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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第18章:昔日のジュブナイル

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18章16節:第三次世界大戦の転換点

 真白の死から一年後、西暦2011年。

 理亜たちの通っていた高校はとうとう閉鎖となった。リヒト症候群による欠席者が増え過ぎた為だ。

 こういったことが世界中で、学校に限らず様々な環境で起き始め、経済、治安、インフラ、あらゆる面で混乱を招いている。

 また、《秘蹟》の使い手の台頭も著しい。

 単に私欲を満たすための行動。自力救済。テロ活動。軍事利用。集団や国家への奉仕。方向性は色々だが、いずれにせよ彼らは個人には過ぎた暴力と影響力を奔放に振るっている。

 そんな彼らに強者は怖れと怒りを抱き、弱者は憧れと希望を抱く。

 潜在的な社会問題が、力を持った「代表者」によって顕在化される。あの異世界でも見てきた、私自身も当事者となった構造だ。


 ここ一年で、このことを表すような事件として日本で特に話題となったのは、とある学校の生徒による大量殺人だろうか。

 彼は《秘蹟》に目覚め、自分をいじめていた、或いは手を差し伸べず傍観していた他の生徒を何十人と殺害した。

 反響は両極端であった。「これだから弱者は罪深い。一人で何もかも諦めて静かに死ね」。「自分たちも《秘蹟》を得て、弱者を抑圧する多数派と戦うべきだ」。

 彼は情状酌量の余地がない悪なのか、それとも彼を追い込んだ世界こそが悪なのか。私は今でもこの件について答えが出せずにいる。

 復讐者としての人生、統治者としての人生、その両方を経ているが故だろうか。



 学校という勧誘の拠点が失われた後、理亜は街を出て日本全国で名を売る活動や仲間集めをするようになった。

 未だ「世界の流れを変えられる存在になる」という目標は遠いが、確実に力を蓄えつつある。



 一方、フィーネと弦義は《トロイメライ》を守りながらも、研究所に残された資料を元に研究を進めていた。

 二人の目標はフィーネを造り出した人体合成装置の改良、そして人格転写装置の開発である。

 《トロイメライ》は単に世界を情報としてバックアップする、というだけのものではない。いつか物理空間が落ち着いたとき、情報空間に住む「実体なき人々」を現実側に呼び戻すことまでが構想に含まれている。

 だが人体合成装置は現状、フィーネの父の《秘蹟》抜きでは機能せず、人格転写装置にいたってはプロトタイプすらも出来ていない。

 システムによる救世を目指す二人は、今は亡き天才達の研究を完成させる必要に迫られているのだ。

 当然、一朝一夕で成し遂げられるようなことではない。

 幾らフィーネが天才の娘と言っても、あまりに人手が不足している。

 かといって他の研究機関と連携しようとすれば情報が漏れ、《トロイメライ》が襲撃される可能性が高まる。データとはいえ無数の人間を生かしているフィーネとしては、そのようなリスクは取れない。

 そこで、彼女は老化を止めて時間を稼ぐことを選んだ。

 強力かつ汎用性の高い《秘蹟》の持ち主にとっては難しくないことのようで、それはすぐに叶った。

 なお、《秘蹟》の使用権を有するのは管理人格側だが、彼女の方も《トロイメライ》を維持し続ける為に寿命を突破する必要があると結論付けたようだ。

 弦義もまた、剣の力で己の時間を止めることにした。彼が未来永劫、フィーネの守り手として添い遂げる覚悟を決めるのにさほど時間は掛からなかった。

 寿命と言えば、理亜も「破壊」の《秘蹟》によって肉体的制約を破壊していたな。

 思えば魔王ダスクやアルケーも当たり前のように延命していた。優れた能力を持つ者が考えることは大体同じらしい。

 

