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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第16章:剣の王女の英雄譚

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16章15節:明けない夜

 見上げると、そこには太陽と見紛うほどの輝きを放つ光球があった。

 既に日が落ちかけているというのに、一帯が真っ昼間みたいになっている。

 《夜明けをもたらす光(デイブレイク・レイ)》という名を体現するかのようなそれは、恐らくアダムが天井を穿つのに使用した破壊魔法と同種であり、威力を更に上げたものだろう。

 光球が一本の柱となって降り注ぎ、視界が徐々に白く染まっていく。

 逃げ場はない。「終わった」と思った。

 こんなにもあっさりと、理不尽に負けるのか。


「理不尽」? 私は何を考えている。これが散々、ユウキに講釈垂れてきた「現実」ってやつだろうが。

 誰が正しくて誰が間違っているのか。誰が努力していて誰が努力していないのか。そんなことに意味はない。強さこそが全てであり、結果こそが全て。

 だから、もう大人しく――


――いいや、道理なんて知ったことか! 私はまだ死ねない。せめてこいつらを負かし、ラトリアの、世界の未来を少しでもマシなものにするんだ。


 そう強く願ったとき、私の身体に異変が起きた。

 完全に麻痺した筈の左腕の感覚が戻っているのだ。

 それも、ただ単に回復したわけではない。 

 肘から先が、純白の長手袋を溶かし光すらも飲み込むほど昏い、闇そのものと化している。

 それが何なのかを理解するよりも早く、左腕を天に掲げた。

 直後、光の奔流が王城ごと私を覆い潰す。


 痛みはない。意識もしっかりしている。

 玉座の間周辺は完全に瓦礫の山になってしまったが、不思議なことに私自身は無傷であった。

 周囲を見渡すと、王城のまだ残存している部分の屋根に四人が立っていた。

「そこに行こう」と考える。たったそれだけ、まだ《加速(アクセル)》も何も使用していないというのに、気がつけば彼らの前に移動していた。

「速度を上げる」なんてもんじゃない。今、私はレイシャの《権限》のような瞬間移動を行ったのだ。

 みな一様に、あのアダムまで私の姿を見て驚きを露わにしている。


「『マナを破壊する力』……そういうことか……お前、存在崩壊を起こしていたのだな!」


 存在崩壊。地上における呪血病の呼び名。

 なぜアダムがその名で呼んだのかは分からないが、ともかく私は自らの身に起きたことを理解した。

 いつだかにアルケーから聞いたことがある。

 呪血病発症者は《虚ろの力》という、魔法でも《権限》でもない異能力を発現させることがあると。

 リーズも《魔王軍》との決戦でこれを使っていたと。

 アルケーはこの力のことを「最低最悪の祝福」などと語っていたけれど、まさにその通りだと思う。死を待つだけの人間の前に現れて「最期の悪足掻きをしてみせろよ」と囁くのだ。

 全くもって酷いシステムである。自然の摂理なのか、それとも天神たちがこうしたのか。もし後者だとしたら、奴らはなんて悪趣味なのだろう。


 でも。そんな醜くて残酷なものでも有り難かった。だって、今の私はまさしく「悪足掻きがしたい」と願っているんだから!


