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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第6章:東方諸国動乱

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6章7節:商会メンバーの能力

 フェルディナンドがエミルと共に他の仲間たちに謝罪しに行くのを見送った後、私は《ヴェンデッタ》の面々を集め、一旦屋敷に戻ることにした。

 あいつが突如として我を失った時の様子、そして今までに起きた同様の出来事を振り返ってみて、一つの仮説を思いついたからだ。


 私は応接室に部外者が一人も居ないのを確認した上で、例の件について伝えた。

 すると、ウォルフガングが少しだけ眉をひそめた。リーズとライルは苛立たしげだ。


「やはりあの時、フェルディナンドは何かされていたと考えるべきだな」

「だね。敵はまず狙いをつけた人物を軽い洗脳で誘導し、自分のところに来たら具体的な……例えば『商会について探っている者を攻撃しろ』みたいな指令を与えたんだと思う」

「うむ。止められなかったのが無念だ……」

「まあまあ。邪魔してきた奴らの側も洗脳されただけの一般人だった可能性が高いんだから、強引に突破しなかったのは妥当な判断だよ。私なら状況次第では殺すことも厭わないけどね」

「そうですよ、団長は悪くありません。これはあの男の迂闊さが招いたことです」

「同感だぜ……にしても、なんで『フェル様』が狙われたんだろうな? やっぱり雑魚っぽいのが悪目立ちしてたから都合が良かったのか?」


 ライルが皮肉っぽくフェルディナンドの愛称を呼ぶ。


「だろうね。あいつは少し前からこの街に滞在してたみたいだから余計に」

「なるほどねぇ……そうやって商会とは無関係な誰かを洗脳し、議員を襲わせたのかねえ。もしミスっても商会は無関係なフリが出来る訳だし、都合の良い話だぜ」

「どうだろ? 議員たちだって襲われるかも知れない時にはしっかり護衛を付けてた筈。それに、こんな街中で人さらいなんかやったら騒ぎになる」

「じゃあ連中も同じ要領で洗脳して、自分から殺されに来るように仕向けたって感じか。全く、どんだけ厄介な能力持ってんだよ……」

「私たち……正確には『ライルとウォルフガング』もあんまりここに長居すると標的になるかも。今回の事件、なるべく早く解決しないと詰んじゃうかもなあ」


 私が二人の名を強調して呼ぶと、ウォルフガングはその意図に気付いたかのようにハッとした。

 一方でライルはきょとんとしている。


「ん、なんで俺と先生限定なんだ? リアとリーズは?」

「もちろん断言は出来ないけれど、私とリーズちゃんは大丈夫なんじゃない?」


 そう言いながら私はレンから受け取った失踪者の名簿をテーブルの上に置き、「仮説」を語り始める。


「これ、よく見てよ」

「職業に何か共通点があんのか? それとも年齢?」

「違う違う、性別だよ。みんな男の人じゃん。つまり『男しか狙われない』んだよ」

「流石に単なる偶然じゃねえか? そもそも御偉方ってのは男が多いもんだろ」

「街中で襲ってきた人たちも同じだったよ。一人も女性は居なかった筈」


 それを聞いたリーズが、驚いたように口を開いた。

 ウォルフガングも頷いている。


「あっ……確かにリア様の仰る通りでした!」

「でしょ? んで今回、他にも仲間は居る筈なのにフェルディナンドだけが狙われた。他の子だって充分に狙うタイミングはあった筈なのにね。たとえばエミルちゃんなんて一人で街を彷徨ってたしさ」

