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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第15章:英雄、或いは魔王

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15章5節:乱れゆく東方大陸

 アステリアがエストハイン王国に滞在していた頃、官僚となったルアが治めるレヴィアス県では何度目かの騒乱が巻き起こっていた。

 これまで高官に対する暗殺は辛うじて未遂で終わってきたが、その日、とうとう難民に扮したテロリスト数名によってルアの部下の命が奪われてしまった。

 彼らは「打ち砕かれたラトリアの伝統の復活」を標榜し、「魔王の再来」アステリアの軍門に下った裏切り者であるルアに捕縛と処刑を受け入れることを要求する。

 王都出身の衛兵数人を伴ってテロリストらの待つ広場にやってきたルアは、王立アカデミーの事件を思い出しながらも、《権限》に覚醒するまで絶望し切っていた当時とは異なり毅然とした態度で「否」を突きつけた。

 ルアが要求に応じないことを予期していたのだろうか、答えを聞くや否や、彼らはいつの間にか姿を現していた仲間と共に戦闘行為を開始するのであった。


 数的不利を悟ったルアと衛兵は一旦散開、後退して建物の陰に隠れつつ敵の様子を窺った。

 戦力構成としては、最初の数人が人間族の軽装術師。後から現れた数十人は鎧を着た重装剣士であり、殆どが人間以外の種族だ。

 術師の方は一般人どころか仲間の剣士たちを巻き込むことすら厭わず炎弾を放ち続けている。

 その扱いから、後者は人身売買ネットワーク《工場》から買い取った人材だろうとルアは考えた。

 アステリアは《工場》の存在を暴き出し、これを壊滅させることを公約した。だが、国の立て直しもままならない状況下で裏社会にまで手を伸ばしている余裕はないというのが実情であった。


「リアさん、あなたのせいにして良いんですよね? 女王になってからのあなたはやることなすこと全部裏目に出てますよ……」


 テロリストの潜伏を許すなど、ライングリフ派時代のレヴィアスならば有り得なかった。人類平等宣言を実現するため難民の保護を強制しているにも関わらず、その難民に対応する人員を揃える権利や財力を上流階級から削いでしまった新ラトリア法がこの惨状を招いたのである。

 ルアはそんな法を作り上げた新たな主に対する愚痴を吐いた後、《権限》を発動して時間を停止させた。

 敵の数が多い上にまだ潜伏している者が居る可能性もあるため、能力を攻撃に使っても短期決着ができるとは限らない。そこで、まずは逃げ遅れた一般市民を避難させようと思ったのである。

 一人ずつ時間停止を解き、戦場から離れるよう命じていく。

 ルアが元居た位置に戻る頃には、《権限》の長時間使用が祟ってすっかり疲れ果てていた。

 すぐ隣に隠れていた衛兵が不安そうに声を掛ける。 


「ルア様! 気分が優れないのですか!?」

「いえ、大丈夫です……このまま戦っていては被害が拡大してしまうので、民衆を避難させました」

「もしや例の《権限》なる力を?」

「はい。しかし、ここからどう攻めたら――」


 言い終わる前に、ルアと衛兵の前に半魔の剣士が迫った。

 鎧を着込んでいるとは思えない速度の踏み込みであったが、ルアは冷静に時を止めて「《凍結(フリーズ)》」と詠唱。

 再び時間が流れ出すと、剣士の両足が瞬時に氷に包まれ動けなくなった。

 《権限》の代償により不殺を貫かねばならないルアが編み出した、殺さない戦い方である。


 安心したのも束の間、今度は術師が猛烈な勢いで炎弾を連射してきた。

 射線に居た剣士が巻き込まれて発火するも、術師だけでなく味方のせいで死にゆく当人も全く気に留めていない。

 かつての主ライングリフがクロードの提案で《工場》産の人材を活用していたため「そういうもの」と理解していたつもりのルアだったが、いざこうして敵に回してみると、何ともおぞましい有り様だと感じずには居られなかった。


