です」


「わたくしとガーランドで考えた、勇者のオリジナル技です。

 勇者っぽくて格好良くないですか?」

アリシア王女は、自慢げに冒険者達を見回す。


「あんな大木が粉々になるんだもんね。

 あ、ガーランド君、ミンキーちゃんも大活躍だったよ」

ストナが、にこにこと鍋のスープを取り分ける。

背負っている鞄の中では、白いスライムがみっちりと詰まっていた。


「グリーンスライムは、魔力が高くて魔法も覚えてくれますからね。

 ストナさんが協力してくれたおかげで、無事回復魔法を使うスライム。

 ヒールスライムへと進化しました」


「そうそう。

 ミンキーちゃんがすぐに怪我を直してくれるんだ」


「お師匠様〜。

 皆さんに昼食を配って参りました」

ゴブリンメイジのメル。軽快な足取りでストナ目がけて走り寄る。


「メル君ありがとう〜」

ストナが満面の笑みでメルを撫でる。

メルは満足そうに照れ笑いを浮かべていた。


(調子に乗るなよゴブリン。

 ストナの一番は私だ)

半透明の白いスライムは、鞄の中から少しはみ出して動く。


「ミンキー。

 私はお師匠様を尊敬し、敬愛しているのです。

 つまり私がお師匠様の一番です!」

ヒールスライムのミンキー。

むき出しの嫉妬は、伝達魔法でメルへと伝えられた。



 人間の少女を取り合う、ゴブリンメイジとホワイトスライム。

そんな光景を、仲間の冒険者達は食事を取りながら眺めていた。


「王都の騎竜といい、ストナはモンスターに好かれる奴だな・・・」

フォークでスープの具を弄びながら、カルニアがつぶやく。


「魔法の教育は僕では出来ませんでしたので、

 ストナさんには本当に助かっています」

ガーランドが、カルニアのつぶやきに答えた。


「この1か月、『育成士』と『魔法使い』が協力して、

 メイジやスライムも強く賢くなっていってる。

 俺もゴブリンへの訓練を通じて、こいつらと仲良くなった」

ラルのまわりには、ゴブリン達が囲んでワイワイ騒いでいる。


「お前ら〜。嫌いな野菜をこっちに入れるな〜」

ゴブリン達の自由さに、カルニアがため息をつく。


「ピーマンは苦い!!

 お前が食え!」


「芋ちょうだい!」


「羊肉よこせ!」

いつも通りのゴブリン達。

好きなものを仲間うちで奪い合い、喧嘩して騒いでいる。


「こいつらも、ゴブリンウォーリアーに進化して更にうるさくなったよな」

ダンは笑いながらパンをかじっていた。


「おーいラル!」

冒険者風で、軽装とロングソード。

黒髪の男性が、騒がしい集団へと歩み寄る。


「カイオじゃないか、どうした?」


「俺たちは、森の奥へ探索に出ていたのだが・・・。

 実は気になるものが見つかったんだ」


「気になるもの?」


「ああ、その実はだな・・・。

 どう言ったら良いのかわからないんだが。

 人間の村、らしきものがあったんだ」

カイオは歯切れが悪く、頭をかきながら目を伏せる。


「人間の村?」


「丸一日くらい歩いた先にある小さな村だ。

 生活の跡はあったんだが、住民は誰も居ない。

 それで不審に思って引き換えした」


「住民の消えた村か・・・。

 ガーランド、その村の事は知っているのか?」

ラルがガーランドへと話をふる。


「いえ、わかりません。

 ここから先は、もう地図にすら載っていない場所です。

 地図の端。この改修している砦跡にも、ほとんど近づいた事はありませんでしたので。

 カトラ村の先に、人間が住んでいるなど聞いた事がありません」


「それで、ラル達にも調査に同行して欲しくてさ。

 もしよろしければ、勇者アリシア王女様や『魔王』様にも」

カイオがまわりの者たちに声をかける。


「わたくし達もですか?」


「はい。何があるかわかりませんので。

 勇者様のような強い方の力もお貸しいただきたいのです。

 ご迷惑でしょうか、勇者様」

にじみ出る不安を隠せない様子で、カイオが答えを待つ。


「迷惑など、とんでもございません。

 我々の知らない、住民の消えた村。

 行きましょうガーランド。

 何がおきたのか調査をする必要があります」


「かしこまりました、アリシア様。

 それでは冒険者組合へ報告し、準備して向かいましょう」



 少し安堵した様子のカイオ。

人間の領域、カトラ村はその最東端であり、砦跡は古い地図に記載があるものの、昨年グランダル王国が発行した地図には載っていない。

人間が住んでいるはずもない、旧魔王領であるモンスターの領域。

おそらくは人間の村ではない、ここに居る誰もがそう考えていた。

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