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お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
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第11話 〜ひとまずの日常〜

 カトラ村の最東端、朽ちた石垣と門の柱の跡。

石垣は石壁へと姿を変え、仮設の門、そして街道は土道として砦へと伸びる。

かつて街道だったこの場所は、徐々に以前の姿を取り戻しつつあった。

土道の上、ワーウルフの集団がこの場所で集まっている。


「お待ちしておりました、魔王様」

村の代表、ワーウルフを統括するライカンスロープが前へ出る。

 ガーランド、アリシア、そして冒険者達。

金髪の好青年、ガーランドは少し緊張しつつも魔王としての態度に努めていた。


「まずは謝らせてほしい。

 俺の到着が遅れたばかりに、

 村の者たちに被害を出してしまった」

ガーランドは、心からの謝罪のために頭を下げた。


「いえ!!

 とんでもございません魔王様!!

 確かに犠牲が出た事は残念でしたが、魔王様が謝罪される事ではありません」

ライカンスロープの男は、慌ててガーランドの言葉を訂正する。


「勝手な事ですが、犠牲になった方々は埋葬いたしました。

 あなた方の信仰がわかりませんでしたので、

 グランダル王国の国教、ナシュラ教のやり方で行っております」

アリシアが、ライカンスロープへと訃報を伝える。


「勇者様、ありがとうございます。

 自然神ナシュラエル様に弔われるのであれば、彼らも本望でしょう」

ライカンスロープが、アリシアの手を取り感謝を伝える。


「カトラ村とワーウルフの村は、これから良好な関係を築きたいと思う。

 人間とモンスターの交流、その第一歩だ」


「はい!

 魔王様と勇者様にならい、我々も協力させて頂きます」

ライカンスロープが、ガーランドと硬い握手を交わす。

 二人が今後の計画を話し合う中、ワーウルフの1人がアリシアの前へと歩み出た。

子供を抱いた母親、茶色と白の混じった毛色の彼女はアリシアへと微笑む。


「申し訳ございません。

 旦那様は、埋葬した方々の中に居たと思います」


「ありがとうございます。勇者アリシア様。

 彼が死んだ事は知っていました。

 村から逃げる時です。

 追いかけるオークの前に立って、切られた彼を置いていったのです。

 だから、弔っていただいて、ありがとうございます」

ワーウルフの母親は、涙ぐんで感謝を述べる。


「いえ、旦那様が亡くなられて大変だと想いますが、

 人間とモンスター、長く交流の無かった両種族が手を取り合える世界をつくりたい。

 わたくしも子育てに協力したいと思っています。

 ・・・違いますね、わたくしがただこの子に会いに行きたいだけですね」

アリシアの決意の中、ワーウルフの赤子がアリシアを見て笑っていた。

 ワーウルフの母親は、それを見てアリシアへと子供を預ける。


「この子もアリシア様がお好きなようです。

 アリシア様、魔王様とご婚約される時はぜひ私に式を手伝わせてください」


「えっ!!?

