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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第12話 〜創世教会とカトラ村〜

 カトラ村、のんきな牧畜村だったのは過去の話。

旧魔王領の最前線にして、勇者アリシアとその仲間達が探索を進める。

今日このカトラ村で、熱心な男性の声が響いていた。


「この世界を創った創造神ウラガン様、そして人間に知恵と文明を与えてくださった創世神ゼーレス様。

 偉大なる2神に感謝を。我ら創世教会は、全ての人間に平等と平和を約束します」

黒服に金糸による模様、背中には両手を広げた創世神ゼーレス様。

創世教会の神官、それも地域長クラスが着る教会服を来た男性が演説を進める。


「我ら創世教会は、人間の守護者である勇者様と共にあります。

 邪悪なる支配神と魔王を討ち滅ぼす為に、我らは尽力しているのです」

この演説に対する反応はほとんど無い。

カトラ村では自然神信仰が中心で、冒険者達は忙しく通り過ぎる。

それでも創世教信徒の男性は、熱心に言葉を続けていた。


「勇者アリシア様が、この国に生まれた事は大変喜ばしい事です。

 旧魔王領に魔王が隠れているからこそ、勇者様が生まれたのです。

 必ずや我ら創世教会と、勇者様が魔王を討ち滅ぼすであろう。

 創世神都ゼーレに御座す、大創神官ヴェーネレクト様のお言葉です。

 このカトラ村にもぜひ、創世教会を!

 教会の建設に皆様のお力をお貸しください!」

つばを飛ばし熱心に声を荒げる神官。

立ち止まる人も少ない中、ガーランドがその神官に近づいていった。


「神官様、熱心なところを申し訳ないのですが、

 カトラ村には自然神ナシュラエル様の教会が既にあります。

 グランダル王国はナシュラ教が中心ですし、建設は国王様に許可を取ってください」

ガーランドが少し困った顔をして諭す。


「おお!貴方は村の方ですか?

 私が望む事はまさにそれです!

 教会の建設許可を取り付ける為、貴方に創世教の素晴らしさを知ってほしい」

神官は喜びガーランドの手を取った。


「もちろん創世神様も素晴らしいです。

 ただ、我々は古くよりナシュラエル様を信仰しておりますので。

 ゼーレス様を否定するわけではありませんが、教会の建設は難しいと思います」

ガーランドは、優しくカトラ村の事を説明する。


「ええ困難な道程でしょう!

 ですが創世教会は数多の勇者様を支援して来ているのです。

 創世神都ゼーレには歴代の勇者様の遺品、また生家も多く残っております。

 そして、その全てを創世教会が管理しております。

 きっと勇者アリシア様のお役に立てるでしょう!」

神官は引かず、両手を広げて目を輝かせた。


「その・・・。

 勇者アリシア様もナシュラ教で育った方です。

 それに創世教会様からは、探索支援金を十分にいただいております。

 創世教会様には、もう十分に支援いただいていると、アリシア様もおっしゃいますよ」


「勇者様の支援は創世教会の教義でもあります。

 心配せずとも、支援しすぎるなどという事はございません。

 しかし勇者アリシア様はお忙しい身です。

 なかなかお会いする事もできず、こうして出向く事しか出来ません。

 勇者様を直接支援するには、やはりアリシア様のお近くに教会があるべきだと思いませんか!」


「まあその・・・、アリシア様はいつも創世教会に感謝しています。

 今日は探索でいらっしゃいませんが、教会の件はお伝えしておきますね」


「おお!!ありがとうございます!!

