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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第17章:星なき空

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断章:これまでのあらすじ(第16章までのネタバレ注意)

※ネタバレ注意。第16章終了時における各組織の状況解説と、第14章から第16章までの物語のあらすじです。これまでの出来事を整理するのにご利用下さい。


▼組織の状況

【ラトリア王国】

所属:ライル、リル、アルケー、ルア、フレイナ、フレデリック、バルタザール、フェルディナンド、エミル

協力:アルフォンス、トロイメライ、ルルティエ、ゲオルク、システィーナ


天暦1046年の魔王戦争終結以後は「魔族が現れる前の古き良きラトリアの復興」を標榜し、より強権的な姿勢を見せるようになる。

旧ルミナス帝都を犯罪者の流刑地とする「ソドム合意」を利用したスラム住民の強制退去が進み、王都の治安も回復しつつある。


しかし、アステリアとライングリフの対立から生じた内戦「ラトリア継承戦争」と、戦勝を経て女王となったアステリアの治世により状況は一変。

戦争の傷が癒えないまま「新ラトリア法」――「貴族制の廃止と官僚制の開始」「格差是正」「地上開拓を目的とした資源運用」「かつての敵国であったルミナス帝国との連携」といった急進的な政策を実施したため治安は再び悪化していく。

アステリアはこの混乱を強引に収めるため、恐怖政治に移行していった。

やがて亡命した旧貴族を中心とする西方勢力に戦争を挑まれ(「東西戦争」)、当初の絶望的な予想に反して善戦したものの……。


【ライングリフ派】

ラトリア王国の王侯貴族の中でも特にタカ派とされる勢力。

ラトリア第一王子にして次期国王と目されるライングリフを中心とし「人間族至上主義」「覇権主義」「国粋主義」を掲げる。

彼らにより「ソドム合意」が発案された。

現在、ラトリアで力を持っている王侯貴族の多くがライングリフ派か、もしくは彼らと対立しないように立ち回っている。

国益を何よりも重視するため、天暦1000年から1046年の間ずっと魔王軍に脅かされてきたラトリア勢力圏の民衆からの人気は高い。


ラトリア継承戦争で多くの王族、貴族、何よりトップであったライングリフを喪い、瓦解する。

残党の多くはラトリア勢力圏から逃亡、西方連合の領地にて《ヴィント財団》を後ろ盾とする亡命政権を築いた。

一部、ラトリアに残留してアステリアへの抵抗を続けている者や、アステリアに恭順する道を選んだ者も居る。


【レヴィアス公爵領/レヴィアス県】

北部平原におけるルミナス帝国サイドとの和平交渉の際、魔王軍によって殺害された(実際にはライングリフの指示で《シュトラーフェ・ケルン》によって爆殺された)レヴィアス公爵に代わり、現在は娘のルアが運営を行っている。

ルアは父とは打って変わってライングリフ派に同調する方針を取っている。


ラトリア継承戦争後は新ラトリア法の発布、また領主のルアがアステリアに恭順したことにより、公爵領ではなく自治権を大きく制限された「県」となった。


【ブレイドワース辺境伯領】

アステリアが支配する領地。寒冷な農業地帯。

アステリアの英雄的活躍に対する報奨としてラトリア国王から贈られた。

魔王戦争終結前は「ウィンスレット侯爵領」というルミナス勢力圏の領地だった。

領地を求めた盗賊団(とその背後に居るソドム統治軍)の攻撃を受けていたが、逆に彼らを取り込むことに成功する。

アステリアの「種族、階級を問わず受け入れるが悪事を働く者には容赦しない」という姿勢により、住民が多民族化・多層化しながらも秩序を保っている。

衛兵のほか、アステリア直属の私兵部隊《アド・アストラ》を擁する。


ラトリア継承戦争の最中、ライングリフ派貴族による焼き討ちで壊滅したが、アステリア軍は王都を制圧し、新たな拠点とした。


【ルミナス帝国】

所属:チャペル、ヴェルキン


魔王戦争の最終局面、ルミナス帝都侵攻戦にて協力関係にあった魔王軍が崩壊。統治者たる皇帝アウグストおよび皇女チャペルも失踪(実際にはアステリアが確保)し、戦争の終わりと共に事実上の滅亡を迎えた。

