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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第17章:星なき空

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17章6節:荒れ狂う復讐の炎

 馬を走らせ、アレセイアから王都――もはや首都でしかないのだが、慣習で今も「王都」と呼ばれている――に帰る最中、俺はひたすらレインヴァールの話を反芻していた。

 セナは安心できる居場所がないことに絶望し、死を選んだ。リアになった後もまた同じような環境に苦しめられた。

 二度もこんな目に遭っていれば「世界に復讐したい」と願い、武力と権力を求めたのも無理はない。あの子の怒りは正当なものだ。

 一方で、レインヴァールと同じく残された側であり、己の弱さを嘆いた人間としては思ってしまったんだ。

「無力なりに寄り添ってくれた旧友に対して、その笑顔は流石に酷じゃないか」って。

「報復すべきは振り回された結果として手を下しただけのあいつじゃなくて、あの状況を作った奴らじゃないか」って。

 今となってはどちらの事情も心情も分かるからこそ、尚更にやるせない。

 二人が殺し合う結末を避けられなかったことが悔しい。俺にできることなんて一つも無かったのかも知れないけれど、それでも。

 


 王都に近づくと、嘆きに沈み込んでいた俺の思考は一転してクリアになった。

 争いの空気を感じたからだ。

 日に日に増えている暴行事件とも違う、もっと大規模で苛烈な気配。


 城壁前に到着した俺を待っていたのは、木っ端微塵にされた正門と民衆の悲鳴、武器のぶつかる音であった。

 目が合った近衛騎士の一人が慌てて駆け寄ってくる。


「なんだ? 何が起きてる!?」

「ライル大統領! 《ヴェンデッタ》を名乗る武装集団による多方面同時侵攻です!」


 《ヴェンデッタ》は「災害」という言葉がよく似合うテログループであり、危険度こそ高いものの結束力は弱い。

 実際、これまでラトリア勢力圏内で奴らが起こしたと断言できる事件はどれも小規模なものだったが、これほど組織的な行動もできたのか。


「各方面の状況は分かるか?」

「い、いえ……」

 

 リルが情報を統合し、指示を飛ばしてくれている筈だ。

 俺は「ここで無闇に遊撃するよりは合流を優先した方がいい」と判断し、戦場を迂回する形で馬を疾駆させた。


***


 王城跡を利用して造られた新政府庁舎。

 東西戦争で辛うじて破壊されなかった会議室に入ると、そこにはリルが居た。


「ライル! やっと帰ってきたニャ! そっちはどうだったニャ?」

「聖団が……いや、そんな話は後でいい。今は《ヴェンデッタ》の掃討だ。戦況は?」

「正門の方で近衛騎士団とリルの部下、西は《神聖騎士団(ハイリヒ・オルデン)》を中心とする冒険者パーティ、東は《竜の目》と正規軍が敵と交戦中ニャ。南は今のところ攻められてないから、最低限の衛兵だけ配置してるニャ」


 《神聖騎士団(ハイリヒ・オルデン)》はアルフォンスが長を務める冒険者パーティであり、今は《竜の目》と同様、ラトリア新政府と長期契約を結んでいる。聖団からの離脱によりメンバーが激減し、アルフォンスも《権限》の喪失や負傷で全盛期ほどには戦えなくなったが、今でも序列第二位に相応しい戦闘能力は持っている。


「劣勢な戦場はあるか?」

「正門方面ニャンね。一人、めっちゃ強いのが居るみたいニャ」

「どこのどいつだ?」

「特徴から考えるに、ちょっと前まで獣人解放運動をやっていた『ウィロ』って奴ニャンね。多分この襲撃を計画したのもそいつニャ。《ヴェンデッタ》というある意味平等主義な集団でたくさんの人間を動かせるのは、力のある奴だけニャン」