***


 更に二年後、西暦2013年。

 以前の学校の一件のような《秘蹟》使い関連事件は殆ど毎日起こっている。

 理亜と仲間達はそういった事件を鎮圧する一方で、かつて研究所を襲撃したような反《秘蹟》勢力の牽制も忘れていない。

 あの子はメディアのインタビューを受ける度にこう答えている。


「私たちは能力を悪用する者ではなく、権力にしがみつく者でもない、ただ穏やかな日常に生きたいと願う大衆の味方です」、と。

「私たちは《ヴェンデッタ》。日常を砕く悪意と戦う復讐者」、と。


 《ヴェンデッタ》。理亜がそう名乗ったのは全くの偶然なのだろうが、運命めいたものを感じずにはいられなかった。

 


 《ヴェンデッタ》と理亜の名が広まっていく中、世界情勢は転機を迎える。

 第三次世界大戦の発端であった某国の内戦がついに終結したのである。

 勝利したのはレーナフェルト将軍率いる革命軍側。腐敗した政府は彼女の炎剣によって文字通り消し炭にされた。

 だが、それは平和の到来を意味しなかった。

 革命軍には、以前から「《秘蹟》使いの結社が協力しているのではないか」という噂があった。

 レーナフェルトの勝利宣言と共に、その結社の首領――白の長髪の中性的な美青年が表舞台に姿を現したのだ。

 彼の名は「アレーティア」。あの異世界における一大宗教、天神聖団の領地に付けられた「アレセイア」という名と同じ意味を持つ言葉である。

 彼は語る。


「私たちは選ばれし人間の手によって正しく導かれる世界を作りたい」

「手始めにこの国の英雄の力を引き出し、悪しき独裁者を燼滅させた」

「このような革命を世界に輸出するつもりだ。欲で肥え太った無力な為政者たちよ、私たちを受け入れるか、そこの灰と同じようになるか選ぶといい」


 アレーティアは《秘蹟》使いによる新秩序を望んでおり、某国をその足掛かりとする為にレーナフェルトに力を貸していたのだ。

 この恫喝は国際社会を刺激し、場合によってはここで収まったかも知れない第三次世界大戦という炎に薪をくべた。

 各国の利害関係だけでなく「《秘蹟》使いとそうでない者」という今までは水面下のものであった対立構造までもが戦争に波及し、世界中で大々的に「《秘蹟》狩り」が行われるようになった。


 そんな中、理亜は「アレーティア討伐」という目標を掲げる。

 アレーティアはいわば「魔王」である。彼を倒せば誰もが認める「英雄」になれる――そう考えたのだろう。

「自分以外に圧倒的な力を持つカリスマが居ては困る」というのもあるか。

 この宣言は社会からは概ね好意的に受け止められ、今までは《ヴェンデッタ》を警戒していた統治者層も掌を返した。

 理亜がアレーティアに勝利したら、次に彼女の敵意が向くのはそういう奴らだろうに。



 さて。激動の時代であっても、私は個人的な不安を忘れてはいなかった。

 今は2013年。ここが私の生きた現代日本と同じなら、私とユウキが生まれる筈の年。

 暇を見つけては地元に行き、自らやユウキの両親の様子を窺った。


 まず、ユウキの両親は不妊に悩まされているようだ。

 死産どころの話ではない。この世界のあいつはそもそも母親の胎内に宿ることすら無かったのである。


 そして私の場合。

 母は妊娠し、どうせいつか逃げ出す父と一緒になって子どもが生まれる時を待望していた。

 でも。ある日、帰ってみたら。

 見慣れたあの自宅は燃えて無くなっていて。

 父が残骸を囲う規制線の前で崩れ落ち、嗚咽していた――母の名と、「セナ」という名を呟いて。

 どうやら《秘蹟》使い同士の戦闘に巻き込まれ、家に居た母は命を落としたらしい。無論、「私ではない私」も。


 そう。この世界では転生者が一人も生まれていない。

 足元が揺らいだような、自分が否定されたような気分になる。ここは私の生きた世界じゃない、似ているだけの別物だって分かっているのに。私やユウキ、レイジが存在していたことは疑いようもない事実なのに。

 嘘じゃない。夢じゃない。私は確かに生きていたんだ。あの現代世界に。あの異世界に。今だって幽霊みたいにはなっているけれど、記憶も意識もちゃんとあるんだ。

 だから何も疑う必要はない――よね?

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