旧帝都は「ソドム合意」に基づき、戦勝国が共同管理する流刑地「ソドム」となった。

しかし、管理の為に編成されたソドム統治軍が独立を企てたことにより聖人会の粛清を受ける。

その後、空白地帯となった旧帝都はラトリア王国正規軍が実効支配した。

なお、帝都やウィンスレット侯爵領は帝都侵攻戦で征服されたものの、未だ侵略を受けていないルミナス勢力圏の領地や小国も存在する。


ラトリア継承戦争の最中、アステリア軍によって帝都が解放された。皇帝アウグストは死亡したものの娘のチャペルが新たな皇帝となり、ルミナス帝国の復活を宣言した。

魔王軍残党系武装組織の中でも最大規模であり統率も取れている魔興旅団を兵力として取り込んでおり、その長であるヴェルキンは新生帝国軍の将軍となった。

アステリアとチャペルが相互理解に至ったことにより、かつて敵国であったラトリア王国とは友好関係を築いている。


【東方諸国】

所属:レン


ラトリア王国の更に東に存在する都市国家群。

一つ一つは小規模だが、同盟を結ぶことによってそれなりの権威を保っている。

「エストハイン王国」はその中において最も力を持っている、盟主的な国家である。

「東方文化」と呼ばれる独特な物品や建造物、食事などの様式が流行している。

ラトリアとの積極的な敵対は避けており、彼らの提案したソドム合意にも参加しているが、政治の中心に居るのが覇権主義的なライングリフ派であることからエストハイン王国の女王レンは強く警戒している。


ラトリア継承戦争においてはアステリアの側に付いた。

一方、東西戦争では強権的に振る舞い始めたアステリアを警戒し、中立を保つことを選ぶ。


【天神聖団】

所属:聖団法王


世界最大の宗教組織。

西方大陸に存在する「聖団領アレセイア」を本拠地とする。

「聖団騎士」や「修道術士」といった独自の兵力を保有しており、必要に応じて各国に派遣している。

戦後社会におけるラトリアや西方連合などの台頭を警戒しており、それらを牽制しつつ自らの権威を維持するため、ラトリア王国第二王女レティシエルとアダムから持ちかけられた提案――聖人会の結成に合意、協力した。


アステリア即位後は、ルミナス帝国との協調や地上開拓といった禁忌に触れたアステリアを破門し、宗教という立場から彼女の力を削ごうとした。

世俗権力に迎合し、他国に政治的干渉を行うその在り方は一部信徒の失望を招き、アルフォンスおよびトロイメライという重要人物の離反にまで至った。


【聖人会】

所属:レティシエル、レインヴァール、レイシャ、クロード、アルマリカ、トリスタン、ベルタ、オーラフ


天神聖団を後ろ盾として結成された、《権限》所有者(通称「聖人」)たちの集まり。

特定の国家や組織の利権に縛られず、天上大陸各地の問題に介入して秩序を保つこと、また《権限》所有者の相互監視を目的としている。

聖人たちの間に地位の差はないが、レティシエルが実質的な代表者となっている。


組織としての存在感が十分に高まった段階でレティシエルが合議制を実質的に破棄する。

これによりレティシエルの意に沿わない者が弾かれ、聖人会は単に彼女が運用する私兵部隊のような存在になった。

以降も元々の目的である「勢力間のバランスを取ることによる秩序維持」に準拠した行動を取っているが、レティシエルの真意は不明である。

ラトリア継承戦争においてはアウグストを殺害。

東西戦争においては終盤で本格参戦し、アレス、アダム、アイナといった貴重な戦力を失うことになった。


【ヴィント財団】

クロードにより運営される、世界最大の商業組織。

あらゆる事業に携わっており、もはや彼らなしでは天上大陸の経済は成り立たないとされる。

ラトリアとの繋がりを強めたこと、ドーンライト商会が弱体化しつつあること、ドーンライト商会の協力なしで独自に《術式》や疑似特異武装を作り出す技術を確立したことから、その勢いは更に増している。


