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14章3節:空洞域への進軍

 チャペルらに見送られて出陣した私たちは、帝都から真っ直ぐ南下した。

 

 王都まで向かう道筋には二つある。

 一つはこのまま空洞域を渡る、最短で王都に近づけるルートだ。あそこは魔王戦争時代のようなワイバーンの生息地ではなくなっているものの、狭隘な「天然の橋」を渡らねばならないから、待ち伏せによって一網打尽にされる危険性は依然として存在する。

 もう一つは西の山道を通る迂回ルート。敵の裏をかけるかも知れないが、時間が掛かるという欠点がある。

 私が選んだのは前者だ。険しい山道を長時間移動するというのは水や食糧ばかりか体力と気力も浪費してしまう。人員も物資も限られている我が軍にそれを許容できる余剰はない。


 帝都南の平原を進み、やがて空洞域の北端に着く。

 ここまで障害は殆ど無し。チャペルが居ないせいで魔物に多少煩わされたくらいか。

 だが問題はここからだ。

 私はレグスに乗って空をゆっくり飛んでいるルルティエを手招きで呼んだ。他にもリル、ライルを呼び寄せる。


「なに?」

「ルルちゃん、二人を乗せて橋の向こう側を偵察してきて。この辺りは遮蔽物なんか全くないから気配遮断は全力でね」

「それはいいけど、なんでこいつら?」

「きみ一人だけ行かせたら負担が大きくなっちゃう。この先、マナが希薄な北部平原を通過しなきゃならないって考えると、なるべく消耗を抑えたい」

「ふぅん……あんたなんかが余計な気遣いすんなって言いたいところだけど、まあ雇い主の命令だし従っておくよ」

「素直でよろしい。ライルとリルもお願いね」

「ああ!」「んニャ!」


 三人を偵察に向かわせ、しばらく待機する。

 さて。何もないのであれば助かるが、こんな絶好の迎撃ポイントを利用しないライングリフではないだろう。

 この地形を最大限活かしてくると仮定したら、待ち受けているのは射撃主体の部隊となる。

 ゴリ押しなんてしようものなら一方的に壊滅させられるだけだ。

 ここはごく少数の戦力で先行し、安全を確保するべきか。


 方針を考えていると、ルルティエたちが少し慌てた様子で帰還してきた。


「ニャぁ~~! あんなに《隠匿(コンシール)》を重ねがけしてたのにバレるなんてっ!」

「何があったの!?」

「正規軍の部隊に混じってた《シュトラーフェ・ケルン》に攻撃されたんだ。ギリギリ回避できたけどな。あの《千影》なら遮断した気配を察知してもおかしくねえ。ちなみに他は弓兵と術兵が主体。こっちは予想通りだな」


 ライルの報告を聞き、私は額を押さえた。

 正規軍め、なかなか厄介な戦力を引き連れてきたものだ。

 長射程の爆撃を行う《千影》のアルマリカ、毒物を散布する《蝕毒》のトリスタン、攻撃系《術式》の達人であるオーラフ――最近は冒険者界隈において《巧術》というあだ名で呼ばれ始めているらしい――といった対集団戦闘を得意とする面々が揃っている。

 やはり少数精鋭で対処せねばならないのは確実として、「タンク役」を担当している《神鎧》のベルタが居るからそれも一筋縄ではいかなそうだ。


 少し頭を悩ませた後、私はゲオルクに声を掛けた。


「私ときみ、リル、ライルの四人でシュトラーフェを倒す。他の皆を動かすのはその後」

「補助戦力は無しか? ルルが新しく捕まえてきたドラゴンくらいは投入しても良いと思うが」

「アルマリカは狙撃の名手。たぶん速攻で全部撃ち落とされるだろうね」

「ここは飽くまで損耗を抑える方針か。了解した。でも防御強化くらいは頼むぜ?」

「分かってるって」


 システィーナ、アルケー、その他何人かの術士に頼み、強化系の《術式》をエンチャントしてもらう。

 これなら正規軍人どもの弾幕に耐えながらシュトラーフェの四人と戦えるだろう。

 あとは効果が切れるまでに奴らを撤退まで追い込めるかどうかの勝負だ。

 ルルティエには矢の届かない安全圏から戦場を観察してもらい、優勢に傾いた時に軍を前進させる連絡係を務めさせよう。



 作戦を決めた私たちは空洞域に突入した。

 向こう岸に近づくにつれて矢や魔弾が飛んでくるようになる。先ほどルルティエたちが発見されてしまった為にこちらの出方を読まれている。

 幾ら身体が防御膜に覆われているとはいえ、《術式》により貫通や相殺の特性が付与された攻撃も混じっているかも知れないので、なるべく回避しながら突き進む。

 途中、アルマリカが放ったと思しき矢が後方で爆発を起こし、肝を冷やしつつもなんとか無傷で対岸に到着する。

 敵軍の指揮官であるフレデリックと目が合うと、彼はすぐに命令を下した。


「こ、後退しつつ散開を……! アステリア殿下の黒き魔剣には注意せよ!」


 《魔王剣アンラマンユ》で一掃されるのを恐れたか。

 フレデリック。意志薄弱な男ではあるが、かつては名将とされていただけあって判断が的確かつ迅速だ。

 彼に個人的な恨みはないし、もしかするとこちらに寝返ってくれるかも知れない。なるべく生け捕りにしたいところだ。


「皆様、どうか食い止めて頂ければと……!」


 フレデリックが《シュトラーフェ・ケルン》に言う。

 相手は一介の冒険者パーティ、それも王家の意向に逆らえない立場だというのに妙に遠慮がちだ。

 本来、四人はこの作戦に参加する予定ではなかったが、彼が頭を下げて部隊に加わってもらった、という感じだろうか。

 ともかく、《シュトラーフェ・ケルン》は指示通り私たちの前に立ち塞がった。


「うーん、一発使っちゃったんすけどノーダメージっぽいっすねえ」

「やっぱりアレはきみの仕業だったんだね、アルマリカ。ここまで近づいちゃえば、少なくともきみは本領を発揮できないでしょ?」

「仰る通り。てなわけで正直逃げてぇっすけど、報酬分くらいは頑張らせてもらうっすよ!」

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