「ウィロ、聞いたことあるな」


 確か、自分を奴隷として酷使したラトリア貴族を他の獣人と結託して家族もろとも虐殺し、以降も主に上流階級を標的とするテロを起こしていた少女だ。

 武器や術の類には頼らず、凄まじい膂力を以て周囲の建物ごと敵を蹂躙する、なんて噂がある。

 過激な活動家ではあっても無差別殺人をするようなタイプではなかったように思うが、いつの間にやら崩壊思想に毒されて《ヴェンデッタ》入りしていたか。


「他の戦力の一部を正門側に回せないのか?」

「それは難しいニャンね。ウィロ以外は多いだけで別に強くないニャンけど、捨て身の攻撃をしてくるから充分な戦力を置いておかないと被害が拡大しちゃうニャ」

「そうか……壊すことも殺すことも死ぬことも躊躇わない奴らってのは厄介だな」

「うーん、リルも加勢したほうが良いニャ?」

「いや、あんたは指揮を継続すべきだ。行くなら俺だが、一人でどこまで役に立てるか……」


 と、その時、会議室の扉が遠慮気味に開かれた。

 現れたのはルアだ。基本的にはレヴィアスに居る彼女だが、今日はちょうど所用で王都に滞在していたんだったな。


「あの、結構まずいんですよね? 私も戦います」

「……やれるのか?」

「はい。確かに《権限》は無くなっちゃいましたけど、私はそれだけの人間ではありません」


 ルアの返事に迷いはない。

 彼女は優れた術士ではあるものの、《権限》抜きでの実戦を経験したことはないはずだ。

 今のラトリアにとっては「優秀な官僚として」必要な人材というのもあり、積極的に戦闘に出そうとは考えていなかったが、侮りすぎていたか。


「……分かった、そう言うんなら一緒に行こう。リル、ここは任せた」

「逃げ隠れが得意なあんたなら大丈夫だと思うけど、死ぬんじゃないニャ、大統領!」


 俺は頷き、ルアと共に駆け出した。



 俺たちが政府庁舎前広場を通過しようとしたとき、ちょうど向こう側から包囲を抜けて十人ほどの敵がやってきた。

 その中でも特に目を引くのは、先頭に居る女。

 傷んだ長い茶髪に傷だらけの身体。狼状の耳と尻尾。まだ少女と言える年齢だろうに、数多の修羅場を潜ってきたかのような険しい表情。両手に一本ずつ持っているのは民家からもぎ取ったと思しき長大な木材。

 間違いない、ウィロその人だ。


「大統領に、そっちは元公爵のルアだっけ? 自ら戦場に立つのは偉いな。流石、搾取するだけの貴族共とは違う」

「ウィロ……俺たちは昔のあんたが望んでいた、獣人が差別されない社会を創ろうとしてるんだ」

「あ、私のこと知ってるんだ。そういうのはもう諦めた。無理だから。全部殺して何も生まれないようにする方がずっと平等で平和で優しくて、現実的で根本的だろ?」

「俺たちを信じて、矛を収めてはくれないか」

「正しいことをしてるだけなのになんでだ? やっぱりお前らじゃ駄目だな! アステリアとは違う……あいつならきっと分かってくれたのに!」

「そう言うあんたはリアのことを何も分かってないな。理解は示しただろうが、止めた筈だよ。あの子は滅びなんか望んじゃいなかった。最低な世界を何とか変えようと頑張ってたさ」

「……元公爵、獣人のお前は分かるんじゃないか? 自分たちなんか生まれない方が良かったって」

「勝手に決めないで下さい。私は自分の人生を受け入れてるんです」

「そうか。だとしてもお前が生まれるべきじゃなかったことには変わりない。一度は弾圧する側に回ったんだからな」


 ウィロは完全に崩壊思想に染まっていた。元々は哀れな被害者であっても、こうなってしまったら後はもう戦うしかない。

 悲しいことだが、俺は立ち止まっていられないんだ。世界が大嫌いで、生きるのが苦痛でも生きたいと願ってる奴らが居る限りは。

 俺は《迅雷剣バアル》――正式に所有権が移譲されたということなのか、リアが死んだ今でも使えている――を構え、ルアも右手を突き出す。

 直後、ウィロは何の気なしにとんでもないことを言い放った。

 

「そうだ、一つ言っておくと、この街に大量破壊の疑似特異武装を仕掛けた」

「は……!? おい、まさか……!」

「この前の爆発事件。あれと同じくらいの威力が出せるんだって。空気中のマナを充分に取り込んだらすぐにでも発動して、この王都を更地にする」

「どこに設置した!? 言え!」

「言うわけないだろ。勿論、捕まえて拷問したって無駄。こっちはハナっから自分たちごと消し去るつもりでここに来てるんだよ」


 《ヴェンデッタ》の表情を観察する。誰もがウィロのように切実な怒りを湛えているか、或いは虚無であった。

 これは俺たちを動揺させるためのハッタリなどではなく、事実だと考えるべきだろう。

 俺はルアを横目で見て言った。


「時間がない、迅速に突破する!」

「はい! 最悪、私一人で引き付けてライルさんだけでも離脱させます!」

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