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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第3章:王立アカデミーに潜む闇

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3章2節:北ラトリア解放騎士団

 特に何かきっかけがあった訳ではないんだけれど、ふと昔のことを思い出していた。

「ルア」という名の、内気な少女との出会いだ。

 そういえば、あれから二年間、結局のところ彼女と再会することはなかったな。

「王都で生活することになった」と言っていたから、どこかでたまたま遭遇するようなことがあってもおかしくない筈なのだが。

 どうも引きこもりだったらしいので、あれ以降もあまり街を出歩かないような生活をしているのかも知れない。


 さて、話を現在に戻そう。


 先の「冒険者連続襲撃事件」から十日ほど経過した。

 既にラトリア王国第二王子にして我が兄であるグレアムの「失踪」は、世間を騒がせている。

 死体は跡形もなく燃やし尽くしたので発見されていないものの、接点が明るみになったのか「事件は《狩人の刃(ウェーナートル・ラーミナ)》の仕業である」と公式発表がなされた。

 無論、グレアムが彼らと繋がって人身売買に携わっていた事実が公表される筈もなく、「第二王子は卑劣な犯罪組織に脅されて財産を略奪され、最終的には殺された」ということになっていた。


 件のパーティにはヴィンセントとマリアンナ以外の非正規メンバーが数十人居たが、彼らは捕らえられたのちに「王族殺しの罪を自白」。全員が公開処刑という末路を迎えた。

 恐らくは強圧的な尋問や拷問によって追い詰められ、虚偽の自白をさせられたのだろう。

 本当に殺したのは私なのでむしろ好都合なのだが、なんとも杜撰な対応だと感じる。

 グレアムの王室内における立場が弱かったのか、それとも単に王族共がみな愚かなのか。

 或いは、マリアンナの夫がかなり上手いこと口裏を合わせてくれたお陰だろうか。

 彼はあの屋敷に住んでいたので真実を知っている訳だが、それを隠し通すよう釘を刺しておいたのだ。

 気の小さい男だったので、今後も裏切りに対する報復を恐れてこちらに配慮してくれることだろう。


 そんなこんなで、ひとまず冒険者としての日常が戻ってきた。

 私たち四人――いや、ネルも入れて五人は、依頼探しのために王都の中心街にある冒険者ギルドに来ていた。

 スラム街のギルドには大した依頼が無かった為である。

「巨悪の陰謀を台無しにしてやりたい」という元々の方針もあるが、今はそれに加えて「女王になる為の武器となるものを集めたい」という思いもある。

 どうせやるなら高い評価点が得られそうな仕事にしたかったのだ。


 皆で掲示板を眺める。他のパーティは序列入りである私たちに遠慮するかのように距離を取っているので、先に依頼を取られる心配もなく、ゆっくりと物色出来ていた。


「んー。これ気になるなぁ。どう思う?」


 私は隣に居るウォルフガングの袖を掴みつつ、張り紙の一つを指差す。


「ふむ、俺たちの古巣……近衛騎士団からの依頼か」

「そう。『王立アカデミー』に反体制的な武装集団のメンバーが入り込んでるっていう噂があって、その真偽を確かめて欲しいんだって」


 王立アカデミーとは、王族やラトリア王国圏内の貴族が通っている全寮制の学院である。

 私も、王都占領さえなければ入学する予定だった。

 いわゆる帝王学や政治学、語学などの学問に限らず、武術や《術式》まで高水準な内容を学ぶことが出来ると言われている、名門校だ。

 もっとも、存在意義として重要視されているのは「王侯貴族のコネクション作りの場」といった側面なのだろうが。


 そんな学び舎に反体制組織――前世の言葉で言うならば「テロリスト」が侵入しているとなれば、王都とそこに住む特権階級の守り手である近衛騎士団としては一大事である。

 だが、疑問点もあるのだ。

 元騎士団長であるウォルフガングも同じ思いを抱いたようで、少し呆れたような表情を見せた。


「まだ噂の段階とはいえ、国王のお膝元である王都に潜む不穏な動きの調査と対処を、冒険者に委託するとはな」

「確かにね。まだ復興から三年しか経ってないから余裕が無いのは分かるけれど」

「……まあ、気になるならギルドの職員に話を聞いてみたらどうだ? もしやるなら、今は手が空いているから共に参加しよう」

「おお、助かる~! ウォルフガング、ここ最近は単身での魔物討伐依頼ばかりやってたから寂しかったんだよ~?」

「今はネルも居るのでな。守ってやれる奴が一人でも多く居たほうがいい」

「も~。無愛想で不器用な癖して面倒見が良いんだから~」


