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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第16章:剣の王女の英雄譚

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16章3節:レヴィアス防衛戦

 ルアから指示を受けたフレイナは、古びた胸壁に身を隠して待機する。

 レヴィアス県の海側にある城壁は二人が生まれるより遥か昔に築かれたものであり、先代公爵が種族間融和路線を示してから内乱が頻発していること、ラトリア建国以来、東西の本格的な対立がなかったことなどから、ずっと修繕や改良が先送りにされてきた。


「なんだか頼りないですわね」


 小声で不満をこぼしつつ、西に広がる中央大海を見下ろすフレイナ。

 帆がない船の群れが高速で近づいている。推進力を完全に疑似特異武装に依存した、《財団》製の最新型の船舶であり、速度、積載量、耐久性、全てにおいて従来のものを凌駕している。

 兵も武器も大量に載せられるあの船なら、老朽化した城壁や浜辺に作られた石塁程度は容易に突破できるだろう。

 敵軍の人数はこの位置から推定できる限りでも優に一万は超えている。対し、レヴィアス防衛部隊は全部でニ千ほど。

 有利な防衛側とはいえ、絶望的な物量差は勝利の鍵を握る一人であるフレイナに強烈なプレッシャーを感じさせていたが、彼女はむしろ、それを戦意に変換していた。


「寡戦? 上等ですわ。早く掛かってきなさいな」


 ここで活躍し、大切な親友――否、ライバルに力を認めさせてやる。「自分はあなたと対等な存在だ」と。

 貴族に失望した女王に矜持を見せつけてやる。「我が身可愛さに国から逃げ出すような貴族ばかりではない」と。

 フレイナはそう決意し、目線を上空に移した。


 先鋒たる《竜の目》の女二人が銀竜レグスに乗り、空を舞っている。

 船団とある程度接近した段階でシスティーナが《光波(ルクス)》を唱え、先頭の船に熱線を照射した。

 それに合わせ、フレイナが周囲の砲兵たちに呼びかける。


「さあ、攻撃の時ですわ! 一方的に蹂躙してやりますわよッ!」


 元領主とその愛娘に強い忠誠心を抱いているカーマイン県出身の砲兵らは「おおッ!」と威勢良く返事をし、砲弾を撃ち始めた。

 フレイナもまた鉄砲を構え、《権限》の炎を掃射していく。

 更に、少し離れたところに居るルアとその配下も《術式》や弓で加勢する。

 灼く光。爆ぜる鉄塊。貫く火。荒れ狂う水。降り注ぐ矢。性質の異なる攻撃が入り混じった分厚い弾幕は物理的防御も術的防御も突破し、一隻、また一隻と沈めていく。

 敵軍も防御をするだけでなく撃ち返しているが射程が足りておらず、城壁を軽く撫でる程度に収まっている。

 フレイナの宣言通り、そこには一方的な殺戮が展開されていた。


「これなら勝てますよ! やはり撃ち合いにおいてフレイナお嬢様と自分達を上回る者など存在しません!」


 兵士の一人が言ったのをきっかけに、部隊の間に楽観的ムードが広がっていく。


 だが、それも束の間であった。

 敵軍はどれだけ死人が出ようと、少しも怯まず前進を続けている。

 その異様な雰囲気に兵士たちは気圧される。

 フレイナはあの船団が何によって構成されているのかを察し、不愉快そうにした。

 西方勢力から派遣された大軍が、自分達とは直接関係のないラトリア王国のクーデターに加担するという目的であれほど士気を保てるわけがない。

 となれば、あそこに居る大半は《工場》産、それも長期的な運用を想定していない下級の兵なのだろう、と。

 一万以上の兵を使い潰す前提で投入する。人口も資源も限られているこの天上大陸で、そんな無茶ができてしまうのが《財団》という組織であり、クロードという男だ。

 フレイナはかつてライングリフ派貴族としてクロードと協力関係を結んでいたし、主が《工場》の商品を使用することも黙認していたが、当時から本心ではこのようなやり方を嫌っていた。

 もっとも、それは彼女がアステリアのような平等思想を持っているからではない。「個としての実力と意志と誇りに欠ける者が戦場に立ってもろくなことにならない」と考えているが故のことである。

 実力を持たぬ者はすぐに生命を喪う。

 意志を持たぬ者はすぐに精神を喪う。

 誇りを持たぬ者はすぐに倫理を喪う。

 今の主と理由は違えど、フレイナは認めがたい戦術を前にして「何としてでも打ち勝たねば」と自らを奮い立たせた。


 しかし人間である以上、意志力ではどうしようもない肉体的な限界というものがある。

 殺しても殺しても敵が一向に減らず、みな少しずつ疲弊し始めた。

 そうして生まれた隙を突き、一部の船が港や浜辺に迫る。各船舶につき一人が王都やレヴィアスで使われた疑似特異武装に似たものを使用し、自らの肉体と共に脆弱な城壁や石塁を広範囲にわたって吹き飛ばした。

 足場が崩壊した為に落下していった兵や押し潰された兵の絶叫が、まだ無事なフレイナや砲兵隊が居る辺りまで聞こえてくる。

 そうして強引にこじ開けた穴を通って、残りの乗組員が街に侵入しようとする。

 初めはルアやゲオルクが中心となって、街中で被害が出る前にそれらを一掃できていたが、侵攻が多角的になってくるとルアは時間停止の《権限》を多用しなければならず、急速に体力が削られていく。

 必然的に見逃しが発生し、市街地に到った敵兵は戦闘員も民間人も関係なしに虐殺を始めるのであった。


 地上の各所で爆発が起こる。フレイナは額から汗を流し、衝撃に揺られながら「場所を変えるべきではないか」と迷った。

 レヴィアス防衛部隊随一の射撃能力を持つフレイナとその配下は的確に直下の敵兵を殺し尽くし、足場への破壊工作を防いでいるが、それも時間の問題だろう。

 そうでなくとも、アステリアほど冷酷に「やむを得ない犠牲」を受け入れられない彼女は、地上の支援に行きたい衝動に駆られている。

 だが彼女の任務は飽くまで海上の敵に対する先制攻撃であり、この位置が最もそれを遂行するのに適していた。

 

「ルア、あなたなら抑えられるって信じてますわよ」


 自分に言い聞かせるように呟き、迷いと恐怖を断ち切る。


 そんなフレイナを更に追い詰めるかのように、時間停止を用いたルアが目の前に現れた。

 顔は青ざめており、今にも倒れてしまいそうなくらいに息を切らしている。止まった時間の中で動くことを許されている誰もが、ひと目で「悪い報告をしに来た」と理解した。


「どうしたんですの!?」

「北から……陸路で敵の増援が……!」

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