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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第7章:やがて英雄となる者たち

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7章5節:勇者の葛藤③

「んじゃ早速やるかい、勇者くん?」


 アレスが街中で剣を抜こうとしたので、僕は慌てて制止した。


「待ってくれ。ここで戦ったら周りの人たちを巻き込む。レイシャ、悪いけど草原まで送ってくれないか」

「ん、りょーかい」


 レイシャが他の三人に触れると、一人ずつこの場から消えていった。

 最後に僕とレイシャ自身が草原の真っ只中に瞬間移動する。


 レイシャの持つ《権限》――《天閃の誓い》は、一度訪れたことのある場所に自らや触れたものを転送することが出来るのだ。

 それだけでなく、視界を拡大する力もセットになっている。はっきり言って僕の力よりもよっぽどチートである。


「ふむ、これはそっちのエルフの力かい? この距離を瞬間移動するなんて凄まじいなぁ!」


 興奮気味に語るアレスに、アダムが声を掛ける。


「どちらかが負傷しそうになったら強制的に止めさせてもらう。このような戯れが《魔王軍》との決戦に響いては困るからな」

「キミは勇者くんと違ってノリが悪いねぇ。ま、止められるものなら実力で止めてみてよ」

「無論、そのつもりだ」


 そんなやり取りが終わると、僕とアレスは相対した。

 彼は白と黒、二振りの剣を抜き、戦闘態勢を取る。

 一方、僕は小さく「起きてくれ、シェリン」と呟いた。

 すると「はいはい。もう、面倒くさいわね……」という気怠げな少女の声が脳内に響くと共に、青く輝く剣が形成されていく。


 《術式》によって作られた、異能を持つ武装――疑似特異武装の一つである「シェリン」は、アダムが作成した「意思を持つ剣」だ。

 自律的に僕のマナを消費し、《術式》を使うことが出来るという優れものである。

 僕自身の武器が無くなるので滅多にやらないが、必要であれば人型――青髪の猫耳娘――になって戦うことも出来る。

 ちなみに容姿や性格はアダムが設定したものではなく、僕の中にあるイメージが具現化したものだ。前世で読んだライトノベルのヒロインがモデルになっている。


 僕が武器を持ったのを見ると、アレスはすぐに飛び込んできた。

 加速系の《術式》でも用いたかのような速度に驚きつつも、剣撃をかわす。

 否、能力によって剣先が勝手に逸れていった。

 そう、幾ら速くとも、普通の剣による何の特殊性もない斬撃ならば飽きるほどに見てきているのだ。


「へぇ……この攻撃、避けられるんだ」


 アレスが、まるで「命中するのが当たり前」とでも考えているかのような口ぶりで言う。

 僕の能力のせいで思うように剣を動かせていないようだが、動揺を一切感じられないどころか、むしろ楽しそうに笑っている。

 お返しとばかりにこちらも剣を振るも、圧倒的な速度で後退される。

 追撃する為、シェリンから無数の光線を放つ。それら全てが誘導レーザーのようにアレスに殺到するが、彼は「空中でダッシュをする」という物理法則を超越した動きで華麗に躱していく。

 これまでもまともじゃない戦士は数多く見てきたけれど、その中でもアレスは「ゲームのキャラクターがそのまま現実世界で動いているんじゃないか」と思ってしまうくらいには狂っていた。

 だが、常人の域を超えているという意味ではこちらも同じだ。

 僕の思念をシェリンが察知し、加速の《術式》を実行。

 高位の魔人特有の身体能力を活かして草原を飛び回っているアレスに追いすがる。


「凄いな、伊達に《勇者》なんて呼ばれてないってことか! なら……!」


 何度かの攻防の後、彼は突然、白い方の剣を空に向かって投げ飛ばした。

 その剣は猛烈な勢いで僕を背中から貫かんと迫ってくる。

 僕は慌てて反転し、剣を盾のように構えてシールドを展開、剣撃を弾いた。

 これは初めて見た攻撃だ。何らかの《術式》によって剣を遠隔操作したのか、それとも剣自体が持っている力なのか。

 よく分からないが、反応出来なければもろに食らっていたということだけは確かだ。


「防御したか……つまり、これは当たるんだ。なるほどね」


 まさか、もう僕の能力に勘付いたのか?