 そんなことを言いながら、私は別の掲示板を見ていた他の三人のもとへ駆け寄った。

 何が楽しいのか分からないがネルがニコニコしながら、残っている方の手でリーズの手を引いて色んな依頼を見ていた。


「薬草集め……たのしそう!」

「そうかしら? 私たちはそういう依頼、全然やってこなかったけれど」

「食堂でおしごと! 可愛い服が着られるんだって!」

「こ、こういうのも張り出されてるのね……ふむ、リア様やネルにあの町娘風の仕事着……似合いそうね」

「スライムの集団の討伐だって! やったことある? 怖い?」

「旅の途中で戦ったことは何度もあるけど仕事として引き受けたことは殆ど無いわね。剣に対する耐性は厄介だけれど、動きが遅いから戦士にとってはそこまで脅威ではないわ」

「えっと……お姉ちゃんたちって、いつもはどんな依頼受けてるの?」

「うっ……説明しにくいわ。少なくとも安全なものではないことは確かね」

「前みたいに悪い人と戦ってるの?」

「……基本的にはね。でもネルのことを考えると、こういうものを受けてみても良いのかも知れないわ」

「スライム?」

「そっちじゃなくて。薬草集めなんかの、もっと危険度が低いものよ」


 うーん、何だか水を差すのが申し訳なくなるな。

 本当は私たちみたいなのではなく、もっと「真っ当な」冒険者パーティがネルを拾ったほうが良かったのかも知れない。

 簡単な依頼を受けて日々をささやかに暮らす方が、彼女には合っていただろう。

 とはいえ、《ヴェンデッタ》に入った以上は私に従ってもらうけれど。


「二人と……あとライルもこっち来て」


 少しだけ離れた位置に居たライルも呼び、皆を集める。


「お、リア好みのクソったれな依頼は見つけられたか?」

「うん。これから詳細を確認しに行くから付き合って」



 集合後、私たちは奥の会議室に移動した。

 場末のギルドと異なり、こういうちゃんとした場所には個室が用意されているのが有り難い。


 ギルドの職員である大人しそうな女性が幾つかの資料を長机の上に置き、簡単な内容確認を行った。


「……と、基本的には張り紙にあった通りです。もし王立アカデミーに武装集団のメンバーが侵入していたならば捕縛し、騎士団の詰め所まで連行して下さい」

「ん、殺しちゃだめ?」

「えっと……出来れば生かして下さればと。それがどうしても困難な状況であれば生死は問わないそうですが」

「分かったよ。善処してみる」

「ありがとうございます。それで、あなた方はこの組織をご存知ですか?」


 職員が、資料に書かれていた名前を指し示す。

 少なくともラトリア王国の勢力圏において、少しでも政治に関心がある者ならば誰でも知っている組織名だ。


「《北ラトリア解放騎士団》。王都占領後に出現し、主に王国北部で種族を問わず人を襲撃して回っている武装集団……だったよね」

「ええ。『騎士団』などと名乗っていますが、王室は勿論、貴族の方々や《天神聖団》の承認も受けていません。単なる過激思想を持ったならず者集団です」


 《北ラトリア解放騎士団》は「魔族に侵されたラトリアを解放し、人間族こそが至高の存在であったかつての姿を取り戻す」という主張を掲げている。

 それを果たすため、魔族や半魔と見ればたとえ現地の社会に溶け込んでいようが、彼らを庇う者たちもろとも虐殺している。

 更には、主に王都以北の領地を持つ貴族らに《魔王軍》との戦争で負けた責任を問い、襲撃を何度も企てているという始末である。

 特に、魔族を受け入れる選択を取ったレヴィアス公爵に対する憎悪は強いようで、かの男は頻繁に命の危険にさらされているようだ。


――と、例のテロリスト共について考えていて、ふと気づいたことがある。


「……あ~、なるほどね」

「え。急にどうしたのですか」


 テーブルの長辺側に隣同士で座っていたリーズが、不思議そうに視線を向けてくる。


「いや、さっきウォルフガングと『なんで騎士団は冒険者に向けて依頼を出したんだろう』って話をしてたんだよ」

「こんな時勢ですし、人手不足なのでは?」

「もちろんそれはあると思うけど……王室の連中、実はあんまり本気で対処する気はないんじゃないかなって」

「ま、待って下さいリア様! 何を仰るのかと思えば!」


 王室批判とも取れる発言に対し、リーズが慌てている。

 一方でウォルフガングは彼女と同じく忠誠心こそ抱いているものの、同じ発想に至ってしまったようで、私から目をそらした。


「ほら、今の王族たちってよく街で演説してるけどさ」

「ええ。苦しい世の中ですから、民を激励なさっているのでしょう」

「でも連中、どんどん『王家の責務として、人間族の立場が今よりずっと強かった頃のラトリアを取り戻したい』って方向に思想が寄っていってるよ。正直、このまま行くと危ういよね」

