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14章8節:王都侵攻

 闇の中、月明かりを頼りに疾走する。

 当然ながらライングリフ派は相当な人数を城壁に配置しているため、夜であってもすぐにこちらの襲撃を察知し、迎え撃ってきた。

 こうなるのは予想の範囲内だ。夜襲の目的は飽くまでフレイナへの嫌がらせである。

 我が軍は帝都侵攻の時と同様に大規模な術的障壁を展開。城壁から飛んでくる矢、魔弾や砲弾、銃兵隊の放つ弾丸を跳ね除けながら進軍した。

 私は敵の注意を引くように少しずつ単独先行する。


 《乙女の誓い》による遠隔攻撃が届く距離まで近づいた私は「明かりを!」と叫び、後方の術士に光源生成の《術式》を使わせた。

 城壁と自軍の間に光球が作られ、その周辺が昼と同程度の明るさとなった。

 その後、全ての聖魔剣を射出して城壁上部に降り注がせる。

 正規軍の兵士たちが次々と串刺しにされ、両断され、炎に包まれ、或いは魔王剣の重圧によって押し出され落下死した。

 兵の人数こそ帝都の時を優に超えているものの、ローレンスが居ない為か以前のような頑強さはない。

 帝都戦を乗り越えた後だからこそ言える結果論だけれど、あいつがここを守っていたら、私たちは更に不利になっていただろう。

 もちろん、だからといって優位を確信しているわけではない。

 結局のところ、どれだけ兵を仕留めようが物量が意味を持つのは制圧を行う最終段階であり、それまでの戦局を左右するのはごく少数の切り札なのだから。

 敵側もそれが分かっているからか、まだ焦りは見られない。


「早く来なよ。来ないならこのまま正門をぶち壊しちゃうよ」


 そんなことを独りごちる。

 

 私は正門の手前まで接近、仲間たちも30メートルほど空けて続いている。

この勢いで門を守る部隊を押し潰してやろう――と思った時。


 無数の魔弾が視界を覆い尽くしていた。


 逃げ場も逃げる時間もない。

 次の刹那にはそれらが着弾し、辺り一面が同時に炸裂した。

 全方位から衝撃にさらされて体中が痛んだが、負傷はしていない。

 強化の《術式》抜きで食らっていたら肉片も残らなかっただろう。

 草と砂埃が舞う中、後方の気配に意識を向ける。

 あのアルケーが防壁の構築に参加していることもあり殆どの魔弾は掻き消したが、それでも十数人ほど死者が出てしまったようだ。


 瞬時に大量の攻撃を「置き」、敵を包囲する。こんな芸当が出来るやつは一人しか知らない。

 視界が晴れる。城壁を見上げると、そいつと目が合った。

 月光に照らされた美しい青髪がなびく。学生時代はコンプレックスの象徴として隠していた猫耳も風に揺れている。

 

「ルア!」


 私はかつて友だった敵の名を呼んだ。

 


*****



 ルアが現れたことを確認した術士の一人は《術式》による気配遮断と身体強化を行い、王都東に向かって駆け出した。

 それから少し経ったのち。

 その術士から報告を受けたライルは、周囲の仲間達に伝えた。


「どうやら計画通りルアはあっちに行ったらしい!」

「オレらも攻め時ってわけか」


 そう返したのはゲオルクだ。


「頼んだぜ、《竜の目》。上手くいくかはあんたらに懸かってるんだからな」

「分かってるさ」


 ライルはゲオルクと力強く握手を交わした後、号令を出した。

 それに応じる形で軍勢が鬨の声を上げ、前進を開始する。


 東側の部隊は正門側ほど術士を擁しておらず防御力に乏しい。

 一方で、長射程の《迅雷剣バアル》を使いこなすライル、強力な攻撃系の《術式》を使用できるシスティーナ、ブレスを吐けるドラゴンといった戦力が揃っている。

 従って、接敵前にどれだけ兵力を削れるかが肝要となる。


 まずはゲオルク、リルと共に部隊から離れたルルティエが、レグス以外のドラゴン全てを先行させる。

 五体の竜がときどき橙色に染まる夜空を高速で飛翔する。

 空の色が変わるのは、ルアの参戦と同時に王都中央辺りからフレイナが火球を放ち始めたからだ。


 接敵したドラゴンは城壁の更に上を飛び回りながら炎を打ち下ろし、敵兵を焼き滅ぼしていく。

 ライルも草原を駆けながらバアルを抜剣し、落雷を生じさせた。

 

「《光波(ルクス)》っ!」


 システィーナは詠唱し、白く輝く光線を照射した。

 これによりブレスや落雷では狙いにくい、狭間窓に潜んだ兵を牽制する。


 東側の異常に気づいたフレイナが正門側への支援砲撃を止め、ドラゴンに狙いを定めた。

 だがルルティエの巧みな制御によって数多の光の間隙を縫うように飛行しているため、一撃必殺とはいかないようだ。

 

「よし、炎のお嬢様を引き付けられたな。二人とも行くぞ!」

「ん。全力で飛ぶからしっかり掴まっててね」

「ニャ!」


 ゲオルク、ルルティエ、リルを背に乗せたレグスが飛び立つ。

 夜闇に紛れながら王都中央を目指す。


「これは……凄まじいニャンね」


 眼下に広がる光景を見て、リルはぼそっと呟いた。


「お前は魔王戦争には参加してないんだったか?」

「んニャ。当時は守りが手薄になった王都周辺で強盗やってたニャンね」

「そういや元盗賊か……圧倒されるのも無理はねえ。術士や《権限》持ち、特異武装の使い手が入り乱れる総力戦っていう意味では、今回のヤバさはあの時以上だからな」

「お喋りはその辺で。そろそろ降下するよ」


 ルルティエが言うと、ゲオルクとリルは標的であるフレイナを見据えた。

 彼女は王城のすぐ近くにある円形の塔から攻撃を行っている。

 十分に高度を下げたのちレグスから飛び降りてそこに着地し、斬り伏せてやろうというのが二人の考えだ。


 しかし、そう上手くはいかなかった。

 

「……上ッ!?」


 気配を読んだフレイナが頭上に鉄砲を向ける。


「バレたか! ルル、行け!」

「ニャニャニャッ!?」


 ゲオルクは咄嗟にリルを両腕で抱きかかえて飛び降りた。

 炎弾が二人とレグスの間を通り抜ける。

 もう少し判断が遅れていたら三人と一体はまとめて黒焦げになっていただろう。

 高度が下がりきっていなかったため塔に降りることができず、ゲオルクはやむなく王城の屋根に着地した。

 常人なら間違いなく死亡する高さからの落下だったが、頑丈な半竜人にとっては何ら問題ない。

 彼はリルを降ろすと、背負っていた《克竜剣アスカロン》を抜いた。

 視線の先に居るのは、銃を腰だめに構えて塔から二人を狙っているフレイナだ。


「自分を囮にして手下を直接送り込んでくるなんて。流石はアステリア、命知らずの大胆さですわね」

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