第3話 〜スライムの育成士〜
森を進む奇妙な集団。
冒険者の一行と村の青年、そしてゴブリン3体とゴブリンメイジ1体。
ゴブリンメイジが道を指し示し、放棄された住処へと歩み進む。
「そういえば、
皆さん戦闘向きの恩恵を持っているんですか?」
ガーランドがふと、冒険者の集団へと疑問をなげかけた。
「まあ、冒険者は大半がそうだな。
俺とカルニアは戦士、それぞれ剣士と盗賊で適正が違う。
ストナが光魔法適正の魔法使い。
ダンは鉄錬成が適正の鍛冶士」
ラルが、それぞれを見ながら答える。
「ダンがパーティの剣を作ってるんだぜ」
カルニアが、ラルの言葉に付け加える。
「ああ、俺は戦闘適性が無いんだ。
戦闘スキルの習得もいずれ限界が来る。
だから基本的に防御中心で、パーティの裏方をやっている」
「俺たちはどこにでも居る一般冒険者だからな、
上級でも目指さない限り、それでも問題ねえよ」
「あっ!
到着したみたいですよ」
ストナが指をさして、前を見るようにうながす。
少し森の開けた場所に、粗末なテントがいくつか並んでいた。
適当に置かれた袋や木箱、焚き木の跡にまで青緑色の粘液のようなものが取り付いている。
スライムたち、核を中心として半分液体のようで自在に形を変える。
目視で確認出来る核は5つ。おそらく5体のスライムがここには居るようだった。
本能のままにものを取り込み、増殖していく。今は外敵がいないためか、スライムたちは動いていない。
彼らは真上から照りつける日差しを浴びている、まるで日光浴を楽しんでいるようにも見える。
「なあ・・・これって」
「グリーンスライム・・・ですね」
カルニアとストナがそれぞれにつぶやく。
「おい!
ゴブリンのアホ共!
本当にこいつに襲われたのか?」
「そうだ!
急に飛びかかって来て、
せっかく作った服が食われた!」
「くさふく。
おれ、いっしょうけんめいあんだ。
あいつぜんぶくった!」
ゴブリン達の言葉に、カルニアが額に手を当て首をふる。
「グリーンスライムは草食性だ!
その辺の草とか!木の実とか食って!
日光浴して増殖してるだけの無害なスライムなんだよ!」
「無害じゃない。
私達の服と食料が食べられた」
「確かに無害じゃあないわね・・・。
でも、これならフォレストウルフの方が脅威なんじゃないかしら」
ゴブリンメイジの言葉に同意しつつ、ストナは前回の戦いを思い返す。
このボロテントで戦闘があった様子はない、ゴブリンの死体が転がっているわけでもない。
グリーンスライムの食事の跡だろう、ここは雑草が少なくて食料も食い荒らされている。
(オイシイモノ・・・。
タクサンアル。
ヒモアタル)
「何か、変な声が聞こえませんか?」
囁き声のようなものを聞き取り、ガーランドが辺りを見回して身構える。
「声?
ゴブリン達が騒がしいから、
それじゃねえのか?」
カルニアが言うように、ゴブリン達には静かな時間は無い。
食い荒らされた食料や、荒らされた住処を見ては騒ぎ、スライムを見ては騒ぎ。
冒険者の言い分を聞いてまた騒ぐのだ。
(マタウルサクナッタ。
ゴブリンウルサイ)
「いえ・・・囁き声のようなんですが。
なんだか頭の中に直接響いてくる感じがして」
(コエキコエル。
スライムトハナセルヤツイル!)
「スライム!?
この声はスライムの声なのか?」
「何言ってんだ・・・・?