「金を稼ぐこと」だけを目的としており、ラトリア継承戦争においてライングリフ派に協力していたことも、その後に亡命貴族を支援しつつ聖人会との結びつきを強めたことも、全ては戦争を激化させて金を生む為である。

勢力間の均衡を求めているのは「一強体制よりも戦争が起きやすい」と考えているからであり、根本的に聖人会の理想である秩序維持とは食い違っている。そのことをアダムは危険視している一方、レティシエルは特に気にしていない。


▼これまでのあらすじ

▼第14章

 ソドム解放には成功したもののブレイドワース辺境伯領を滅ぼされたアステリア軍。

 彼女たちは一旦、帝都で休息を取りつつチャペルによるルミナス帝国復活宣言を見守った。


 一方その頃、ラトリア王国ではレヴィアス公爵領との連携強化を目的としたライングリフとルアの結婚式が行われた。

 これは飽くまで政略結婚であり、二人の間に愛はなかったが、「故郷への愛」という共通点で彼らなりの絆を結んでいた。


 それから少し経って、アステリア軍は王都侵攻、そしてライングリフ討伐を目指し、帝都を出発した。

 限られた資源を無駄にしないため、危険性は高いが移動距離が短い空洞域を進む。

 そこにフレデリック将軍率いるラトリア王国正規軍と、《シュトラーフェ・ケルン》の四人が攻撃を仕掛ける。

 アステリアはまずライル、リル、ゲオルクを連れて先行し、《シュトラーフェ・ケルン》を撃退することにした。

 天才的な隠密戦闘技術を用いるアルマリカ、様々な薬を使いこなすトリスタン、鎧の効果で凄まじい膂力と防御力を持つベルタ、《術式》の弾幕を展開するオーラフ。

 みな強敵であったが、ゲオルクがベルタの鎧を破損させたことにより《シュトラーフェ・ケルン》は引き時と判断し、「ライングリフ派を辞める」と言って撤退していった。

 それに合わせ、アステリア軍が侵攻する。

 正規軍が迎撃しようとしたが、その隙を突いてアステリアは正規軍を壊滅、フレデリックを捕虜にするのであった。


 次の戦場は墓標荒野。

 ここには《ヴィント財団》の所有する奴隷生産施設《工場》で生まれた奴隷に疑似特異武装を仕込んだ「人間爆弾」が多数放たれており、アステリアたちは気分を害しながらも前進した。


 王都近郊に到着したアステリア軍は、三つの部隊に分かれて王都を攻撃し始める。

 アステリア、アルケー、術士を中心に構成された第一部隊はルアと衝突する。

 ライル、システィーナ、ドラゴンを中心とする第二部隊は攻撃力を活かして敵兵を減らしていく。

 ゲオルク、リル、ルルティエの第三部隊は銀竜レグスに乗って空から王都に突入、フレイナを攻撃する。

 死傷者、疲労やマナ欠乏によって戦闘不能になった者を多数出しながらも、それぞれの戦場で勝利を収めた彼ら。

 しかし、ここで最強の剣士にしてアステリアの師、《剣神》ウォルフガングが現れる。

 彼は先行していたゲオルクとリルを迅速に無力化。続いてやって来たライルほか数十名も容易く一掃した。

 