 わたくしと、ガーランドですか・・・」

アリシアの体温は、急激に上がっていく。


「はい。

 『勇者』と『魔王』様の婚約、こんなに喜ばしい事はありません。

 創造神様もきっと喜んでくださいますよ」

ワーウルフの母親は、にこやかにアリシアへと答えた。


「わたくしとガーランドは友達で・・・。

 婚約なんてそんな・・・」

まごまごしているアリシア、ワーウルフの赤子はアリシアの顔を触って笑っていた。



「それでは、今後ともお世話になります。魔王様」

ライカンスロープが話を終え、一礼する。


「ワーウルフの村は、今後の重要な探索拠点になる。

 お前には改革を先導するリーダーになってもらいたい。

 ・・・ライカンスロープよ、お前には呼び名は無いのか?」


「我々モンスターにとって、名は一部の強者のみに与えられるものです。

 全てのものに名前を付ける、人間のような文化はありません」


「それは不便だな。

 名前を付けるのは良い事だぞ。

 ワーウルフ系と言う種族ではなく、カイオのように名前を持つべきだ」


「はあ。私には良い事である理由がわかりませんが。

 魔王様がおっしゃるのであれば、きっとそうなのでしょう」


「今はそれで良い。

 お前が良ければ、ウィックと言う名を授けたいと思う。

 大きな体で常に前線に立ち、仲間を守った伝説の拳士だ」


「ウィック・・・。

 かしこまりました、今後はライカンスロープのウィックとお呼びください」

ライカンスロープのウィック、魔王ガーランドに頭を下げた。


「それではウィックよ、今後の計画は理解したな?」


「はい、我々の村に冒険者組合事務所を迎え入れ、

 山脈の向こうまで探索範囲を広げる準備をいたします」


「ああ、色々と問題が出ると思うが、

 頼んだぞウィック」

そう言って、ガーランドはウィックの肩を取って激励した。




 一通りの話が終わり、ウィックをリーダーとしたワーウルフ達はカトラ村を後にした。

アリシアはその後姿に手を振り、ワーウルフの一体がにこやかにそれに答える。

やがてワーウルフの姿は見えなくなり、森の木々がざわめいた。

 アリシアがガーランドの顔を見て、目があった瞬間にそらしてうつむく。


「どうされたんですか、アリシア様」


「なんでもありません!

 さあ、次は伐採作業をしているオーク達のところへ行きますよ!」

そういって、小走りで逃げるように村の中へと進むアリシア。

ガーランドは、アリシアの態度に首をひねりながら後を追っていった。




 カトラ村から森へ入り、すぐの所から小気味良いリズムの音が聞こえる。

斧が木を叩く乾いた音、ここではオークが伐採作業を進めていた。

 急激に伸び続ける木材需要、そして村の拡張に一挙両得な作業だった。

切り倒した木の枝を削ぎ、大柄なオーク達は肩に担いで荷車へと積み上げる。

現場を取り仕切っていたのは、緑の混じった灰色の体毛に覆われた一回り大きいハイオークだった。


「魔王様、ようこそお越しくださいました」

ハイオークはガーランドに気づき、駆け寄って一礼する。


「順調なようだな」


「ええ、力仕事は我々の得意分野です。

 一通り伐採作業が終わりましたら、木材置き場と加工場の建設に取り掛かります」


「枝や木くずは肥料にしたいから、ゴブリンのメルに回してくれ。

 あっちはスライム達と、畑と牧場の拡張を進めている」


「はっ!かしこまりました魔王様!」


「怪我などがありましたら、すぐにこの子を使ってくださいね。

 ミンキー、この辺りで雑草を食べていて良いですから、

 オーク達の怪我も見てあげてね」

アリシアが背負った鞄を地面に置き、中から白いスライムが這い出す。

一通りユルユルと漂った後、ミンキーは食事を始めた。


「ありがとうございます。勇者様。

 我々モンスターの事も気遣って頂いて、なんだか不思議ですが嬉しいです」


「わたくしは種族で悪を決めつけたくありません。

 そして償う貴方達を信じます。

 それに村の拡張には、力仕事の得意な貴方達が今後も必要です」


「ハイオークよ、やはりお前にも名前は無いのか?」


「はい。

 オルシスの兄貴は、プロメラリア様に固有スキルと名前を頂きました。

 俺達はただのオークです」


「名前ってのは重要なものだ。

 俺は魔王のガーランドだし、彼女は勇者のアリシア。

 あのスライムはミンキーで、畑を任せているのはゴブリンメイジのメルだ。

 オーク種の中の一体ではなく、何か名乗りたい名前は無いのか?」

ガーランドの言葉に、ハイオークは少し考えて腕を組んだ。


「兄貴。

 その、兄貴が許されない罪を犯した事はわかっています。

 でも俺は、兄貴の強さに憧れていました。

 もし許されるのであれば、オルシスの名を頂けないでしょうか?」


「そうか、だがその名は同時に罪も背負う事になるかもしれない。

 それでも良いというなら、俺がオルシスを名乗る事を許そう」


「ありがとうございます。魔王様。

 俺は、オルシス兄貴の罪も償います。

 魔王様とその配下を守る、最も強いオークとしてオルシスの名を轟かせて見せます」

ハイオークのオルシスが跪き、ガーランドへと誓う。


「ではお前はオルシスだ。

 成し遂げて見せよ。今後の働きに期待している」

ガーランドは、魔王としての話し方と立ち振舞に気を使ってた。

 ワーウルフも、オーク達も気がついていない事が一つある。

魔王ガーランド様は、何故か村の牧場で使われている作業着を着ていて、勇者アリシアは気品のある軽鎧を着ている。

あまりにも自然な普段着に、誰一人違和感すら感じていなかったのだった。

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