 《権限》を使う為の体力がそう残されていない中、いかに数多くの敵を全滅させるか。

 ルアは必死に次の一手を考えるが、しかし、答えが出る前に炎弾が彼女達の隠れていた家屋を破壊する。

「ここは一旦退くべきか」と、そう思った時。

 術師達が空を見上げ、動揺し始める。

 ルアが彼らの視線の先を見ると、そこには人を背中に乗せている銀色のドラゴンが浮かんでいた。


 《竜の目》。ラトリア継承戦争においてライングリフ派を苦しめた、最上級クラスの冒険者パーティである。

 戦争中に引き続きアステリアと個人的な契約を結んでいるため、それぞれの内心はどうあれ今のルアとは味方同士ということになる。


 術師達は何とか冷静さを取り戻し、《術式》による対空射撃を行うが、ドラゴンはその全てを躱して降下する。

 地上に近づくと、大剣を持った男――ゲオルクだけが背中から飛び降り、二人の女が乗った竜は再び上空に戻っていった。

 ゲオルクはルアの眼前に着地すると、敵を見据えたまま言った。


「救援に来た。前衛は任せろ」



 テロリスト達は人数が多く、個々の練度もそれなりに高いものの、王都での死闘を経たゲオルクにとっては何ら問題にならないレベルであった。

 空から《光波(ルクス)》で支援砲撃を行っているシスティーナと連携し、瞬く間に敵を殲滅していく。

 やがて最後の一人になったが、残されたその男は窮地に陥っているにも関わらず不敵に笑った。

 慎重に距離を詰めるゲオルク。


「我々は魔王の手先には負けんッ!」


 男はそう叫び、外套の懐から小さな宝玉を取り出した。

 ルアは不穏なものを感じ、咄嗟に《権限》を使用して接近、宝玉を掠め取る。

 それはマナが大量に充填された疑似特異武装であった。

 専門家ではないルアには効果までは分からなかったが、明らかに危険なものだと思い、《水流(ニクス)》を詠唱して時間停止を解除。

 地面から勢い良く吹き出した水柱によって宝玉が遥か上空に打ち上げられると、それは凄まじい規模の爆発を引き起こした。

 轟音と共に広がった衝撃波を、青白く光る箱が抑え込む。

 システィーナの《防壁(バリア)》だ。

 ルアに広域破壊を防ぐ術はない。もし彼女達が来なければ、周辺の建造物の尽くが吹き飛ばされていただろう。

 予想外の結果に呆然とする男を、ゲオルクは拳で強打して気絶させた。



 一帯が静まり返る。まだテロリストの仲間がどこかに潜んでいるかも知れないが、ひとまずこの場は落ち着いたと考え、ルアはほっと一息ついた。

 ドラゴンがルアの傍で着陸する。


「ありがとうございます、本当に助かりました」


 深々と頭を下げるルアに、ゲオルクが語りかける。


「気にすんな、これも仕事のうちだ。にしてもレヴィアスの事情は聞いてたが、来て早々こんなことになるとはな」

「こちらにはアステリア陛下の指示で?」

「ああ。とある旧領地の制圧に参加してたんだが、一段落ついたらお前に加勢する手筈になってた。ってわけで、しばらく滞在させてもらう」

「それは願ってもないことです。どこかのだれかのせいで人手不足ですので……」


 ルアが淡々と嫌味を言うと、ゲオルクは苦笑いした。


「思うところがあるのは分かる。あいつ、流石に焦りすぎだよな?」

「焦り……そうですね。陛下のやり方はあまりに性急で、敵どころか同じ志を持つ者すら置き去りにしているような気がします」

「正直、心配になることもあるが……まあオレらに出来るのは必死に後を追うことだけだな」

「陛下のことを信じているのですか?」


 ルアの問いに答えるのはルルティエだ。


「別に。まだ結論を出すべきじゃないってだけ。それに、アステリアが戦っている相手はあいつよりもよっぽどタチが悪いから。特に《財団》」

「かつて同じ陣営に居た者としてもそう思います。とはいえ、あの頃はライングリフ様の方針ということで協力せざるを得なかったのですが」


 ルアはふと、王都で爆発が起きたことを思い出した。


「……なるほど、そういうことでしたか」


 ルルティエが「え?」と首を傾げる。


「先程の疑似特異武装は間違いなく《財団》が提供したものでしょう」

「だろうね。連中、ラトリア勢力圏で暴れてる武装勢力を支援してるんでしょ」

「ええ。そしてクロードは、あれの試験運用を王都で行ったんだと思います……きっと、ライングリフ様の思惑から外れる形で。あの方は手段を選びませんが、自国民を無意味に虐殺するような真似はしません」

「知ってはいたけど無茶苦茶な奴だね。『西方連合以外はどうなってもいい』って感じ?」

「或いはその西方連合すら、あの男にとっては大して重要ではないのかも知れません」

「ふぅん……なに考えてるのか全然分かんないな」

「少なくとも良からぬことなのは確かでしょうね」


 ルアはゲオルクやルルティエとのやり取りを通して、アステリアへの向き合い方を明確化した。

 社会の乱れを招いた彼女をそれでも信じるべきなのかはまだ分からないが、より信用できない者達の影響力をラトリアから排除するため、今は従順な下僕であろう、と。

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― 新着の感想 ―
ルア、無事でよかった。死ぬんじゃないかとヒヤヒヤしながら読んでました。
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