「エミル? どなたでしょうか?」

「いっつもフェルディナンドや他の女の子たちの後ろに居る、ちっちゃくて存在感薄い子だね。昨日、仲間とはぐれてたから保護したんだ」

「そんなことがあったのですか。何というか、序列第三位のメンバーらしからぬ頼りなさですね……」

「リーダーがアレだからしょうがないよ。ともかくそういうことだから、女の子は洗脳のターゲットにはならないんじゃないかと予想してる」


 そこまで説明すると、ライルはようやく納得している素振りを見せてくれた。


「『男に対して有効な洗脳』か……どエロい女による誘惑だったり?」

「あなたねぇ……」


 ライルを肘で軽く小突くリーズ。

 そんなやり取りに笑いつつ、私は続ける。


「あながち間違ってもいないと思うよ。あいつは『私に似た女性を見た』って言ってた。もしかしたら、好意を抱いてる女の幻影を見せる……なんて力があるのかも知れない」

「あ~、あのバカ貴族、リアに惚れてるっぽいもんな……」

「困ったことにね。で、魔族の系統のうちの一つ……淫魔は、異性にだけ効く精神操作魔法を持ってる奴も居るみたいなんだよね」

「淫魔っつうと、よく娼婦や男娼として働いてる奴らか。大半はちょっとした誘惑術や性技以外に何も持ってない下層市民だって聞くが、そんなのが商会のメンバーなのか?」

「つまり『大半』を逸脱してる力を持ってるってことでしょ」

「ふぅん……」


 ライルは何やらじっとリーズを見つめたと思ったら、急に顔を赤らめて目を逸した。


「何よライル。私がどうかしたの?」

「な、なんでもねえ!」

「『もし標的になったらリーズちゃんの幻影が見えるだろうから、そのとき欲望を抑えられるのか』って心配してるんでしょ」

「人の心を読むんじゃねえよ意地悪王女!」

「あ、あなたそんなこと考えてたの!? 変態!」

「いや、だって仕方ないだろ!」

「なはは。実際のところ、いざそうなったら二人は耐えられそう?」


 私がそう言って男組の顔を順番に見ると、ウォルフガングは穏やかに笑った。ライルは少し自信なさげだ。

 

「死んだ(あいつ)の幻影が現れるかも知れないということか。それなら問題ないだろう。もはや夢を見る年でもないのでな」

「お、俺だって……長いことリーズと一緒に居たんだし、幻に飲み込まれたりはしねえよ、多分」

「不安だなぁ」


 そういえば「リーズの幻影が見えるだろう」と言った時、ライルは否定しなかったな。

 つまり「そういうこと」だと考えて間違いなさそうだ。

 ふむ、良い機会だし聞いてみるか。


「……そいや仕事の話とはズレるけどさ。今まであえて触れなかったけど、やっぱり旅の中でリーズちゃんに告白してたんだ?」

「なっ、突然なんだよリア! つか気付いてたのか!」

「なんか余所余所しいんだもん。『いつも通り振る舞おう』って意識してるのが見え透いててさ……で、どうなの?」

「……したよ。そりゃ状況が状況だけに躊躇ったけど、ネルも変に気を遣って欲しくなさそうだったし、あの機会を逃したらもうタイミングが来ない気がして……ごにょごにょ」

「うお~、ついにっ!」


 照れながら答えるライルと隣でもじもじしているリーズの姿を見て、思わず口元が緩んでしまった。

 こんなにも純粋に喜ばしい気持ちになったのは久しぶりかも知れない。ここ最近、私を悩ませるようなことばかり起きていたから。

 それにしても、こうして他人の恋の進展を見て喜んでいるなんて、「何もかも下らない」と思っていた前世の頃の私じゃ考えられないことだな。

 私はニヤニヤしたままリーズに話を振った。


「ねえねえ、なんて答えたの?」

「リア様、あまり詮索しないで下さいっ!」

「え~良いじゃ~ん! ほら、リーダーとして仲間の関係性は把握しておかないといけないじゃ~ん?」

「……『まだ恋愛というものがよく分かっていないから、関係を変えるのは難しい』と正直な気持ちを言いました」


 答えを聞いた私は、大きくため息をついた。


「……リーズちゃんらしいや」

「な、なに呆れてるんですか! 分からないものは仕方がないでしょう!? そう言うリア様はどうなんですか!?」

「えっ」


 不意打ちを喰らってドキッとした。

 私はどうなんだろう? 呆れておいて何だけど、私とて恋愛などした経験は一切ない。

 その対象となり得る相手もユウキ一人くらいしか思い浮かばなかった。


――って、私は今なんであいつのことを思ったんだ!?

 いや違うだろう。あんな奴のことなんかどうでもいい。むしろ大嫌いだ。私はあいつへの当て付けで自殺をしたようなものなのだから。

 単純に、他に選択肢が無いという話に過ぎない。

 レイジは暴力的で苦手だった。今の私は彼に近い生き方をしているかも知れないが、同族嫌悪こそすれ好意を抱くことはないだろうし、抱いたとてもう会うこともない。

 父親に恵まれなかったせいかウォルフガングに父性を感じることはある。でも間違いなく「そういう対象」ではない。

 ライルは昔っからずっとリーズのことが好きだった。

 フェルディナンドは少なくとも異性としては全く好みではない。今後、彼の偏った価値観が変化したとしても友人止まりだろう。

 他にも色んな奴と出会ってきたけれど、友にすらなれなさそうな男ばかりだった。

 だから消去法でユウキしかいない。それだけだ。

 

「リア様、顔赤いですよ。もしやお慕いしている殿方がいらっしゃったり……?」

「居ない! 居ないからね!?」

「ふふっ。そういうことにしておきましょう」

「もうこの話は終わり! 休憩も出来たことだし情報収集を再開するよ!」


 無理やり収拾をつけて応接室を出ようとする。

 そんな時、扉の向こうから《黄泉衆》の男がやって来た。


「レン様からの報告です。例の社交パーティの件ですが『招待状を一つは確実に確保出来るであろう』とのこと」

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