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14章9節:火炎と鉛弾の令嬢

 先に動き出したのはフレイナだった。

 引き金を引くと、鉄砲が爆音を立てて大量の弾丸を発射した。

 《権限》によって高速点火することで連射を行う、彼女だけが使える戦法である。

 ゲオルクとリルが左右に分かれて跳ぶ。弾丸の嵐が王城の屋根の一部を砕いた。

 再び屋根に降りようとするゲオルク。しかし、着地予定の位置を狙うようにフレイナは銃口から火球を放った。

 弾速と連射力に優れている代わりに数に限りがある物理弾、体力が続く限りは撃てる《正義の誓い》の火炎、双方の特徴を活かした連続攻撃だ。

 フレイナは勝利を確信したが、ゲオルクは《克竜剣アスカロン》を下に突き立てて足場とし、再び跳躍した。

 彼は幼い頃から《工場》や戦場という地獄を生き延びてきた達人である。異能を持つ者が相手であろうと決して遅れは取らない。


 ゲオルクが少し離れたところに着地すると、フレイナは僅かに焦りを含んだ声色で呟いた。


「こうも容易く《権限》に対応するとは……」

「《権限》にも相性ってやつがあるんだろうさ。お前のそれが近接戦闘向きじゃないようにな」

「ごもっとも。ですが、それなら味方と補い合うだけですわっ!」


 その時、ゲオルクは背後から複数の敵意を感知した。

 振り向くと、五人ほどの近衛騎士が《加速(アクセル)》により飛翔していた。


「護衛が居たかッ!」


 僅かに身体を逸らし、突進してきた先頭の一人を串刺しにする。

 そこに後続が迫る。ゲオルクはすぐさま絶命した騎士からアスカロンを引き抜いて次の斬撃を行うも間に合わず、ロングソードにより受け止められた。

 騎士は《強健(フォース)》による身体強化に加え、武装強化の《術式》も使用することで半竜人の振るう聖魔剣に対抗している。

 アスカロンは「持ち主以上の力を見せる単体の敵」に対しては効果的な一方、「連携を前提とした、戦闘能力がより低い複数の敵」に対してはなんの力も発揮できないという弱点があった。

 このままでは残りの三人に追撃される。一旦後退すべきだが、この機を逃すフレイナではないだろう。

 ゲオルクが次の一手をどうすべきか考えを巡らせていると、


「ニャ~~!」


 いつの間にやら気配を消していたリルの声とフレイナの舌打ちが聞こえてきた。

 彼女は、ゲオルクを背中から撃ち抜こうとしていたフレイナを急襲したのだ。


「助かった!」


 近衛騎士たちを見据えたままゲオルクは感謝を述べ、後ろに跳ぶ。

 さっきまでフレイナが立っていた塔に移り、リルと背中合わせになる。

 フレイナは近衛騎士の一人に抱えられて別の建物の上に着地していた。

 先ほどの四人だけでなく、他の騎士や正規軍兵士も続々と姿を現している。


「どうするニャ!? この数を突破してアイツをやるのは結構しんどいニャンよ!」

「護衛を優先的に潰すぞ。オレ達が先行したのはお嬢様の援護を妨害する為だ。すぐには倒せなくても注意さえ引けてればアステリアだって文句ないだろ」

「それもそうニャンね……っと!」


 再び二手に分かれ、弾丸の掃射を躱す。

 弾を使い果たしたのか、フレイナは一本目の鉄砲を放り投げ、背負っていた二本目に切り替えた。

 その隙を埋めるように近衛騎士たちが前進する。

 それをゲオルクが一人、二人、三人と斬り伏せていく。

 彼が対応できなかった者に対してはリルが奇襲を仕掛ける。

 距離を保とうとするフレイナに別々の方向から接近してプレッシャーを与えつつも深追いはせず、飽くまで周囲の騎士や兵を狙う。

「敵の連携が厄介なのであればこちらも連携すればいい」と言わんばかりに、二人は完璧に息を合わせていた。

 時間こそ掛かってしまうが、確実かつ比較的安全にフレイナを追い詰められる戦い方である。



 その頃、王城内部の一室にて。

 ライングリフはクロードと向き合う形でソファに腰を下ろしていた。

 傍らにはウォルフガングが険しい顔で立っている。


「《竜の目》か。敵に回すと面倒な連中だ」


 ライングリフが言った。「城壁を無視して空から直接乗り込んできた」という点から、彼らが絡んでいると結論付けたのである。

 深刻そうなライングリフに対し、クロードはいつも通りの怪しげな笑顔だ。


「リアリストである筈の彼らがアステリア殿下に付いたのは意外でしたねえ。よほど金を積まれたのでしょうか」

「アステリアは《術式》の開発で財を成したようだからな。だがそれだけでもあるまい」

「とおっしゃいますと?」

「あれもまた人を操る才能を持って生まれたのだろうよ」

「あなたやレティシエル殿下のように、ですか。カリスマのないボクとしては羨ましい限りですよ」

「商界を牛耳る立場でよく言う……ところで、ここを離れなくていいのか? あなた自身がおらずとも『アレ』は使えるのだろう?」

「趨勢が決するまでは見守ろうかと。まぁ、必要であればボクはいつでも自国に転移できるのでご心配なく」

「そうだったな……では好きになさるといい」


 ライングリフは言い終えた後、ウォルフガングの方を見た。


「行ってやれ。フレイナと近衛騎士、一般兵だけでは厳しかろう」

「よろしいのですか? 私の任務はライングリフ殿下とバルタザール陛下の護衛だった筈ですが」

「最低限の戦力は残しておく。それに、私とて多少は戦いの心得があるからな」

「御意」


 ウォルフガングがおもむろに歩き出し、部屋から出ようとした時、国王バルタザールが入室した。

 今にも息絶えてしまいそうなほど弱ったその男に、ウォルフガングは哀れみの視線を向ける。


「陛下、どうなさいましたか」

「ウォルフガング! ライングリフ! 戦いを今すぐ止めて降伏しろ! 再び王都を戦場にするわけにはいかん!」


 ライングリフはそんな痴れ言に内心呆れつつも、作り笑いを浮かべて父の前に立った。


「父上。ここは私に全て任せ、自室でお休みになって下さい」

「あの子を……アステリアを受け入れるのだ!」

「それはできません。あれはこの国に終焉をもたらす大敵です。魔王の再来です」

「違うッ! もはやラトリアを導けるのはあの子だけだ! たくさんの苦しみを知ったあの子だからこそ……!」

「……気にするな、ウォルフガング。さあ父上、お部屋に戻りましょうか」


 バルタザールを無理やり連れていくライングリフ。

 一国の王ともあろう男がまるで耄碌し、介護されているかのような扱いだ。

 ウォルフガングはそんな見るに堪えない光景から目を逸らし、戦場に向かっていった。

 迷いを一切感じさせない足取りだ。

 とうに彼は決断しているのである。未来の見えぬこの国に、それでも忠誠を尽くすと。愛しい弟子を、国体の破壊者を滅すると。

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