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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第17章:星なき空

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17章7節:《ヴェンデッタ》のウィロ

 最初に動いたのはルアだ。


「スタグネイ――」


 減速の《術式》。それが唱え終わるよりも早く、ウィロが力強く地面を蹴って俺たちの視界から消えた。

 頭上から猛烈な殺意。

 俺は距離を取りながら叫んだ。


「横に跳べ!」


 従うルア。直後、さっきまで彼女が居たところをウィロの振り下ろした丸太が抉る。

 丸太は派手に折れ、砂と木片を撒き散らした。


「《水流(ニクス)》!」


 ルアが自身の周囲にそれらを吸収する水の防壁を作る。俺はその詠唱に合わせて《隠匿(コンシール)》で気配を遮断し、ウィロの背中を狙って《迅雷剣バアル》の伸長能力を使う。

 だが。


「見えてんだよ!」


 ウィロはそう言い、もう一方の丸太を背後に回す。

 そしてバアルの刃が刺さった瞬間に丸太を振り上げた。

 バアルを元の長さに戻そうとしたが間に合わず、俺は投げ飛ばされた。

 宙を舞う身体。斜め下から丸太が迫る。


「まずっ!?」


 命の危機を感じたその時、ルアが改めて《停滞(スタグネイション)》を掛ける。今度こそ詠唱に成功し、ウィロの動きが遅くなる。

 お陰でなんとか無事に着地できた。

 危ないところだった。あんなの、一撃でも貰ったら身体のどこかが千切れてお終いだ。

 減速が効いている間にウィロを再び射抜こうとするが、他の《ヴェンデッタ》がルアに肉薄、彼女が身を守ろうとそちらに意識を向けたことで減速が解けてしまう。


 考えろ俺! どうしたらいい!?

 ルアと協力し、まずは他の九人を一掃するか? いや、そうしたらウィロが仲間ごと俺たちを叩き潰そうとするだけだ。

 ウィロは俺の想像を遥かに超えていた。パワー、スピード、感覚、どれも獣人どころか魔族の中でも特に戦闘が得意なオーガ、竜人、魔人辺りの水準に達している。

 とにかく身体能力が高い敵というのは、俺にとっては特殊な術技の運用に特化した敵よりも対策が難しい。

 ルアは俺以上にそう思っているだろう。昔ならば敵がどれだけ速くても時間停止で先手を取れるから有利だったかも知れないが、今は何をするにも詠唱が必要なため、常に後手に回る羽目になる。

 となると、少なくとも剣の能力だけは即時発動させられる俺がウィロを引き付け、その他の対処はルアに任せるのが得策か。


 俺は気配遮断を解いた。どうせバレるのならマナを割く意味はない。

 ウィロの目をじっと見つめ、あえて大げさに《発破(ブラスト)》を詠唱しようとする。

 奴は速度を活かして発動前に俺を殺そうと接近してくる。

 狙い通りだ。どうやら感知能力は高いが読み合いは苦手らしいな。

 俺はバアルの能力で自らを覆う電撃の膜を作り出す。かつてリルと戦った際に決め手となった技だ。


 しかし、ウィロが当時のリルのようにそのまま突っ込んでくることはなかった。

 電撃が発生した瞬間に大きく跳躍したのだ。

 奴は俺の背後に降り、言った。


「小細工ばっかりで弱いな」


 多分、次の一手は丸太による薙ぎ払いだ。

 俺にはそういった広範囲の攻撃を回避する術はない。それでも諦めまいと振り向いて。


 ウィロの更に後ろに立っている、予想外の人物と目が合った。


「《変位(マニューバ)》、《発破(ブラスト)》」


 そいつが淡々と詠唱すると、ウィロの持っている折れていない方の丸太が俺を横から打つ前に停止し、爆散した。


「何の芸もない破滅主義者ごときに随分と苦戦しているようだな」

「オーラフ先生!?」


 ルアが《ヴェンデッタ》と戦いながらも目を丸くしてその名を呼んだ。

 聖人会の配下である《シュトラーフェ・ケルン》の一員が、どうしてここに一人で居る? どうして俺たちに手を貸す?


「あんた、今回は味方なのか?」

「自分は『ラトリア』の味方だ」


 俺の問いかけに対し、オーラフは即答した。

 国への愛が暴走してテロを起こした男の言葉として見ると違和感はないが、これまでは明らかにラトリアに興味がないレティシエルに付き従っていた筈だ。

 離反したのか? 或いはこれもレティシエルの作戦の一環なのか?

 いや、考えるのは後だ。協力してくれるなら誰だって構わない。


 邪魔をされて激昂したウィロが、折れて半分になった丸太をオーラフに投げつける。


「《逆転(リバーサル)》」


 オーラフは一歩も動かず、ただ素早く詠唱した。

 丸太が命中する寸前で発動が間に合い、その運動が逆転、ウィロに向かって飛ぶ。


「なッ……!?」


 流石のあいつもこれには対応できず、丸太に腹を打たれて吹き飛び、広場にずっと昔からある朽ちた石柱に衝突した。

 あの怪力で込めたエネルギーがそのまま自分に返ってきたのだ、普通は内臓破裂で即死だろう。

 だが、ウィロは血反吐を吐いてはいても倒れることはない。 

 すぐに体勢を立て直し、オーラフめがけて突進する。

 奴は《発破(ブラスト)》で迎撃しようとするが、今度は間に合いそうにない。

 でも、俺なら。

 バアルを強く握り、オーラフの眼前に落雷を発生させるイメージを抱く。

 ウィロはちょうどその位置で奴を殴り殺そうと拳を振り上げる。

 拳が頭を砕く前に雷が落ちる。ウィロは驚異的な反射神経でそれを回避したが、負傷が響いたか、かなり不安定な動きになっている。

 勝機を見た俺とオーラフは交互に敵意を引き、互いをカバーするように牽制を重ねた。

 元教師にこれほどの連携ができるとはな。《シュトラーフェ・ケルン》の変人たちと共闘していくうちに鍛えられたか?


「《術式》に聖魔剣……『ズル』に頼らなきゃ戦えない卑怯者になんて負けたくない……金がなくても、頼れる奴がいなくても、私は努力して強くなったんだ……!」


 ウィロが息を切らしながら嘆く。

 

「ああ、確かにあんたは強い。俺一人じゃ余裕で死んでたよ。その強さを救う方向に使えりゃそれで良かったんだ……」

「だから救ってるだろうがあああああァァァ!!」


 吼えて、殴りかかってくる。

 俺は地面に剣を突き立て、電撃を走らせた。

 最初ならば跳んで容易に躱していたであろうウィロだが、既に消耗し切っているためか反応が間に合わず、電気ショックで意識を失い崩れ落ちるのであった。


 その後、俺とオーラフがルアに加勢しようとしたところで、彼女が最後の一人を無力化し終えた。

 参戦を申し出たルア、突然現れたオーラフ、二人の力がなければこの場は切り抜けられなかっただろう。

 しかし、安心して悠長に感謝を述べている暇はない。


「オーラフ、手伝ってくれ! この街に疑似特異武装が――」


 そんな俺の要求を遮り、オーラフは不機嫌そうに言う。

 

「命令するな、自分は君の部下ではない。それと、その兵器のことなら既に自分が停止、回収した」

『……え!?』


 俺とルアは、同時に驚きを露わにした。

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