 それと魔王を発見したらすぐにお知らせくださいと、

 勇者様にお伝えください!」


「はい、伝えておきます」

ガーランドは、頬を掻きながら神官の握手に答える。





 そうしてガーランドは、神官の前から歩き去り、近くの酒場へと入っていく。

まだ昼間だというのに冒険者で盛り上がる酒場。

ガーランドは、その中にある一つの席へと歩み進んだ。


「ガーランド。

 創世教会の方はどうでしたか?」

赤い髪の勇者アリシア。

普段の元気が陰るような表情で、ガーランドへと尋ねた。


「だめ・・・ですね。

 相変わらずな状態で、熱心な布教活動を行っています」


「まあ天下の創世教会だからな。

 辺境の田舎王国でも、勇者が居るんじゃ見過ごせねえって事だ」

冒険者のラル、爽やかな笑顔でガーランドに酒を進める。


「熱心なのは嬉しいことです。

 この神剣アリシアも創世教会の支援品ですし、感謝はしています」

アリシアが、自身のショートソードを手に取って眺める。


「たしか世界最高の鍛冶士、サイクロ様がアリシア様の為に打った剣。

 なんでもサイクロ様は、全ての金属を扱えるとか」

ダンが知っている知識を付け加えた。


「ええ、創世神都ゼーレに住むサイクロ様に、創世教会からご依頼いただいたと聞いております。

 10歳のお祝いとして、創世教会からお送りいただいたものです」


「ただ、彼らは少し強引なところがあるんですよね。

 カトラ村にまで支部は不要だと、一度断ってるんだけどなあ」


「それに、創世教会には少し過激な思想の方もいらっしゃいます。

 わたくしは、あの思想に共感できないのです」


「支配神サテラ、そして魔王とモンスターこそが悪。

 人間はモンスターより上位の存在であるがゆえ、育成士というものがある。

 モンスターが悪に染まらぬよう、人間が飼育するべき。

 悪に染まったモンスターは、全て神の名において殺すべし」

カルニアが、酒とつまみを漁りながら話す。


「実際神都や他国ではモンスターと戦争してる事も多い。

 そういうところから過激思想が生まれたんだろうな」

ラルが、カルニアのつぶやきに付け加えた。


「はい。

 でも人間同士でも戦争はありますし、どちらも正義を主張する事もあります。

 わたくしにとっての正義は、この国と良き民を守る事です。

 それにわたくしは、モンスターにも心があると思っておりました。

 今では確信しておりますが、人間と同じで環境や状況によって善にも悪にもなる。

 たとえ悪に染まったとしても、自ら考えて悔い改める事、そして誰にでも罪を償う権利がある」


「そうだな、メルとか、ミンキーは良くわからんが。

 悪い奴じゃ無いと思う」

ダンは、酒を注ぎながら思い返していた。


「メル君は素直でかわいいし。

 ミンキーちゃん達も、モフちゃん達も、

 ブーちゃん達だってお友達だよね」

ストナが満面の笑みで酒を飲む。


「モフモフのワーウルフに、鼻息がブーブー荒いオーク。

 ストナの愛称はわかりやすいんだか、わかりにくいんだか」

カルニアが、干し肉を食べながら頬杖を付いた。


「えー、わかりやすいよー。

 白くてミルクみたいで、ふわふわでミンキーってすぐ思いついたもん。

 モフモフでかわいいからモフちゃん。

 いつもブーブー言ってるからブーちゃん。

 騎竜屋の子はリボンちゃん」


「騎竜屋のリボンって。もしかしてあいつか?

 女性好きで曲がり角の、僕が世話しようとすると怒るし。

 あいつ騎竜屋でも女性ばっかり乗せてんのか・・・」


「そうそう!

 角がリボンみたいになってて、可愛いねーって言ったら喜んでくれるの」

酒が回って饒舌になり、ニコニコと話すストナ。


「騎竜屋には探索用の騎竜を回してもらうよう交渉してるが、

 まさかリボンもストナさんを追いかけて来ないよな」


「いーや絶対来るね、あいつはストナがどこに居るのか知ってる。

 騎竜屋に寄ると、必ず忍び寄ってスカートめくるような奴だぞ」

カルニアが、冗談交じりに騎竜について話した。


「全く、騎竜だって数が限られてるってのに。

 ストナさんしか乗せないとか無いだろうな・・・」


「ありえそうだな。

 そういやあガーランド。

 神官様は砦まで来るなんて事はないよな?

 あっちじゃガーランドは魔王って呼ばれまくるし、

 モンスターしか生活してないしで見られちゃまずいもんだらけだ」

ラルが、少し真剣さを取り戻して頭をかく。


「確かにそうです。

 神官様が、アリシア様に会うために砦へ向かってしまうかもしれません。

 彼らにも注意するように伝えておきましょう」


「魔王ガーランドがバレちまったら、厄介な事になりそうだしな」

カルニアは、机に突っ伏して酒瓶を転がす。


「はあっ・・・。

 なんというか、僕では荷が重すぎる気がします。

 親父も飛竜と一緒に国王様の外交で不在だし」

ガーランドが、珍しく弱気にため息をつく。


「大丈夫ですガーランド。

 おじさまも、貴方なら任せられると思っています。

 それにわたくしも頑張ります!」

グッと構え、小さく気合を入れてガーランドを励ますアリシア。


「ありがとうございます。アリシア様」

爽やかな笑顔は陰る、ガーランドは作り笑いをしてアリシアに答えた。


「ひとまず現状の問題点を整理するか。

 まず探索だな、森は深いし野生のモンスターにも注意が必要だ。

 オークの話では、山脈の向こうは平原とモンスターの都市があるらしい」

ラルがリーダーらしく指揮を取る。


「人間とモンスター、それにワーウルフとオークの関係もだぜ。

 冒険者は順応し始めてるが、村人の交流は相変わらず殆ど無い。

 トット君だっけ?彼とゴブリンに農作業教えてるババアくらいか?」


「ミリアム婆さんは、孫が出来たみたいで喜んでます。

 他の村人は積極的に関わろうとはしていませんね。

 仲間を殺されたワーウルフとオークの関係は、・・・難しいです」

カルニアの言葉に、ガーランドが付け足す。


「永遠なる鼓動のプロメラリアがいつ来るのかもわからん。

 彼女は、近いうちに謁見に伺うと言っていた。

 流石に魔王ガーランドが忙しい中や、不在を狙う事はなさそうだが。

 あいつに偽物の魔王だとバレると、更に状況がややこしくなる」

ダンが大きな体でうなる。


「創世教会に、魔王やモンスターの事が伝わるのも時間の問題でしょう。

 魔王ガーランドだけでも隠し通して、大量のモンスター達は育成士だからでごまかせれば良いのですが」

アリシアが、首をひねって先程のあった悩みを追加した。


「問題だらけだねえ」

お酒も回って、笑い上戸のストナは楽しそうだった。

 探索に環境整備と、冒険者にとっては稼ぎ時のカトラ村。

稼いだ金は酒場で消える。今日も酒場は冒険者で大賑わいだった。

 自称魔王の村人ガーランド、冒険者のラル達、グランダル王国王女の勇者アリシア。

なりゆきで探索を牽引する立場となっていた彼らは、直面している問題に頭を悩ませる。


「とりあえず飲もう!

 全部今日で解決するような話じゃない。

 稼いだ金は使わなきゃ損だ!」

ラルが話を切り上げ、リーダーらしさを見せる。

 酒や食べ物を取り直し、全員で宴会をやり直す。

決して順調ではないが、確実に探索は進んでいた。

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