表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お世話になります、魔王様  作者: 使徒澤さるふ
1/13

第1話 〜辺境村のガーランド〜

 神々の時代、数多の神々による戦争。

神に生み出された人々は、それぞれの先兵として恩恵を与えられた。

終わらぬかに思えた戦いは、悲しみ憂いた創造神ウラガンがこの世界を去った事で一変する。

 世界から全ての神が消え、神々に恩恵を与えられた人間種と、神が作り出した、恩恵を持たないモンスターだけが世界に取り残された。

この世界には、いまだ神々の恩恵が残っている。

様々な神々の思惑により生み出された恩恵、神々の戦争は当事者が不在となった今でも続いている。

 『勇者』と『魔王』。戦争の中心にあった対立した二神、創世神ゼーレスと支配神サテラの恩恵。

全てを支配し、手中に収めんとする『魔王』。支配を拒み、自由な意思を求める『勇者』。

『魔王』が誕生した時、『勇者』が現れる。世界はそうやって廻り続けているのだ。






 束の間なのかもしれないけれど、平和な時代にのどかな村。

グランダル王国、カトラ村。グランダル王都の裏、広大な森と未開の地が広がる手前に存在している牧畜村。

村には『育成士』の恩恵を持った人々が多く暮らしている。

僕、ガーランドもその一人だ。父も母も、祖父母も『育成士』だし、その前も『育成士』。

世界でも珍しくもない、『育成士』は適正があるモンスターと心を通わせ、育成や繁殖を行う事ができる生産系の恩恵だ。

 母マリーは羊種の適正があって、衣料や食肉とかを主業としている。

父のトリスタンは竜種の適正持ちという、『育成士』の中では稀で貴重な恩恵を持っている。

騎竜や荷車を引く小型の竜、大型の飛行種は世界中の空で人を運んでいる。

 僕も『育成士』、だけどまだ適正がわかっていない。

羊も竜も、犬猫もなんとなく仲良くはなれるんだけど、心を通わせるような密接なものでは無いんだと思う。

父は竜と言葉を交わしているし、母の呼びかけに羊は必ず従っている。

 16歳の成人になっても『育成士』の適正がわからないのは、案外よくあることらしい。

適正のモンスターが近くに居ない、そうなると適正なんて知る方法はない。

 だから僕もそんなに気にしてはいなかった、今の懸念事項はそんな事よりも・・・。


「おーい!ガーランド!

 今朝もやられてた!」

小太りの青年、ドスドスと大きな足音で体を揺らし、息を切らせて走る。

城下でも通用しそうな身綺麗な服装と、つやつやの肌が日差しを浴びていた。


「トット!