 アステリアが王都内部に到った頃には、彼女の軍勢で戦える者は殆ど居なくなっていた。

 それでも前に進み続け、ついには最後にして最大の脅威であるウォルフガングと対峙する。

 彼はアステリアの側に正義があると考えつつも、大切なものをもたらしてくれたラトリアを裏切ることはできないと語る。

 そして、師弟の対決は始まった。

 愛する弟子を殺す覚悟を決めたウォルフガングの強さは圧倒的であり、彼の聖魔剣《虚数剣ツルギ》が他の聖魔剣の能力を打ち消せるというのもあり、苦戦を強いられる。

 戦いの中、ふとウォルフガングは問う――「あなたは本当に『あなた』なのか」と。

 彼はアステリアの口調や振る舞い、戦闘スタイルが王都占領を境に急激に変化したことから、彼女の人格に違和感を覚えていたのだ。

 アステリアは真実を隠すべきではないと思い、初めて、転生者以外に自身が転生者であることを打ち明けた。

 ウォルフガングは「セナ」の事情に理解を示すと共に、「アステリア」の師匠として「あの子の才能を信じてやれ」という忠告も行う。

 アステリアは彼の言葉を受け入れ、《権限》覚醒後に会得した中距離戦主体のスタイルではなく、それ以前に学んだ純粋な剣術を軸にして戦う。

 最終的には左腕を犠牲にしながらも、ウォルフガングに刃を届かせることに成功した。

 ただ、それはウォルフガングが「忠義」を忘れて愛弟子との決闘に集中してしまったことで《権限》を喪ったからこそ成せたことであった。

 師匠を越える機会を失ったこと、彼が敵となっても最期まで自分を案じていたことに涙する。


 アステリアは底を突きかけている体力を振り絞って王城に入っていき、ついにライングリフに辿り着く。

 斬り伏せられた彼は傍らのクロードに自分ごとアステリアを爆殺するよう求めるが、クロードはそれを裏切り、市街地を爆破して去っていく。

 残されたライングリフは敗北を認め、愛するラトリアの未来を託して死亡。「ラトリア継承戦争」はアステリア側の勝利で幕を閉じた。

 直後、アステリアも力尽きて気を失う。


 目を覚ました彼女は父バルタザールのもとへ行き、王座の継承を求める。

 バルタザールは「王であることが自分を苦しめている」と考え、その要求に応じた。


 天暦1048年7月30日。かくしてアステリアは女王となった。

 即位した彼女はその日、称賛と罵詈雑言の両方を浴びながら「人類平等宣言」を行うのであった。


▼第15章

 野望を叶えたアステリアであったが、人類平等宣言によって人間族の上流階級の反感を買ったため、戦後の復興が遅滞していた。

 各地で反動勢力が武力による抵抗を続ける一方、獣人や魔族などによる「復讐」も多発するようになり、ラトリア社会は地獄の様相を呈している。


 アステリアはルアやフレイナ、フレデリックなど、能力と信念のある者は以前の立場を問わずラトリア新政府の官僚や軍人として引き入れていく。

 そうした中、ウォルフガングとの戦いで負傷した左腕に違和感を覚えた彼女はアルケーの診断を受ける。

 結果、戦闘でのマナの過剰消費によって呪血病を発症している可能性が高いということが分かった。

 アステリアは「王座という手段を手に入れただけで、本当にやりたいことはまだできていない」と嘆く。

 彼女は避けられない死を前にして焦り、急速な改革を目指し始めた。


 天暦1048年9月1日。アステリアの発布した「新ラトリア法」により貴族制は消滅、王室も廃止され、彼女が最後の君主となることが決まった。

 また、呪血病の研究や可住地の拡大を目的とした地上開拓計画など、急進的な政策を実行していく。

 そうして生まれた混乱を強引に収めるため、彼女は反対派貴族の公開処刑を行うという恐怖政治に走る。

 結果、反対する者たちは恭順の道を選ぶどころか西方大陸に亡命し、《ヴィント財団》の援助を受けて組織化してしまう。


 それから一ヶ月ほど経っても治世が安定することはなく、むしろ西方勢力による経済制裁や天神聖団の破門によってアステリアとラトリア王国は更なる窮地に追い込まれつつあった。