スライムが話すわけないだろう?」
驚いて辺りを見渡すガーランドを、カルニアが呆れた顔で諭す。
「皆には聞こえてないんですね・・・」
「もしかすると・・・、ガーランド君は育成士でしたよね。
適正のあるモンスターとは、意思疎通が出来るって聞いた事があります」
「親父も竜と話してるみたいでしたし。
もしかして僕の適正って、スライムなんですかね」
まわり全員がうなずく。
それはガーランド以外には声が聞こえない事、適正がスライムである事への同意だろうと感じられた。
スライムの核が一つ、ガーランドの方向へと振り向く。
顔があるわけではないが、直感的に振り向いたのであろうと見てとれる。
(オマエノコエガキコエル。
ナンノヨウダ)
「君に用があるわけじゃないんだ。
ゴブリン達の荷物を取りに来たんだけど、
持っていっても良いかな?」
もう疑いようは無かった、ガーランドの適正はスライム種。
まわりで話す他の人間の声はスライムへ届かないが、ガーランドの声だけがスライムに届く。
そして、スライムの声もガーランドへと届いている。
(オマエコノクサモッテナイノカ?
コレガアレバ、オレタチモンクイワナイ)
スライムの体には紫色の花をつけた、ラベンダーが少しづつ消化されていっている。
「これはラベンダーじゃないか。
村の隅に沢山生えてて、花畑になってたな」
(タクサンアルノカ。
デハオマエニツイテイク)
「えっ!?
それは・・・どうしよう」
「どうしたんだガーランド」
困惑するガーランドに、ラルが声をかけた。
既に後ろでは、ゴブリンと冒険者たちで荷物の運び出しを進めている。
ゴブリン達の引越し作業、砦の方が快適なのだ、もうこの住処にとどまる理由は無かった。
「スライム達もついて来るって」
「グリーンスライムですし、害もなくて大丈夫じゃないでしょうか。
それに、なんだかつやつやしてて可愛いかも?」
ストナがスライムを覗き込む。
それに反応して、スライムがゆらゆらと形を変えていった。
にこにことスライムへ笑いかけるストナ、スライムの形はストナの表情を模倣する。
「あ、もしかして私ですか?
上手ですね〜」
(コノオンナモオモシロイ)
「そのスライムも、ストナさんを気に入ったみたいですよ」
「竜といいスライムといい。
ストナはモンスターに好かれる奴だな」
大きな箱を抱えたダンが、横から口を挟んで、冒険者達の笑い声が辺りに響いていた。
太陽が傾き、村は夕焼けに染まる。
村の裏手に伸びていた、かつて街道だったところから冒険者の大群が帰還する。
冒険者4人、村の青年1人、ゴブリンメイジ1匹、スライム5匹。
「とりあえず解決したんだよな?
まさかゴブリンやスライムと仲良く帰るなんて、想像もしてなかったぜ」
ラルが肩を回して、仲間たちへと声をかける。
「全くだぜ、これが育成士の恩恵なんだな」
「でも、敵意が無いゴブリンやスライムって可愛いかも?」
大きな杖を持ったゴブリンメイジを見て、ストナは微笑む。
「お疲れ様でした。
皆さんは村長の家へ向かってください。
そこで報酬のやり取りと、ぜひ一泊していってください」
「ああ、ガーランド君。
王都に来るときは声かけてくれよな」
ダンがガーランドに笑いかけ、4人は村の中へと歩み進んでいった。
「さて・・・。
こっちは親父のところかな?
メイジ君のことも紹介しないと」
「お世話になります。魔王様」
(マオウサマ)
ゴブリンメイジと、グリーンスライムがそれぞれにお辞儀をして敬意を示す。
「魔王様!?
いや!?違うって!!」
ガーランドが慌てて否定する。
「数多モンスターを従える事が出来るのは、
魔王様ただ1人だと聞いています」
(ワレラガモンスターヲミチビクモノ。
マオウサマ)
「いやいや、僕はただの育成士で。
ゴブリンは言葉が理解出来るから、ただ話し合えただけで。
スライムは適正で意思疎通出来るって話だし。
それだけで、魔王にはならないと思うんだけど」
世界の支配者。支配の神、サテラの恩恵『魔王』。
僕の恩恵は成長の神、アクサの恩恵『育成士』。全てを支配し最強の力を持つ、モンスターの支配者『魔王』。
ただモンスターを育てて、日々を平和に過ごす『魔王』なんて、そんな事があるわけがない。