「良かった……まだ、きみ達と戦えそうだよ」

「分かっているのか!? それに頼ったところで存在崩壊が加速して死に近づくだけだ!」

「この力が無いなら無いで《術式》でマナを使い尽くすつもりだったから変わんないよ。こっちはね、ハナからここで死ぬ覚悟をしてるんだ」


 アダムに言い放つと、横でそれを聞いたユウキが今にも泣き出しそうな顔をした。ここは戦場だというのに。

 或いはこの期に及んでなお、奴はここが戦場だと認識していないのか。

 きっと、さっきの魔法を撃つことにも反対したんだろうな。

 でも結局、アダムはクソったれな奇跡が起きでもしなければ耐えられない威力の魔法を使った。


「……やっぱりきみは何も変えられない」


 ユウキに冷たい視線と言葉を送った後、改めてアダムを睨みつける。


「んじゃ再開しよっか。ここからは私の時間だよ。きみ達に『夜明け』は来ないッ!」


 そう言って私は駆け出した。

 アダムの目前に到り、《魔王剣アンラマンユ》を振るう。

 しかし彼の傍にレイシャが現れ、能力で二人に距離を取られる。

 私はここに辿り着いた時のことを思い出した。あれを自在に使用できるのならレイシャにだって追いつける。

 イメージする。現在位置と移動先、空間を歪曲させて二つの座標を重ね合わせるような。


 次の瞬間、私は再びワープし、アダムとの距離を詰めていた。

 どうやら「空間を捻じ曲げる」というイメージで合っているみたいだ。

 私はそのまま斬撃を繰り出すも、アダムは素早く浮遊の魔法を使い、空中に後退して躱す。

 同時に認識阻害か何かの魔法を掛けられ、一瞬だけ視界がぐらついたが、すぐに元に戻った。


「これも掻き消されるか……!」


 先にアダムは《虚ろの力》のことを「マナを破壊する力」と言っていた。

 魔法の構成要素であるマナを破壊することで根本から無効化できるというわけか。

 いや、空間の破壊なんてこともできたから、この力の対象はマナや魔法に留まらず、あらゆる物体や概念なのかも知れない。


「であれば破壊が追いつかぬ量のマナをぶつけるだけのこと!」


 アダムが空で静止し、両手を突き出して力を貯め始める。

 そんな彼を守るようにユウキとアイナが立ち塞がって周囲に防壁を展開し、更に手前にレイシャがやってくる。


「レイシャの方が……速い……!」


 大技を撃たれる前にアダムを倒してしまいたいところだけど、ワープができるあの子に撹乱されると面倒だ。ここは付き合ってやるべきか。

 王城の屋上で、私とレイシャは互いの隙を狙うように飛び回った。

 反応の速度や的確さは互角。あんな《権限》の使い手だけあって、向こうも高速戦闘慣れしている。

 だが彼女の攻撃手段が短剣一本なのに対し、こちらはいざという時の為の切り札を除いても、聖魔剣五本。しかも空間歪曲を応用することで、それぞれを予測不可能な軌道で飛ばすことができる。

 射程も手数も違いすぎるのだ。


 数十秒の間に行われた無数の攻防の果てに競り勝ったのは私であった。

 疲労により僅かに《権限》の発動が遅れたレイシャ。

 そこに頭上から迫る《徹閃剣カラドボルグ》。

 

「やめろぉぉぉぉ!」


 加速術を使用したユウキが割り込み、剣撃でそれを弾く。

 しかし、そちらは牽制に過ぎない。

 私は右手に持った本命、アンラマンユの能力を発動させながら斬りかかる。

 

「い……いや……」


 体力を消耗していたレイシャは、自らの命を奪おうとしている黒刃に怯えた。

 結果として彼女はアンラマンユの精神的威圧を受け、戦意を喪失。

 刃が届く前にワープを行い、この場から逃げ去るのだった。

 仕留め損なったが、あの調子ならしばらくは戦えないだろう。


 次はアダムだ。

 私はまずユウキとアイナを引き付けておくため、バルムンク、アンラマンユ、ザッハーク、セレネの「四本」を射出し、アダムに向かわせた。

 そして空間を捻じ曲げ、アダムの背後に移動する。

 

「させないわッ!」


 私の狙いを読んでいたのか、アイナが飛行する聖魔剣への対処をユウキに任せ、浮遊して頭上から斬り掛かってくる。

 結果は我ながら無慈悲なものだった。

 彼女の用いる風刃の《術式》もマナの剣も、私の纏う相殺の障壁を突破できるほどの出力はない。

 従って、避ける必要も防ぐ必要もない。


「ごめんね」


 絶望するアイナに一言、挑発ではなく心からの謝罪を述べた。

 必死に努力して磨いてきた剣術や《術式》があっけなく蹂躙されることの悔しさ、私はよく分かるから。


「退けアイナ! 俺がやる!」


 振り返ったアダムがそう言うと、アイナは怒りで顔を歪めながらも指示に従い屋根の上に降りた。

 射線が通るや否や、アダムは両手にかき集めたマナを無数の誘導弾として放った。

 瞬間移動に対する飽和攻撃。確かに有効だけれど、それが届く前にきみは死ぬ。

 

 私はワープで後退すると同時に「現在のアダムの背中を狙う形で歪曲した空間に隠していた」カラドボルグを出現させる。

 誰の手にも握られていない剣からは殺気を読み取りにくい。故にアダムは私という持ち主ばかり意識してしまった。


「アダム……!」


 真の脅威に気づいたユウキが他の聖魔剣を無視して駆ける。アダムも慌ててそちらに向き直ったが、もう遅い。

 本来持っている「貫通」の特性に加え、確実に殺す為に《虚ろの力》まで流し込んだカラドボルグの刺突が、何重にも付与された術的防御ごとアダムの胸を貫いた。


「……いいか、絶対にアステリアを殺せ! そうすれば世界は救われる! やるんだ《勇者(レインヴァール)》!」


 空中で串刺しになったアダムは苦痛に呻くことも嘆くこともなく、私への恨み言を吐くでもなく、ユウキを見据えてそう叫んだ。

 《虚ろの力》の反動で崩壊し、形を失ったカラドボルグの残骸と共に最強の魔術師が墜落していく。

 命を振り絞った最後の願いを聞いたユウキは、呆然とした顔でその場に崩れ落ちるのであった。

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