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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第4章:魔王軍、襲来

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4章9節:墓標荒野の決戦

 私たちラトリア勢力がベヒモスの軍勢を進軍開始からたった一日で退けたことにより、ルミナス帝国側が大きな衝撃を受けたのは明らかだった。

 奴らは「物量による圧殺」から「少しでも戦いを長引かせる」という方針に切り替えたようだ。

 とはいえ困ったことに、最初の戦いでこちらがかなり消耗している以上、それが善後策として最適なのも確かである。

 

 敵は魔法や弓を用いる軽歩兵と軽騎兵、そして小型の魔物を用いた散発的な牽制攻撃を仕掛けてきた。

 どれも破壊力こそ大したことないものの、こちら側にストレスを与えるのには充分過ぎた。

 一日目の結果を見て希望と戦意を抱いた多くの者が苛立ち、「序列入りに頼った、敵陣への素早い到達」を求めた。

 しかし「速度を上げて消耗したところを城壁の防衛戦力で蹂躙する」というのが敵の狙いであることは私たちもローレンスも理解しているから、ここでは敵の挑発に乗らず、力を出来るだけ温存することになった。

 結果として、帝国側の陣地との交戦距離に入るまで五日も掛かってしまった。



 早朝。

「あと少しでも侵攻すれば矢と魔法の雨が降ってくるだろう」というギリギリのラインに築かれた野営地にて、私たちは正規軍人を通してローレンスからの命令を受けた。

 これまで通り冒険者と傭兵が先導し、正規軍の援護を受けながら畳み掛けるように城壁を攻める。

 そして、大将であるエメラインという女を引きずり出し、その首を取る。

 エメラインはかつて王都占領の前哨戦で活躍した将軍であり、自ら前線に立って戦闘や指揮を行う苛烈な性格であることが知られている。

 ゆえに「彼女の戦闘能力に対応出来るのであれば」この作戦は妥当と考えられる。

 まあ、慎重に遠距離攻撃を撃ち合うような戦いでは帝国側に分があるので、こうせざるを得ないとも言えるが。



 それぞれが配置についた後、ローレンスが拡声の《術式》――王立アカデミーでオーラフが用いたものの小規模版――によって攻撃開始の合図を発した。

 皆が動き始める中、ふと隣からウォルフガングの心配そうな視線を感じたので、私は笑顔で返してやった。


「大丈夫だよ、ここまで来たらきっと勝てる。今日の為に準備もしてきたし」

「……そうか。開戦前には不安げな表情を見せていたお前がそう言うのなら、間違いないのだろうな」

「うん、信じて。でも危なくなったら助けてね」

「無論、すぐに駆けつけられる位置で戦うつもりではいるさ。さあ、行こうか」


 かくして、決戦が始まった。

 術士たちが協力して巨大な障壁を展開したのを確認し、全軍突撃。

 矢、炎の弾、氷の槍――無数の攻撃が豪雨のように激しく降り注ぐが、全てが霧散していく。

 術士の中には、かつて拠点一つを結界で守っていたシスティーナも居る。あの時は随分と面倒を掛けられたが、味方に回るとこうも頼れるとは。

 なお、アレスは相変わらず一人で勝手に先行している。

 そんなことをすれば当然、障壁の防御範囲から外れてしまうのだけれど、あの男は驚異的な反応速度によって全ての攻撃を回避、もしくは両手の聖魔剣で切り払っている。


「あいつ、ホント狂ってる……」


 荒野を疾駆しながらも、驚きのあまり独り言をこぼしてしまった。

 一方でユウキは、今のところ大人しくしてくれている。

 彼も《権限》の効果によって全ての攻撃を回避出来そうなものだが、やはり一人で突出するよりは味方を守りながら戦うことを選んだのだろう。


 障壁に守られながら進軍して幾らか距離を詰めたところで、敵の重装歩兵が襲いかかってくる。

 数百人規模の部隊が、ざっと見ただけでも二十はある。

 まだあれだけの戦力を残していたことに驚きだが、考えてみれば、今までの戦いにおいて《魔王軍》は主力と思われる部隊を出してはいなかった。

 恐らく、ベヒモスの攻撃に巻き込まれることを避ける為、機動力のない人員は投入しなかったのだろう。


 やがて両軍が衝突、敵の《術式》対策によって大規模障壁が砕かれる。

 しかしここまで突っ込んでしまえば、あちらの後衛は味方を巻き添えにするのを恐れて遠距離攻撃を乱射することが出来なくなる。

 従って、私たちはひとまず目の前の歩兵部隊を突破することに全力を注げるという訳だ。

 だが、装備が整っており気迫も充分な彼らは、間違いなく精鋭だろう。

 量ではこちら側の冒険者と傭兵の混成部隊に劣るが、質では序列入りを除けばあちらが有利な筈。

 決して油断出来る状況ではない。

 事実、序列入りが居ないエリアは敵に押されているようで、後方の正規軍まで攻撃が及んでいる。

 カバーしに行きたいけれど、この期に及んで守勢に回ってもジリ貧になるだけだから、今は攻めることを考えよう。


 そうこうしているうちに、数十人ほどのオークやオーガの重装歩兵が剣を構えたまま、目の前まで迫ってくる。

 五年前の私にとっては間違いなく、絶望的な光景だろう。

 だが今は違う。

 私は、ほんの数秒で彼ら全員を斬殺した。

「通常の剣を使う相手ならば」私が負ける道理はない。《権限》で奪ってやれば即座に無力化出来るからだ。

 

