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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第16章:剣の王女の英雄譚

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16章6節:アルフォンスの意思

 私は王城の玉座に腰掛け、臣下たちから上がってきた情報の整理と指示出しに専念していた。

 体調は日に日に悪化している。全力で戦えるのはあと一、二回が限度だろうから、ここは体力を温存して決戦に備える方針だ。

 死が避けられないにしても、せめて勝利を見届けて、安心して後のことを皆に託した上で死にたい。私には過ぎた欲だろうか。


 帰還してきたリルとライルによれば、レヴィアス県および北の平原での戦闘は我が軍が勝利を収めたようだ。

 前者は辛勝といったところか。敵の物量と非人道的戦術に苦戦し、犠牲の増大を止めるために指揮官であるルア自ら捨て身で時間稼ぎをするという無謀な作戦を敢行してしまった。

 しかし間一髪のところであのヴェルキンを中心とする新生ルミナス帝国軍が駆けつけ、ルアを救った上で最終的には敵部隊の殲滅に成功したという。

 帝国に私たちを支援する余裕が生まれたとは思えない。きっと相当な無理をして参戦してくれたのだろう。

 戦況を好転させてくれたこと、官僚としても一人の術士としても優秀なルアを失わずに済んだこと、チャペルとヴェルキンと兵士たちに感謝だ。

 平原の戦いについては快勝と言える。フレデリックの戦術が上手く機能し、最小限の損失で敵軍を瓦解させた。

 以前は王族の陰に追いやられていた彼を重用した私の目に狂いはなかった。


 王都についてだが、今のところ突入を目的とした攻撃に関しては小規模かつ散発的なのもあって近衛騎士だけで抑えられている。

 一方で物資補給路への襲撃、いわゆる兵糧攻めが問題となっているが、我が軍の兵力では全ての補給路を完璧に掌握するなんて不可能だ。

 どの道、内戦直後な上に経済制裁を受けているラトリア王国に長期戦はできないわけで、ここは割り切るしかない。


 報告にやってきた現騎士団長が謁見室を去る。

 私は息を吐いて脱力した。

 皆の奮闘と予想外の介入のお陰で、趨勢は私の悲観を大幅に裏切ってくれている。

 しかし、聖団の主力も聖人会も参戦していないためまだ油断はできない。

 彼ら――特に戦略兵器じみた強さを持つアレス――の動向次第で全ては簡単に覆るのだから。


 傍らのライル、リルと話していると、なにやら当惑した様子の伝令が謁見室に現れる。

 私は姿勢を正し直し、彼と向き合った。


「アステリア陛下! 王都西の戦線についてご報告が!」

「続けて下さい」

「現地の正規軍部隊が窮地に陥っていたところ、聖団騎士長アルフォンスほか数十名が味方として加勢。敵軍の壊滅に成功したとのこと!」

「……なんと」


 つい驚きを露わにしてしまった。

 またしても僥倖に恵まれたが、素直に喜べるほど私は無警戒ではない。

 友好関係を築いている帝国とはワケが違う。信仰の守り手が聖団を裏切り、「魔王の再来」なんて扱いを受け破門までされている私に付く理由が見えないのだ。


「彼らは『陛下と話がしたい』と。現在は正門にて待機させていますが、如何いたしましょう?」

「ここに連れてきて下さい」


 私は即答した。

 彼らがどういう意図を持っているのかを確かめる必要がある。

 スパイの可能性を考える必要はないだろう。アルフォンスはそういう類の人間ではないし、本気で王都入りがしたいならこんな回りくどいことはせず、転送の異能を持つレイシャにでも頼ればいい筈だ。