「それは国民の総意でしょう? 彼らは国の代表として何も間違ったことは言っておりません!」


 力強く主張するリーズ。それに対し、長机の向こう側のライルは不快そうに肩をすくめた。


「国民の総意じゃなくて貴族連中の総意だろ」

「そんなことないわよ! 新しく移住した人はともかく、昔から王都や周辺領地に住んでいた人間なら誰だって『あの頃に戻りたい』と思う筈」

「ハッ。住む場所も無く、動物や人間の死体を食って辛うじて生きてた頃に戻るのか。そりゃ最高だ」

「そ、それは――


 リーズが食い下がろうとしたが、泣きそうになっているネルを見て口を噤んだ。

 やれやれ、落ち着いてくれたようで良かった。


「……ごめんなさい。話を続けてください」

「うん。つまり例の武装組織は秩序を乱す危険分子ではあるけど思想的には王室と同じ方向性だから、大々的に敵対したくはないんじゃないかってこと。とはいえ、放置もまずいからこうして依頼したんだろうなって」


 これ以上、この話を掘り下げるのは危ういと思ったのか、ギルド職員が話に割って入った。


「あ、あの……依頼は受けて下さるでしょうか?」

「その前に、もう一つ大事なことがあるよ」

「はい。なんでしょう?」

「どうやってアカデミーに入ればいい?」


 王立アカデミーは生徒も職員も、学院内の敷地にある寮で暮らしている場合が多い。

 外部からの調査も不可能ではないとはいえ、内側に入った方が確実だろう。


 これに関してはギルドの方も考慮していたのか、さっきまでおどおどしていた職員の女性が得意げな顔を見せた。


「実はもう一つ、別口の依頼がありまして。序列入りパーティ限定の依頼ですので、あなた方ならばちょうど良いかと」

「ん、どゆこと?」

「王立アカデミーから特別講師の募集が来ているんです。期間は二週間で、その間は寮の部屋を借りる形になります。募集人数が二人なので、あなた方全員での参加は出来ませんが……」

「へ~、そう来たか! でも冒険者なんかが、あのお貴族さま方の学院に行っていいんだ?」

「『優れた冒険者の生き方や実戦的技術を教えてやって欲しい』とのことです。王都の解放は三年前に果たされましたが、社会に平和が戻ってきたとはまだ言い難いですからね」

「窮地に陥った時に生き残れるように……ってことか。伝統的な学院のわりには、ちゃんと時勢に適応出来てるじゃん」

「ええ。それで……どう致しましょう?」


 さて、「募集人数は二人」と言っていたので、誰が行くか決めねばならない。

 私は真っ先にウォルフガングの顔を見た。

 我が師匠である彼ならば、どちらの依頼においても充分に力を発揮してくれるだろう。何なら一人で解決してしまうかも知れない。


 だが、彼はこんなことを冗談めかして言うのであった。


「別に俺が出ても良いのだが……こういう機会だ、若者が若者らしく学校という場で貴重な体験をしてみるのも良いんじゃないか?」

「学校……よく分からないけど行ってみたい!」


 ウォルフガングの提案に対し、ネルが真っ先に片手を挙げて反応した。

 だが、すぐにライルが突っ込みを入れる。


「いやいや無理だって。絶対馴染めねえって! 絶対トラブルになっちまうって!」

「……私、学校行けない?」

「こんなこと言いたくないが、獣人な上にその身体だ。嫌な思いをしちまうだろう」

「そっか。ざんねん」

「うっ……間違いなく正しい主張をした筈なのに罪悪感が!」


 しゅんとするネル。心苦しさで呻くライル。

 まあ実際、彼の言う通りだ。今のネルにはどちらの依頼もまだ難しいものだろう。

 

「う~ん、ライルはどう?」

「正直あんま行きたくねえな。勿論、命令なら受け入れるけどさ。でも、あんたとリーズで良くねえか」


 私は王族だし、リーズも貴族の家の生まれだ。ウォルフガングが行かないのであれば、確かにそれが無難だろう。


「リーズちゃん、行ける?」

「了解です」

「じゃあ決まり……ってことで依頼は両方やらせてもらうよ。他のみんなは街の方での調査をお願いするね」


 そう言いながらネルの顔を見ていると、彼女にさせてやるべき仕事を思いついたので、ギルド職員に提案してみることにした。


「ねえ。パーティが分断されることになるから連絡係が欲しいんだけど。飽くまで学院に滞在するのは二人だから、良いよね?」

「えっ? それは構いませんが……」

「じゃあネルちゃん。お願いして良い? 毎日、学校まで来てそっちの状況を教えて欲しいんだ。時間は後で決めよう」


 仕事を振ってやると、ネルは「分かった! 頑張る!」などと言いながら、嬉しそうに笑った。

 そんなに私たちの役に立てることが喜ばしいのだろうか。

 或いは何の役にも立てずに居ることが不安なのだろうか。

 どちらでも構わない。仲間として信じ、任せてみよう。

 幸い、以前の市場での出来事を思うに「人の意識外で動く」ということに関して天賦の才があるようだから、その素質を経験によって伸ばす意味でも適任ではあるだろう。

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