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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第4話 〜ものがたりのはじまり〜

 ゴブリンとスライムを村につれてきてから、早一ヶ月。

思ったよりは問題もなく、彼らは生活に馴染んでいた。

 ゴブリン達は、砦から村の手伝いへと毎日やってきて、荷運びや家畜の世話などを楽しそうにしている。

仲間内で遊んでいたり、喧嘩したりと毎日騒がしく大忙しだ。

 スライム達は自由気ままに過ごしている。

花畑付近で食事をしていたり、日光浴をしていたり。

村のまわりの雑草取りを手伝ったりもお願いするが、僕以外は意思疎通が難しい。




「ガーランド!」

綺麗な軽鎧に身を包んだ、可憐な少女が満面の笑みで手を振る。

真っ赤な髪で真っ赤な瞳、貴族風な立ち回りと持ちやすいショートソード。

 そのまま少女は、ゆっくりとガーランドに歩み寄っていった。


「アリシア様!」

金髪碧眼の好青年、汚れているが作業に適したシャツを着て、竜の世話に勤しむガーランド。

歩み寄って来た少女、グランダル王国の王女アリシアに声をかけられて笑いかけた。



「どうですか、ちょっとは『勇者』に見えて来ましたか?」

装飾の入ったショートソードを掲げ、ガーランドに向けてポーズを決めるアリシア。

楽しそうで自慢げで、自信に満ちた顔でガーランドの反応を待っていた。


「ええ、似合っていますよ」

ガーランドは、にこやかに王女様を褒める。

 勇者と言うより、冒険者の少女。そう見えた事は心の奥で飲み込んでいた。




『勇者』

 世界でただ1人、アリシア王女は『勇者』の恩恵を持つ。

『勇者』は、『魔王』の恩恵を持つものが生まれた場合にのみ生まれる恩恵らしい。

『魔王』に唯一対抗出来るものとして、『勇者』は存在する。




「ふふっ。ありがと!」


「アリシア様・・・。

 ついに冒険の許可が下りたのですか?」


「ええ、ローエングラム王。父上も今日こちらに来ています。

 貴方の父、トリスタン様に男爵の爵位を与え、旧魔王領の探索を進める事となりました」


「未だ潜伏を続けている、『魔王』を探す旅に出るのですね」


「他国にその兆候が見られない為、

 モンスターの領域にてかくまわれ、その力を蓄えているのではないのかという結論になりました」




 僕が『魔王』。先日交流を持ったモンスター達から、そう呼ばれてる。

たとえそれが勘違いであったとしても、彼女に打ち明けられるような事ではなかった。




「旧魔王領、今ではモンスターだけが住む、モンスターの楽園だと聞いています。

 交流もありませんし、どんなモンスターが居るのかもわかりません。

 友好的なモンスターばかりでは無いでしょう。

 アリシア様、お気をつけください。

 きっと、無事に帰って来てくださると信じております」


「ガーランド、貴方も一緒に冒険しませんか?」

少し残念そうな顔をしたガーランドの話を遮り、アリシアは嬉しそうにガーランドの手を取って話す。


「えっ!?僕がですか!?」

アリシアからの言葉に、ガーランドは本当に驚き飛び跳ねるように手を離した。


「ええ。わたくし達の始めての大冒険。

 あれは6歳の頃だったでしょうか、王城の庭を二人で探索したでしょう?