 お前のところもかよ!」

ガーランドが、顔に手を当てて天を仰ぐ。

両親譲りの金髪、毎日の牧場仕事で培ったたくましい体躯。


「ああ、見張りを立てたところは避けられてる。

 ゴブリンの癖に頭なんか使いやがって」

オレンジがかった赤毛、綺麗に整えられた前髪。

太っちょのトットが息切れし、ガーランドの前で呼吸を整える。


「あいつら、やっぱり計画を立てられるリーダーがいるんだな。

 上位種のゴブリンチーフとか、メイジは俺たちじゃ対処出来ない。

 憲兵隊が派遣してくれる冒険者達を待とう」




 数日前から、村の畑や家畜が襲われる被害が出ている。

ボロボロの、どこかで拾った装備で武装した、緑色の小人のような生き物たち。

ゴブリンが村の近くに住み着いたらしく、夜中にこっそり現れては盗みを働く。

 はじめは村人達で対処していたが、ゴブリン達が徐々に知恵を見せ始め、今では警備すらかいくぐる。

ゴブリンを統率する上位者が居る、彼らの知恵では正面突破がせいぜいなのだ。

村長から憲兵隊へ連絡を取り、冒険者達が対応に来る手はずになっている。


 冒険者達。

厄介なモンスター討伐から、手紙の配達まで、いわゆるなんでも屋。

『戦士』の恩恵による適正、『剣士』『拳士』、『魔法使い』の恩恵などなど、戦いに向く恩恵を持った人たちが多い冒険者。

冒険者ギルドが依頼を統括し、依頼を受けた冒険者の集団に報酬を払う。

 未開の森とその先は、旧魔王の支配領域。

支配神サテラの生み出したモンスター、そして旧魔王が従えていたモンスター達が住む領域。

 100年以上前に滅ぼされた旧魔王との最前線、グランダル王国のカトラ村。

ここが人間と、モンスターの領域境界線。





 このカトラ村に、4人の冒険者がやってきた。

リーダーのラル。スカウトを担当しているカルニア。仲間を守る事に長けたダン。魔法使いのストナ。


「冒険者の方々ですね、お待ちしてました」

金髪のガーランド、軽装の冒険者風な装備で、剣を腰に携える。


「君は村の人かい、俺はラル。

 グランダルの冒険者ギルドから派遣された」

黒髪で背の高い好青年。

ラルの鎧が擦れて金属音が鳴る。まわりの仲間たちもラルに合わせて挨拶を始めた。


「スカウトのカルニアだ」

軽装で、短剣と小道具を多く持つ金髪の青年。


「ダンという」

大柄な体躯と、重厚な鎧や盾、剣も大ぶりと全てが大きい男性。


「ストナです、よろしくおねがいします」

金髪の物静かな女性、魔法使いらしく杖で地面を突く。



「僕はガーランドです、今回の調査で案内を担当します」


「それは助かる、ゴブリンの住処がわかっているのか」

ラルがリーダーとして、仲間の前に立って話す。


「森の中に放棄された砦があるんです。

 そこが住処になっていると思いますので、

 本日はその調査と、可能であれば対処までお願いします」


「討伐、・・・ではないのか。

 ゴブリンの上位種、もしくは統率しているモンスターが居ると聞いているが」


「つい最近まで、ゴブリンが村に現れた事はありません。

 今でも森で遭遇すると、人間を見たとたん怯えて逃げていくんですよ。

 森の奥で暮らしていて、村に近づいて来た事なんてありません。

 そんな奴らが、村の畑を荒らしに来ているのはおかしい」


「何かそうなった原因がある、ということか・・・」


「ええ、原因さえ取り除いてしまえば、

 ゴブリン達は村の畑を荒らす事もないと思うんですよね」


「わかった、

 まだ昼前だ、早速砦に向かいたいのだが」


「わかりました、それではご案内します」







 村の裏手側、放棄された砦へと続く旧街道。

街道とはいうものの、砦への物資搬入のために作られた粗末な道。

村を出てすぐに街道は森へと変わり、かつて道だった事すら気づくのも難しい。

成長しきった草木が、街道も含め、砦が放棄されて長い事を示唆している。


「そのまま真っ直ぐです、カルニアさん」

剣を片手に、邪魔な草木を切り払うガーランドが指差す。


「今のところ、ゴブリンの新しい痕跡らしきものは無いな」

地面や周辺の木々、カルニアが慎重に調べながらガーランドの前を行く。


 村はもう木々に隠れて見えなくなり、薄暗い中を5人の男女が進む。

街道の跡らしき石畳の破片、それを頼りに砦を目指して進むものの、ゴブリンの痕跡は見当たらなかった。

 中衛にすえられたストナがキョロキョロし、最後尾でダンが後ろを警戒している。



 唐突に、人のような悲鳴が森に響く。

ただ、それは言葉にはなっておらず、叫びである事だけがわかる。

ストナが驚いて杖を構え、カルニアが声の方角へと振り向く。

「っ!悲鳴!?

 ・・・だよな、こんなところに人が居るのか?」


「今日は誰も村から出ないようにと、村長から指示が出ています」

ガーランドの言葉の後、今度の悲鳴は更に言葉とは思えないものが響いた。


「こっちだ!」



 カルニアが走り、先導する。

5人は街道らしきところから離れ、何者かの悲鳴と獣の慟哭へと近づいていく。

 少し森が開いた場所、緑色の小人が地面に倒れ伏している。

ゴブリンが大型の狼、フォレストウルフに襲われていたのだった。

 3体のゴブリンに対して、フォレストウルフが6匹。

ゴブリンはすでに2体がやられ、最後の1体は怯えながら座り込んでいる。

ウルフ達は、値踏みするようにそのゴブリンを取り囲んでいた。



「フォレストウルフ!」

カルニアが声を上げたことで、ウルフ達の注目が集まる。

 群れのリーダーと思わしき1体が、狩りの邪魔をされた事を不機嫌に思っているようだった。


「皆!構えろっ!」

ラルが剣を構え、4人は手慣れた様子で陣形を作る。

ガーランドは陣形の中に組み込まれていないが、ストナを守るように剣を構えていた。



 飛びかかるウルフを剣で突き、風の魔法で吹き飛ばす。

2匹のウルフが致命傷を負い、3匹のウルフが地面を転がる。

状況が悪いと見たウルフのリーダーが、生き残った3匹を呼び戻した。

 警戒を解かない冒険者達、ウルフ達は後ずさりして森の奥へと逃げ帰っていった。


「追うなよガーランド」

カルニアが声を上げて、しばらく辺りを警戒する。

 怯えたゴブリンが発した音だけが、全員の耳に聞こえていた。


 フォレストウルフの気配が完全に消え、冒険者達は大きく息を吐く。

ガーランドは、怯えたゴブリンへと歩みよっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