 やがて亡命貴族たちが「ラトリア王国の奪還」を掲げてラトリア新政府への宣戦布告を行う。

 アステリアは絶望的な状況下で、再び大規模な戦争――「東西戦争」――の当事者となるのであった。


▼第16章

 アステリアは人々の士気を引き上げるため、王都で演説を行っていた。

 その時、一般人のように見える何者かに暗殺されそうになる。

 疲れ果て、心が闇に染まっていた彼女は、その者を逮捕するのではなく刺殺してしまうのであった。

 トラブル――或いは評価を悪化させることを狙った工作――に見舞われながらもなんとか兵をまとめ上げ、防戦の準備を整えるアステリア。

 そして天暦1048年10月10日、ラトリア王国と西方勢力の衝突が始まった。

 

 まず敵軍はアステリアの読み通り、東方大陸最大の港があるレヴィアス県への攻撃を行う。

 主要な対抗戦力はルア、フレイナ、《竜の目》。

 敵は海路で大量の《工場》産人間爆弾を送り込んでくる。それをフレイナを中心とする砲撃部隊と《竜の目》が迎撃する。

 そこに敵軍本隊が陸路で攻めてくる。

 物量と破壊力がある海側の戦力も無視するわけにはいかないため、ルアはそちらを《竜の目》と衛兵に任せ、フレイナの後方支援を受けながら一人で前衛として本隊を抑えることにした。

 時間停止の《権限》や妨害に特化した《術式》を巧みに操り、攻勢を食い止める。

 とはいえ、たった一人で前衛を担当するというのは無理があり、絶体絶命の状況に追い込まれてしまう。

 そこにルミナス帝国軍将軍ヴェルキンとその部下が駆けつけ、彼女を救う。

 新皇帝チャペルと帝国軍はアステリアから与えられた恩に報いたいと考えたのである。

 彼らの加勢により、レヴィアスにおける戦いはアステリア陣営が勝利を収めた。

 

