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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第3章:王立アカデミーに潜む闇

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3章3節:王立アカデミー

 王国内にあって一際目立つ長大な時計塔。

 それを中心として広がる敷地。

 幾つかの白い建物の合間には石畳の通路や広場がある。今は午前の講義の時間なのでひと気がないが、休み時間にはさぞ賑わっていることだろう。


 そう、ここはラトリアが世界に誇る名門学院――王立アカデミーである。

 依頼を受諾した私たちは、ギルドが諸々の手続きを終わらせるのを三日ほど待った後、この場にやってきたのであった。


 衛兵の許可を得て大仰な正門を通り、噴水のある中央広場で待っていると、程なくして優しげな女性教員が急ぎ足で近づいてきた。


「お待たせしました! あなた方が例の依頼の……?」

「うん。私がリア。こっちの子がリーズ」

「そう長い期間ではないけれど、よろしくお願いするわ」

「ええ、こちらこそ! 序列入り冒険者の方々とお会いできて嬉しいです!」



 軽く挨拶を済ませた後、会議室に移動して事務的な説明を受けた。

 具体的には、担当クラス、講義内容、そして学院での過ごし方などについての案内である。

 私たちは自らの担当する講義やそれに関連する連絡がある時を除き、他の学生に混じって生活することになった。

 前世で言うところの「体験入学」みたいな感じだろう。

 そもそも本来ならば正式に入学する予定だった場所なので、そこに体験入学に来ているというのは何だか妙な話だが。


 説明を聞き終えた私たちは教員の女の人の案内のもと、学院を見て回ることになった――貸与された制服で。

 早速、更衣室で着替えると、同じように制服姿になったリーズの前でくるりと一回転し、スカートをはためかせた。


「おお! リア様、お似合いです! 非常に可愛らしいです!」

「リーズちゃんも可愛いよ。おっぱいのところパッツンパッツンになってるけど!」

「そ、そんなライルみたいなこと言わないで下さい!」

「なはは! アイツはむしろリーズちゃんのこんな姿を見たら照れちゃってシモネタ言えなくなりそう」

「リア様も言わなくていいですからっ!」


 顔を赤らめてもじもじするリーズ。

 明るい青紫のブレザーに似た制服を着ているのだが、胸元辺りのボタンが今にも弾け飛びそうになっているのだ。

 私とて女性的魅力に溢れているエルミアお母様の血を色濃く受け継いでいるので、身体つきにはそれなりに自信があるのだが、リーズは本当に凄まじいな。


 それにしても、つい言ってしまったが「シモネタ」という概念は通じるのか。

 この世界の言語についてだが、今のところ前世に居た頃と何ら変わりなく言葉が通じているし読み書きも出来ている。

「異世界もの」のお約束通りならば恐らく、私を転生させた女神が意識に介入して翻訳してくれているのだろう。

 ただ、たまに翻訳不可能なのか他者に通じないこともあったりして、その度に「気をつけなければ」と思わされているのだ。



 支度をして会議室のある管理棟を出ると、まず講義棟に向かった。

 邪魔になるので使用されている最中の教室には入らなかったが、空き教室を見せてもらった。

 前世の学校のような狭苦しい感じではなく、階段状になっている大部屋で講義が行われているようだ。

 私は中学生の時点で死んでいるので詳しいことは分からないが、たぶん大学の雰囲気に近いのだろう。

 いや、まさか大学どころか高校も知らずに人生を終えた私が、こんな場所で生徒相手に偉そうに物を語ることになるとは。


「ご講演いただきたい内容については先程もお伝えしましたが、冒険者としての生き抜き方をありのままに話して下されば大丈夫です」


 なんとなく教室の椅子の座り心地を確かめていた私に、教員がそんなことを言った。


「……ただ、そうは言ってもここに居るのはみな貴族の方々なので、あまり過激な表現は……」

「あ~、流石に『身体を売って路銀稼ぎをしたこと』とかは伏せとけって?」

「え、ええ!? 序列入り冒険者ともあろう御方が、そんなことしていらしたんですか!?」

「いや冗談。してないしてない」

「もう! 冗談でもそういうことは仰ってはいけませんからね!」


 怒られた。隣でリーズも「そういうの本当に止めて下さい」と怒っている。

 私たちはともかく、実際にそうやって金銭的窮地を脱している下級冒険者も居るのだから、一つの生存方法として間違いではないのだ。

 これくらいの冗談は良いだろうに。



 講義棟を巡った後は、実技棟へと向かった。

 ここにはマナー講習用の教室や女子生徒向けの裁縫実習室などが揃っており、外には運動や戦闘実習の為のグラウンドが広がっている。

 当然「現代の学校そのもの」とまではいかないが、「中世風ファンタジーの学園」という言葉から連想出来るイメージよりは随分と進歩しているようだ。


 グラウンドに出てみると、そこでは剣術と《術式》を交えた実践的近接戦闘術の実習が行われていた。

 と言っても、学生同士で試合をする訳ではなく、木製の訓練用人形めがけて剣を振るったり、水や炎を放ったりしているだけである。


 ところで、私からすると不思議な感覚だが、明らかに年齢が大きく異なっている者たちが同じ授業を受けている。

 下は十二歳ほど、上は二十を超えているように見える者まで居る。

 王立アカデミーは十二から十八までの生徒を受け入れ、成績や親の意向次第だが平均して四年在籍する――という形式になっており、これが前世における学校の風景とのギャップを生んでいるのだ。

