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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第18章:昔日のジュブナイル

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18章13節:救世の別れ道

 あれ以来、理亜と他の二人は完全に別の道を歩み始めた。

 私は主に理亜を見守りつつ、ときどき弦義とフィーネの様子も窺っている。



 理亜は「世界を救う」という真白の壮大で曖昧な願いを叶えるために、まずは何を目指すべきかを考え抜いて、こう結論づけた。

 フィーネ達の言っていた通り、《秘蹟》は既存科学の限界を突破できる希望だ。故に、支配層による無差別な弾圧を許してはならない。

 一方で、《秘蹟》を悪用し人々に恐れと敵意を抱かせる使い手も排除せねばならない。

 つまり、理亜の答えは「両成敗」だ。

 無論、それだけじゃ一時的に争いが落ち着いても対立構造は際限なく蘇る。

 そこで、世界秩序に影響を与えられるだけの存在となり、《秘蹟》が適切に運用されるような体制を構築する。

 その為に何が必要か――人を惹きつける「名声」と、惹きつけた人々を纏め、操る「組織」である。


 理亜は「自分こそが真白の後継者である」と積極的にアピールするようになった。

 彼女が真白の友人であることは以前から知られていたし、今となっては自ら戦う力も持っているから、民衆はすぐにその言葉を信じて期待を寄せ始めた。

 理亜は内心、彼らのような衆愚を嫌っているのだろうが、「自身の権威を高める装置」として割り切っているようだ。


 それと並行し、協力者を集める活動もしている。

 理亜は「何者かになりたい」という願いを抱えている人々――その多くは大人ではなく、希望という名の青さを捨てられない少年少女である――に接触し、こう言った。


「私と一緒に来て。あなたの人生に意味を与えてあげる」、と。


 そして、誘いに乗った者達に能力を用いて《秘蹟》を与えるのである。

 彼らは力を得た後、揃って理亜に心酔していった。特別になれただけでも喜ばしいだろうに、その特別が儚げな美少女によってもたらされたとなれば無理もない。

 こうして理亜は順調に仲間、或いは手先を増やしていった。


 あの子はすっかり変わってしまった。無意識とはいえ真白に「過ぎた奇跡」を与えて人生を破壊したことを悔やんだ彼女は、もうどこにも居ない。

 仕方のないことだ。元々はなりたくもなかった「英雄」になると決心した以上、過去の己を否定していくしかないのだから。

 なんだか今の理亜を見ていると他人事とは思えない。

 私も酷い世界を変えるため、英雄になることを求めた。権力を欲し、女王にまで上り詰めた。その過程で「カリスマ性に溢れる、強く揺るぎない自分」という嘘を作り上げてきた。

 理亜。もしきみが私の生き様を見たら同じ気持ちになるのかな。

 届くかも分からない希望をチラつかせて大勢を巻き込んで、「世界を救う」と言いながら世界を壊して、恨みや不信を買って、それで同じ結末に行き着くのかな。



 理亜について振り返るのは一旦やめて、あとの二人に思いを巡らせる。

 フィーネは《トロイメライ》に繋がれたカプセルの中に入り、覚めぬ眠りについてしまった。

 呼吸は安定しているしシステムも問題なく稼働し続けているようだから無事ではあるのだろうが、なるほど、確かに親としては到底受け入れられないな。


 彼女の父はフィーネがシステムに意識を囚われることで具体的にどうなるのかを述べなかったけれど、弦義はなんとなく覚悟していたのか、取り乱したりはしなかった。

 でも、心の中まで凪いでいるとも思えない。

 彼はフィーネを守ることに自らの生活の殆ど全てを捧げている。それこそ「フィーネに依存しているのではないか」と疑うほどに。

 私の知る限りでは全く学校に行っていないみたいだし、家にも滅多に帰らない。いつも研究所跡に居て、「いつかフィーネが帰ってきた時の為に」と掃除や修復作業をしたり、資料を読み漁ったりしている。


 最初は「世界に愛想を尽かしたんじゃないか」と思った。真白を失い、理亜とも離れた今、残っている拠り所はフィーネだけ。そのフィーネがこんな状態になっているのなら、もはや「日常」に紛れて生きる理由などないと。

 でも、彼のことを見ていくうちにそれだけじゃないと気付いた。

 彼は度々フィーネの入っているカプセルに背中を預け、彼女に語りかけている。

 独りだった時のこと。真白に振り回されるようになってからのこと。理亜やフィーネと出会ってからのこと。思い出に浸る彼の表情は平時のクールな印象とは異なり、寂しげで優しげで。

 なんとなく分かったんだ。「あぁ、フィーネのことが好きなんだな」って。


***


 真白の死から一ヶ月。

 弦義はいつものようにカプセルの隣の定位置に座り、一人呟く。


「新しい剣を作ったんだ。今度は無限の防御力を持つ剣だ。これがあればどんな攻撃からでもあんたを守れる」

「なあ。名前、付けてくれないか? 名前があった方が扱いやすくはあるんだが、こういうの苦手なんだよ」


 孤独な少年の声が虚しく響く。

 カプセルに立て掛けている剣は《竜鱗剣バルムンク》そのものであった。

 彼はしばらく黙り込んだ後、自嘲気味に笑った。


「……俺、真白に振り回されることに慣れ過ぎてたんだろうな」

「振り回してくれる奴が居ないってのは……そう、怖いんだ。昔には戻りたくないんだよ。力の振るい方が分かんなくて、怒りに任せて人を傷つけてた頃にはさ」

「そりゃ当時の俺は世直しのつもりだったよ。良いことをしてるつもりだった。でも本当は、ただ苛立ちに突き動かされてただけだったんだ」

「俺には『何が正しいか』を見極める判断力も、自分で選ぶ勇気もない。情けない話だよな」

「でも……情けなくても、そういう下手くそな生き方しかできないんだよ。だから――」


「帰ってきてくれよ」。恐らくはそう言いかけた時。


 どういうわけか、カプセルが開放されたのである。

 慌てて立ち上がり、正面から向き合う弦義。

 フィーネがおもむろに目を開く。

 二人の視線が交わる。

 弦義が驚きのあまりどうしていいか分からないでいると。


「……久しぶり、弦義。ずっとフィーの傍に居てくれたんだよね? ありがとう」


 フィーネは、そんなことを言った――まるで別人になってしまったかのような話し方で。

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