 一方、ラトリア王都北の平原ではフレデリック率いる王国正規軍が防衛陣地を築いていた。

 そこに攻め入るのは、タカ派で知られる元ライングリフ派貴族のウォーレスが指揮する部隊。

 彼はラトリア北方戦争の原因を作った人物でもあり、かの戦争での失態で自信を喪失したフレデリックにとっての仇敵であった。

 フレデリックは亜人部隊が合流した新生正規軍を的確に運用し、偽装退却戦術を以てウォーレス軍を壊滅させる。


 アステリアは当初の予想よりも状況が良いことに少し安堵しつつも、未だ動きを見せない聖団勢力を警戒する。

 そんな中、アルフォンスとその部下、トロイメライが聖団から離反し、アステリア側に付く。

 それは「権力に固執する聖団よりもアステリアの方が分断と混乱に満ちた世界を救いうる」と考えた末の行動であった。


 10月末。ここまでの勝利によって敵軍の士気が下がり、アステリア軍優勢に傾いていたところで、ついに西方勢力最大の脅威である聖人会が王都に直接攻めてくる。

 アルフォンスと聖団の戦士はアステリアにトロイメライを託し、立ち向かっていった。

 その時、アステリアはトロイメライに声を掛けられ、「あなたは死を怖れている」と見透かされる。「あなたは世界に価値を見出した」、とも。

 彼女の言葉により、アステリアはようやく自覚した――自分は壊すためではなく、救うために戦っているのだと。


 戦場に出たアルフォンスたちと交戦するのは、個人戦闘力最強と目されるアレスと、至高の魔術師アダム。

 尋常ならざる強さを誇る二人と連戦になり、アルフォンスたちは戦闘不能になる。

 アレスは単独で王城に向かい、上階で砲撃を行っていたフレイナを消し飛ばす。

 怒りのままに戦うルアであったが、戦闘を専門としていない彼女がアルフォンスでも勝てないほどの存在であるアレスに勝てる筈もなく、あえなく致命傷を負う。

 しかし、彼女は《権限》の真の力と思われる「時間遡行能力」に覚醒。

 フレイナが死亡する前の時間に戻り、「未来からの奇襲」というアレスですら予測できない攻撃によって彼を討つ。

 不殺の制約を破ったことでルアは《権限》を失ったものの、それよりずっと大切なものを取り戻した。


 その頃、ライルは離れたところから王城に攻撃を行っている何者かの居場所を探っていた。

 絞り込んだ位置に向かうと、《シュトラーフェ・ケルン》のアルマリカと遭遇、戦闘になる。

 アルマリカはアステリアの理想を「下らない夢想」と嘲る。

 精神的攻撃を受けて揺らいだかのように見えたライル。しかしそれは演技であり、彼はむしろ「精神攻撃に頼らねばならない」ことからアルマリカのマナが尽きかけているのを見抜いた。

 勝利を確信するライルであったが、王城での戦闘が激化すると、アルマリカは満足げに戦闘を中断した。

 《シュトラーフェ・ケルン》の四人の任務は王城から戦力を削ぐための陽動だったのである。

 ライルは急いで王城へ駆けていった。


 王城では、アステリアがルアから報告を受けていた。

 アレスという最大の脅威を奇跡的に乗り越えたとはいえ、残りの戦力をアステリア一人で撃退せねばならないことから、彼女は恐怖に苛まれていた。

 それでも無理やり笑顔を作り、傍らに居るリルに逃げるよう命令する。

 リルは「『剣の王女の英雄譚』というタイトルでアステリアの真実を語り継ぎ、敵陣営の撒いた悪評を払拭する」と言い、その場を後にした。


 一人になったアステリア。そこに聖人会の残存戦力であるレインヴァール、アダム、レイシャ、アイナの四人がやってくる。

 レインヴァールはアステリアと対話し、彼女が世界を救おうとしていることには喜びつつも、やり方に問題があると語る。

 アステリアは非現実的な主張を繰り返す彼を拒絶し、決戦が始まった。

 これまでに得てきた全てを注いで最強の冒険者パーティに挑む。

 初めは辛うじて抗えていたが、絶望的な戦力差を覆すことはできず、アダムの攻撃魔法で窮地に陥るアステリア。

 その時、彼女は《虚ろの力》に覚醒する。呪血病発症者に宿る、破壊の異能。これにより形勢は逆転した。

 マナ破壊による魔法の減衰。空間破壊による瞬間移動。破壊の力を剣に流し込むことによる一度限りの強化。これらをすぐに使いこなし、まずはレイシャを戦線離脱させる。

 続いてアダムを殺害し、レインヴァールを庇ったアイナも殺害する。

 絶望の淵に追いやられたレインヴァールはついに戦意を抱き、全力を出す。

 《虚ろの力》に目覚めたアステリアでも全力のレインヴァールは容易に倒せる相手ではなく、聖魔剣を四本も犠牲にしてようやく追い込む。

 だが、弱ったレインヴァールにとどめを刺そうとしたところで呪血病の痛みにより動けなくなってしまう。

 そんなアステリアを、レインヴァールは剣で貫くのであった。


 ライルが王城に着いた頃には全てが終わっていた。

 レイシャがレインヴァールを救出し、一人残されたライルは、アステリアの亡骸を前にして涙を流す。

 そこにやってきたバルタザール、トロイメライ、ルア、フレイナ。

 バルタザールは娘が死に、孤独になったことを嘆いて自殺しようとするが、ライルが「慈悲ではなく復讐として」制止する。

 ライルはトロイメライにアステリアを「地上の楽園」に送るよう頼んだ後、星空を見上げ、《アド・アストラ》の名に相応しく在れるように、と誓った。


 死んだ筈のアステリアは、見知らぬ学校で目覚める。

 そして、どこか見覚えのある少女と出会うのであった――。

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