 付近の敵を一掃した後、パニックに陥っている十数人の傭兵たちを見かけたので、彼らの傍に駆け寄った。

 防具は貧相、武器も大半は破損したものをそのまま使っている。

 私は《権限》によって得た質の良い剣を彼らに与えると共に、指示を出していく。


「ねえ! この武器使って良いから私を手伝ってよ!」

「手伝えって、俺たちに何が出来るって言うんだ……!」

「上に居る奴らを叩く。きみらは私が城壁に肉薄するまで傍で援護して!」

「む、無理に決まってるだろ! あんたの方も幾ら序列入りっつったって十七、八の女の子なんだろ!? そんなの危険過ぎるからやめといた方が……」

「うっさい! 付いてきてよ、勝たせてあげるからさ!」


 強気な宣言に狼狽える傭兵たちだったが、やがて彼らは力強く頷いた。

 

「……信じていいんだな、お嬢さん」

「当然!」

「分かった。この命、あんたに預けよう!」


 私は彼らと共に、城壁まで全力で突っ走った。

 絶対防御の力を持つ《竜鱗剣バルムンク》を遠隔操作し、上から飛んでくる矢や魔法を防ぐ。

 しかし全てに対応することは出来ず、傭兵の一人が矢で頭を撃ち抜かれて死亡し、もう一人は炎の魔法で丸焦げになった。

 それでも、一人として立ち止まらない。


 やがて城壁に肉薄すると、大量の歩兵が全方位から迫ってくる。

 体格、装備、人数、全てにおいて私が連れてきた傭兵たちを上回っている。

 剣を持っている敵に関しては「その剣を寝取って」持ち主を貫くよう命じてやったが、槍や棍棒などを使用している者についてはそうもいかないから、傭兵たちに対処してもらうことになる。

 厳しい戦いとなることは明白だったけれど、彼らは臆せず「行け!」と叫んで攻撃を引き付け始めた。


 私は敵兵の脇をすり抜け、一気に城壁に触れられる距離まで移動した。

 上から矢や石などが降ってくるだろうと思っていたが、予想に反して何も起こらない。

 ルルティエが私のやろうとしていることを理解し、何体かのドラゴンを送って上に居る敵を牽制してくれたのだ。

 全く。私のことが嫌いな癖に、そういうところはしっかりしているな。


 それでは、仲間たちの支えに感謝しつつ、行ってみようか。

 全身に力を込め、思い切り詠唱する。

 

「《加速(アクセル)》ーーーーッ!!」


 そして私は、城壁を垂直に駆け上がった。

 呆気にとられる魔族の弓兵と術士たち。

 そんな彼らに向かって、回収した剣を大量に撃ち出す。

 空中に居る状態で正確に敵を狙うなど容易なことではないので、殆どは命中しなかった。

 だが、これは単なる目眩ましに過ぎない。

 歩廊に着地後、私は両手に持った聖魔剣で踊るように敵を斬り捨てていく。

 弓兵や術士など、接近してしまえば決して恐い相手ではないのだ。


 付近の支援攻撃部隊を殲滅後、《強健(フォース)》を使用して一旦、地上に着地。

 先の傭兵団は全滅してしまったのではないかと危惧していたが、どうやらウォルフガングの援護によって脅威を難なく突破出来たらしい。

 流石だ。十年も冒険者をやっているベテランであるルルティエもそうだったが、何も伝えずとも最大限、上手くいくように合わせてくれる。


 傭兵たちはみな驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべ、傍に駆け寄ってくる。


「あんた、すげえな! 城壁をあんな風に上って、チマチマ撃ってくるうざったい奴らを倒すなんて……」

「そっちのおっさんも殆ど一人で倒しちまって、半端ねえよ。こりゃマジで勝てちまうかもしれん」

「後で何か奢らせてくれよお嬢さん! あんたは勝利の女神だ!」

「もう! みんな、まだそういうこと言うのは早いっての。次、行くよ!」


 気の早い彼らに呆れつつも、私はすぐに動き出した。

 この辺りはこれで殆ど制圧出来たと言ってもいいが、まだまだ状況が厳しいエリアはある。

 急いで援護に行かねば――そう思ったところで、異変が起きた。


 今から向かおうとしていた、手薄になっている領域にある城壁の上から、何かが落ちていった。

 それと同時に、地上で入り乱れている人影の一部が、まるで何かを予期して回避するかのように帝国側へと退避していく。

 そして、地上の一点から塔のようなものが湧き出てきて、すぐに城壁を超える高さとなった。


――否、あれは塔ではない。とてつもなく巨大な剣だ。


「まずい」と直感したが、ここからではどうすることも出来なかった。

 振り下ろされる剣が地を裂き、衝撃波を放つ。

 それは、剣の正面に居た百人を超えるであろう冒険者や傭兵をまとめて押し潰し、正規軍まで届いて戦列に穴を開けた。

 一応、あの辺りにも序列入りパーティである《黄泉衆》が居た筈だが、動いているものは大剣の根元の方に向かって移動していく人影――つまり敵だけだ。

 

「一撃で百を屠る大剣使いの女魔将」――エメラインについての、そういった噂話を聞いたことがある。

 つまり、あそこに居るのはまさにその人なのだろうが、攻撃方法に関しては想像以上だった。


「無茶苦茶だぁ……『大剣使い』なんてもんじゃないよ、アレ……」


 つい、そんな独り言を呟いてしまった。

 誇張される形で噂に尾ひれが付くことはままあるものだけれど、これに関しては、現実が噂から受け取れる印象を超越していると言わざるを得ない。


 だが、奴がこうして近くに出てきてくれたのは好都合だ。

 無論、エメラインを討伐することが私たちの作戦目標というのもある。

 でもそれ以上に、私個人があいつを斬りたくて仕方がなかったのだ。


 王都占領の前哨戦で活躍した将軍。王都占領という悲劇を生んだ巨悪の一端。

 すなわち、私が復讐すべき対象の一つなのである。

 その首、この手で断ち切ってやる。

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