 この世界にはあちらのように明確な義務教育制度など存在せず、同年代でも育った環境によって大きく学習状況が異なるから、こういったシステムになっているのだろう。


 そんな、ここが異世界であることを改めて強く実感させられる光景を眺めていると、ずっと案内してくれていた女性教員が得意げになにか話し始めた。


「レティシエル様が昨年、この学院をご卒業なさったことはもちろんご存知ですよね?」

「えっ? うん、まあ……ラトリアの王族は基本的に、ここを卒業してるからね」

「文武両道の第一王子、ライングリフ様や第一王女、ローラシエル様。『一刻も早く戦場に出て国に貢献したい』とのことで早期卒業なさった第三王子のローレンス様。そして先日の件はまことに残念でしたが、語学や政治学に堪能であったグレアム様……」

「く、詳しいね」

「みな素晴らしい方々ですから。そしてレティシエル様もまた、あの可憐さで学力、戦闘技術ともに同期の中で首席だったのです! 教師としてあの方にお教え出来たのが本当に光栄です!」

「へ、へぇ~……」

「今はまだ厳しい世の中ですけれど、あのような天から全てを与えられた御方がいらっしゃるならば、この国の未来は安泰でしょう!」


 王室について熱く語ってくれているところ申し訳ないが、あの連中――とりわけ「あいつ」の真実を知っている私としては、苦笑いしか出来なかった。


 レティシエル・フォルナー・ラトリア第二王女。私より一歳上の姉だ。

 あいつは上っ面こそ良くて、私が王宮に居た頃も分かりやすいいじめはしてこなかった。

 だが、その中身は「悪女」の一言に尽きる。

 使用人や騎士たちに私の悪口を吹き込んだり、嫌がらせをする指示を出したりと、周りを利用して人を追い詰めるタイプのゲスだ。

 露骨に私を見下していた他の兄や姉と違い、レティシエルは絶対に自らの手を汚さず、なおかつ攻撃対象以外の憎悪が自分に向くことを回避するのに長けている。

 良く言えば人心掌握の天才なのだ。

 正直、憎き王族の中で最もタチが悪い。私やお母様の冷遇の直接的原因である父や王妃よりも厄介である。


「リア様、笑顔が怖いです。どうか冷静に……」


 レティシエル王女の素晴らしさを説く教員をよそに、私と姉の関係を知っているリーズが宥めてくる。

 無論、ここで王室批判をしても仕方がないので、適当に話を聞き流した。



 一通り案内が終わる頃には、ちょうど昼休みの直前になっていた。

 私たちは教員と別れて講義棟に戻り、短期間とはいえ生徒として世話になるクラスルームへと向かった。

 そして講義を行っていた者と入れ違いになる形で、堂々と入室する。

 生徒たちにもちゃんと「臨時講師兼、臨時生徒」がこの時間に来ることは伝えられていたようで、反応自体は様々であるものの、みな席を立たないでいてくれる。

 

「話は聞いてると思うけど、この度、臨時講師として来た冒険者のリア、こっちがリーズだよ。ついでに担当講義以外の時間は一緒に学生として過ごすことになったから、ほんの短い間だけどよろしくね!」


 リーズと共に教壇に立って挨拶をすると、生徒たちは盛大な拍手で迎えてくれた。

 本気で嬉しそうにしている者。笑ってはいるが冒険者に対する見下しを隠し切れていない者。手を叩きながらも隣の友人と何やらひそひそと話している者。

 誰もが本心はさておき歓迎の意を表している中、他とは異なる反応を示している生徒が二人、周囲から距離を置くように教室の最後列の両端に座っていた。


 一人は退屈そうに頬杖を突き、こちらを見ようともしない失礼な女。

 くるくるとした金髪を左右で纏めた、いかにも「お嬢様」然とした人物である。


 そしてもう一人。

 目が合った瞬間、私はその女の子と同じように驚愕し、ぽかんと口を開いてしまった。

 美しい青の長髪。可愛らしいベレー帽。

 二年経って心なしかやつれているように見えるが、間違いない。


 レヴィアス公領で出会った少女、ルア。

 きみはこの学院の生徒だったのか。

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