 動揺しているうちにアレスが迫り、投げ飛ばした剣を回収しつつもう一方の黒剣で斬りかかってくる。

 大丈夫、過度な心配はするな。あの白い剣を放つ攻撃はもう見た。次は避けられる。

 しかし、あちらの攻撃が当たらないとはいえ、こっちもこっちで有効打を与えることが出来ていない。

 だったら、これはどうだ。


 僕はシェリンの力で急加速し、アレスに肉薄した。

 そのまま斬撃を行い、彼が後ろに跳んだところで、剣の形態になっているシェリンを分解。

 アレスの背後に人型で再構成すると、彼女はすぐさま《術式》を使用し、光を放った。

 完璧な不意打ちである。これならばダメージを――と思ったが、光線はアレスの髪をほんの少しだけ焼くに留まった。


「はははっ! 想像以上だよ、《勇者》レインヴァール! 力をセーブしていた非礼を詫びさせてくれ!」


 哄笑するアレス。なにか嫌な予感がした。

 そして彼が地面に黒の剣を突き刺した瞬間、全身を倦怠感が襲った。

 見れば、少し離れたところに立っているアイナやレイシャ、アダムも苦しそうにしている。

 更にアレスがもう一方の剣を空に掲げると、空中に青白い球状の炎が出現する。

 墓標荒野でベヒモスの群れを焼き尽くした時にも使っていた大量破壊魔法だ。

 クソ、一対一の決闘でなんてものを出してくるんだ!

 僕自身は「何らかのご都合主義が働いて」回避出来ても、あんな規模の攻撃ともなれば仲間の三人が巻き込まれてしまう!

 どうすべきかと焦っていた、その時。


「やり過ぎだ……その辺りにしておけ」


 アダムの声と共に、青白い炎が霧散した。


「『魔法破壊』の魔法か。流石は世界最高の魔術師だ。どうだい、キミも参加しないか?」

「断る。いい加減、レインヴァールは返してもらうぞ」

「水を差すねぇ。だったら力づくで取り返して……っと」


 レイシャが能力を使い、僕をアダムやアイナの傍に転移させる。


「ああ、そうだったそうだった。そんな力があるんじゃお手上げだよ……つまらないオチだけど、まあ仕方ないか」


 アレスは残念そうに肩をすくめ、二つの剣を鞘に収めた。


 かくして僕らの決闘は引き分けという形で終わった。

 正直、ほっとしている自分が居る。アダムが介入していなければどうなっていたか分からなかった。

 《紅の魔人》アレス。戦ってみて実感したが、彼は恐らく、噂通り「個人としては最強」なのだろう。

 しかし、それはそれとして、僕もまだまだ精進が必要だな。

 

「さて。どうしようか勇者くん?」

「《黄金の魔人》と出会った時にはこっちで対処させてもらう。でも、もし君の方が先に奴と遭遇することになったら……仲間として信用し、任せるよ」

「……分かった、それで手打ちにしよう。にしても、ビミョーな結末になったとはいえ楽しかったなぁ!」

「僕は別に……」

「君は凄く強いのに? 弱者ならともかく、強者にとって戦いとは楽しいものじゃないか」


 転生前は僕だってそう思っていた。チートじみた力で無双する主人公には随分と憧れたものだ。

 だが、ここが物語の中ではなく現実である以上、そうもいかないのである。


「人だって魔族だって、みんな意思を持って生きてるんだ。戦いはそんな人々の、たった一度きりの大切な人生を終わらせる行為に他ならない。だから楽しんでやるようなことじゃない」

「殺し合いを望んでいるのは人や魔族自身だよ?」

「ホントに好きで戦ってる奴なんて居ない……って僕は思ってるよ。きっと皆の心にもっと余裕が出来さえすれば、争いは起こらなくなる筈だ」

「なるほどねぇ……噂通りの夢想家だ。とはいえ実力もしっかり持ってるようだし、嫌いじゃないかな。これからも勇者らしく頑張ってくれ」

「言われなくても」


 手を振り、去っていくアレス。本当に自由な人だったな。


「さて、僕らも城に戻ろうか」

「ああ……やれやれ。お前に振り回された一日だったな」


 アダムはうんざりしたように言った。彼の顔を見上げて笑うレイシャ。アイナもまた、どこか優しさも含んだ苦笑いを見せた。


「レインがレイシャたちを振り回すのはいつものこと。でも、それが楽しい」

「楽しいどころか毎回、胃を痛くさせられて大変よ……少しは仲間の気持ちも考えなさい」

「ごめん……善処するよ……」


 以前、セナにも同じようなことを言われたな。

 駄目だと分かってはいるけれど、どうしても思いつきで動いてしまうのだ。

 それをアイナもレイシャもアダムも何だかんだ許してくれるんだから、僕は本当に恵まれている。

 この仲間たちと出会えて良かった。幾ら《権限》なんていう特別な力があったって、こうした縁がなければ僕はとっくの昔に死ぬか、この不幸に満ちた異世界に絶望して心を病んでいたかも知れない。

 この幸運に報いる為にも、僕はより一層、正しい「勇者」に近づかねば。

 誰も見捨てない。仲間は死なせないし、敵も殺さない。最小限の犠牲で、今の世界を蝕む無益な戦争を終わらせる。

 創作物の勇者のように、レイジ兄ちゃんのように、強くて優しい人間になるんだ。


 セナ。生まれ変わった君は幸せだろうか? 生き続ける理由は見つけられただろうか?

 そうであるならば嬉しいけれど、もし今もどこかで苦しんでいるなら、今度こそ僕を頼ってほしいな。

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