 それ以来、わたくし達は無二の友達になったではないですか」


「確かにおっしゃる通りではありますが・・・。

 今回の冒険は、王都内での探検とはわけが違うのですよ」


「それでもです。

 いえ。だからこそ幼い時より同じ時間を過ごした、

 信頼のおける貴方と共に旅をしたいのです。

 それに、貴方の事は絶対にわたくしが守ってみせます」


「姫様・・・」

アリシア王女の懇願に、ガーランドは黙って王女の手を取り直した。


「アリシア様、僕は戦士ではありません。育成士です。

 やれる事と言ったら、スライムを使役出来る程度。

 そんな僕で、本当によろしいのですか?」


「はい!もちろんです。

 わたくしと一緒に、冒険に行きましょう」

華が咲いたように、アリシアの笑顔がガーランドに向けられる。




 僕が王女と出会ったのは7歳の時。

アリシア王女は6歳、僕が父に連れられて王城へと来た時だ。

父が用事から帰って来るまでの間、僕は部屋で退屈な時間を過ごしていた。

そんな時に、同じく暇を持て余していたアリシア王女があらわれる。

 親しみやすく、可愛らしいの少女。僕はそんな少女を誘い、僕達は部屋を抜け出して王城の庭へと向かう。

 庭ではラウンダーという、モンスターが飼われていた。

大型の犬系統モンスターで、縄張り意識が高く、一番大きなラウンドリーダーの命令に絶対服従。

 ラウンダー達は、僕達を盛大に歓迎してくれて、アリシア様はリーダーの背中に乗って大はしゃぎ。

僕は人間慣れしているリーダーが、背中の少女を気遣っている様子を見て安心しきっていたのだけれど。

兵士長の話では、ラウンドリーダーは飼育担当の兵士以外には気を許した事は無いらしい。

 僕の見立てだけが違っていた、人間慣れしていて優しいリーダー、縄張りを守る意識が高くてかっこいい。

人間を襲うようなモンスターには、とてもではないが見えなかった。

 飼育担当以外は立ち入り禁止だった庭の一区画、それが僕とアリシア王女の最初の冒険。



 それからというもの、僕と王女は会う度に小さな冒険を繰り返した。

王都に住む猫世界のリーダー。ストレイキャットを見つけ、配下の猫達に囲まれて存分に触らせてもらった春。

たまたま王都に来ていた、巨大な飛竜に挨拶をしに行った秋。



 そして後悔と死を意識したあの日。

9歳と8歳の春、村の裏手にある未開の森への冒険。

 ストーンベア。石のように硬い体を持つ、熊のモンスター。

 僕達は調子に乗っていた、出来ない事なんて無いと自信を持って、危険なモンスターの縄張りへと足を踏み入れた。

王都の庭で飼育されているラウンダーとは違い、人間慣れしていない肉食の大型モンスターの縄張り。

ストーンベアの反応は威嚇と威圧、そして攻撃による侵入者の排除。

 恐怖で動けないアリシア王女を背に、僕はストーンベアの前へと立ちふさがる。


「やめろ!ストーンベア!

 こいつに、アリシアに手を出すな!

 お前の縄張りに入ったのはあやまる!

 だから!」

震えながら必死に言葉を絞り出した僕、通じるはずもない言葉。

 でも、ストーンベアは少し表情を変えて、僕の事を確かめるような表情で大きな顔を近づけて来ていた。



 その刹那、森の中から飛び出してきた影が、一瞬でストーンベアを斬り伏せる。

王国近衛騎士の斬撃が、一撃でストーンベアの首を切り落としていたのだった。


「アリシア様、ご無事ですか!!」

 手にした剣の血糊を拭う間もなく、騎士はアリシア王女を抱きかかえる。

僕は1人、切り落とされたストーンベアの首に触れて泣いていた。


「ごめん。ごめんね・・・。

 僕達が悪いのに、僕のせいで・・・」

人を襲ったモンスターが討伐される事は理解している。

でも、ストーンベアが僕達を襲った原因は僕達で、悪いのは僕達だったのに。

 僕はただただ涙を流す。

僕の言葉を理解したかのような、ストーンベアの最後の表情が頭にごびりついて離れなかった。


「ガーランド君・・・」

 近衛騎士の言葉は、ぐずり泣く僕の声にかき消されて消えた。





 この1件以来、アリシア王女は本格的に剣の鍛錬を始めている。

『勇者』としての責務に目覚めた。かどうかはわからない。

 僕が王城に出かけた時も、アリシア王女が村へと訪問した時も、僕を誘って鍛錬する日々。

彼女の鍛錬に付き合う形で、僕は密かに彼女と冒険を共にする為の鍛錬をしていた。

現実を知り、敵わぬ夢だと知り、彼女はいつか勇者として旅立って行く日が来るのだろうと思っていた。

僕には戦いに向いた恩恵が無い、全ての戦闘用スキルを習得できる『勇者』と冒険なんて出来るはずがない。

 ずっと秘めていた本当の気持ち。あまりにも大きい身分の違い。『勇者』と『育成士』、あまりにも大きな恩恵の違い。叶うことなどありえない恋。

 ・・・例え僕が全てを支配出来る『魔王』だったとしても、この恋は叶わない。

 終わりだと思っていた日に、僕は彼女に手を引かれて冒険へと連れ出される。

退屈な部屋の中で、1人で待っていたあの日。突然現れたアリシア王女が庭の謎を話始め、僕がそれに乗る形で始まった最初の冒険。


「この窓から見えるかしら?

 庭のあの辺りが立ち入り禁止で、兵士達も入れてくれませんの」


「王女にも秘密の庭・・・。面白そうだな!

 なあアリシア、行ってみようぜ!」

そう言って笑い、冒険に出たあの日とは逆に、アリシア王女は僕に笑いかけた。

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