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14章7節:王都への帰還

 墓標荒野を抜けた私たちは、そのまま街道沿いに進軍していった。

 行き倒れた貧困層の死体が散乱している見慣れた風景が続く。

 道の先や周辺の森に敵が待ち伏せている様子はない。


 しばらく歩くとレヴィアス公領へ向かう分岐点に到ったものの、当初の予定通り通過した。

 実のところ、帝都で計画を立てていた段階では「せめてレヴィアスくらいは占領すべきではないか」という案も出ていた。

 かの地には大きな港があるため、それを奪ってやれば西方大陸からライングリフ派を支援する《財団》を妨害できるのだ。

 しかし占領を持続させるための人員が不足しているという問題により、この提案を却下せざるを得なかった。

 魔王戦争終結前であれば領内の不穏分子を利用する手もあったかも知れないが、そういった連中の殆どが追放され、トドメと言わんばかりに領主と次期国王の電撃結婚が発表された今となっては不可能だ。


 それにしても、まさかルアがライングリフと結婚するとは。

 かつては他の貴族からいじめを受けていた獣人の子が次期王妃か。なんだか前世で見た成り上がりストーリーみたいだ。

 もっともあの子のことだから、それで救われるどころか昔以上の心労に悩まされているのだろうが。

 愛する故郷を守るため、プレッシャーに耐えながら敷かれた道の上を歩み続ける。称賛すべき生き様だとは思うけれど、私の前に立ち塞がるならその道を断ち切ってやるだけだ。


***


 昼。私たちは街道から少し逸れたところに野営地を築いたのち休憩に入った。

 王都まではあと僅か。負傷者や捕虜、物資と共にここに残る後方支援組はともかく、戦闘メンバーにとってはこれが最後の休息となる。


 周辺領地の偵察に行かせていた者達が帰還する。

 彼らの報告によれば「敵軍は潜んでいないだろう」とのこと。王都を攻めている時に背後から急襲される可能性は考えなくてよさそうだ。

 それどころか民間人の避難も充分ではないらしい。

 戦場になるかも知れない北部領地の住民を避難させないというのは普通に考えれば有り得ないことだが、こちらの兵力や私の信条を考慮し「必要ない」と判断したと思われる。


 報告を聞き終えたところで、傍らに居た四人の兵士が目の前にやってきた。

 確か二人はソドムから我が領地に逃げてきたスラム出身者、もう二人は魔王戦争で負傷したにも関わらず恩給を得られなかったことでラトリアを見限った民兵だったか。


「アステリア様! やはり王都に向かう前に領地を落とすべきです!」

「ラトリアの連中は舐め腐ってる! 俺らが民間人を殺せないと思ってやがるんだ!」

「北部領地に住んでる奴らなんてどうせ人間族第一、金持ち第一の差別野郎ばかりだ! 殺して略奪しても良心が痛むことはねえ!」

「奴らはあなたが与えて下さった新たな故郷を焼き尽くし、民を虐殺しました。どうか報復させて下さい!」


 怒りと疲労感の入り混じった表情で思い思いの主張をしている。

 私は右手を掲げ、彼らを制止した。


「落ち着いて! 作戦に変更はない。今日の夜、王都を攻める」

「でも……!」

「私だってライングリフ派がブレイドワースにしたことは許せない。それに正直、みんなと同じくらい身体も心も疲れてる。お腹だって空いてるし」

「ならば復讐をっ!」

「憎んでる相手と同じようなやり方をしちゃいけないんだよ」

「あ、アステリア様……」

「安心して。きみ達が手を汚さずとも、私が女王になったら暴虐を働いた奴らに然るべき報いを受けさせる。富の再分配もする。きみ達が何の懸念も後悔もなく生きていけるようにする。だから、今は信じてほしい」


 そう語りかけると、兵士たちはおもむろに頷き、元の場所に戻っていった。

 納得半分、不満半分といったところか。

 仕方あるまい。消耗し、不安を抱えた状態では良心なんぞ投げ捨ててしまいたくなるものだ。

 王都攻略、なるべく速攻で達成したいな。

 まあ、ライングリフ派が重要な戦力の殆どを王都に配置していることを思えばそう簡単にはいかないだろうが。


***


 日が完全に落ちる頃、私たちは三つのグループに分かれて進軍の準備を整えた。


 ライングリフ派が保有する最大の脅威はルア、フレイナ、そしてウォルフガングだ。なおクロードも同じ《権限》持ちだが、能力が分からないこと、自ら前線に立って戦うタイプとは思えないことから一旦、計算から除外している。

 あの三人にどう対処するかで勝敗が決まると言っても過言ではない。

 まずは私とアルケーを中心とする部隊が正門から突撃、敵を引きずり出す。

 また、ライル、システィーナおよびドラゴンを中心とする攻撃力の高い部隊を王都東側の門の前に待機させる。

 私たちの前にルアが現れたら密かにライル班の方へ伝令を向かわせ、門を攻めてもらう。

 フレイナは前回の戦いと同じく、脅威として目立っているドラゴンを高所から狙い撃ちしようとするだろう。

 こうした二重の陽動により攻撃を引き付けている間に、レグスに乗るルルティエがゲオルクとリルを伴って王都内に直接突っ込み、フレイナと交戦する。

 夜襲をすることに決めたのは、先の戦いでフレイナが見せた恐るべき射撃精度を少しでも低下させるためだ。

 ルアは私が倒す。どこまで通用するかは分からないが、攻略の為の策も用意した。

 問題はウォルフガングがどう出るかだ。我が師は徒手空拳でも十分以上に戦えるとはいえ、《乙女の誓い》を持つ私のところには現れないだろう。

 ライル班を迎撃しに来るか、或いは王都内部でゲオルクらと戦うことになるか。いずれにせよ私は素早くルアを無力化し、援護に向かわねばならない。

 ただでさえ少ない人員を三つに分ける作戦。フレデリック辺りは「馬鹿げている」と思うだろうが、賭けをしないでいられるほど私たちは優勢ではないのだ。


 最終決戦を前にして、緊張で震えてくる。

 深呼吸し、改めて覚悟を決める。

 そして号令を掛け、侵攻を開始するのであった。

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