***


 しばらく待っていると、近衛騎士がアルフォンス達と共にやってきた。戦闘要員だけかと思いきや、先頭のアルフォンスのすぐ後ろにトロイメライも居る。

 アルフォンスが私の前に跪くと、「他人に合わせる」という発想がなさそうなトロイメライ以外の全員が彼に倣った。


「……堅苦しいのはやめて。きみ達は私の臣下じゃないし、もともと礼儀に拘る方でもないから」

「ふむ、それでは失礼する」


 立ち上がるアルフォンス達に、私はさっそく問いかけた。


「それで、我が軍を支援したというのは本当?」

「ああ。こちらの大陸に渡った直後に侵略軍から離れ、王都に向かうついでに手薄そうな西側を援護させて頂いた」

「ありがと。きみ達は聖団を裏切った、そう解釈して良いんだよね?」

「その通りだ。アステリア陛下、我々をあなたの軍勢に加えて欲しい」


 恭しく頭を下げるアルフォンス。

 

「一体どういうつもり? 天神信仰を捨てたとでも?」

「……信仰を否定したつもりはない。しかし、この行いはそれに当たるのかも知れない。少なくとも言えるのは私たちが聖団を見限ったということ」

「ふぅん?」

「法王聖下と聖団はすっかり《財団》やレティシエル王女といった世俗権力に屈している。彼らの思惑は読めないが、信じるに値しないことだけは確かだ」


 よほど現状に悔しさを覚えているのか、ひどく深刻そうに語っている。

 一時期聖人会に属していただけの部外者としても聖団の立ち位置の危うさは感じていたけれど、騎士長がこの決断をする程にまで落ちぶれていたとは。


「きみ達の組織に対する感情は理解した。でも私のことは信用できるの?」

「ああ」


 迷いのない返答。恐らく、結論が出るまでには散々悩んだのだろうが。


「もちろん自分が間違ってるとは思わないけどさ、たくさん批判されてるんだよ? 政敵からは『魔王の再来』呼ばわりされるし破門までされたし」

「あなたは聖団を含む既存の権力よりも高い視座を持っているように見える。『分断と混沌に満ちた社会に新たな秩序をもたらす』……私が前々から抱いていた理想に最も近い位置に居るのは、きっと人類平等宣言を行ったあなただ」

「……結果として、聖団や信心深い民衆が懸念した通り天神信仰を破壊しちゃうかも知れないよ? 人を救うのが目的とはいえ、私が地上開拓を計画してるのは事実なんだから」

「信仰心を真実から目をそらす言い訳にしてはいけない。真実の方に救済の可能性があるというのであればそれを模索すべきだ。私個人としても、もう呪血病患者を見たくはないしな」


 《崩壊の空》。かの災厄を防ぐ為に聖団は呪血病患者を殺害していた。それに加担した身として思うところがあるのだろう。

「苦痛を断ち切ってやる」という建前があったとしても、敵でもなければ下衆でもない者を斬り捨てるのは精神的苦痛を伴う行為だ。私だって何度もそうしたことがあるからよく分かる。


 さて。アルフォンスの意思は充分に確認できた。

 これならば味方に引き入れても問題ないだろう。

 トロイメライは戦闘においては役に立たない、それどころか護衛が必要なお荷物だが、宗教的権威という意味では確保しておく価値がある。


「……分かった。きみ達のこと、受け入れるよ」

「感謝する。今の私は既に《権限》を喪った身だが、必ず貢献すると誓おう。トロイメライ様についてもなるべく我々だけで護衛する。あなた方の負担は増やさないつもりだ」

「トロイメライ様のことは別に気にしなくていいとして、《権限》を喪ったって……まさか」

「あれの代償は『嘘をつかないこと』。私は聖下の前では命令通りあなた方と戦うつもりがあるように振る舞っていた」


 ウォルフガングの身にも起こった、制約違反による《権限》の喪失。

 前回はそれに勝ちを譲られ、今度は優位性を削られるか。

 いや、アルフォンス達が加勢してくれるというだけでそうそう望めないレベルの幸運なのだ。贅沢は言っていられない。


「異能消去は聖人会の対策になるから欲しかったのは間違いないけど、そこを抜きにしてもきみが実力者なのはよく知ってる。頼りにしてるよ」

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