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13章6節:新たなる仲間

 回想はこの辺りにして、時を現在に戻そう。


 ブレイドワース辺境伯領の郊外で、私は幾つかの死体を見下ろしていた。

 この者達は武器と殺意を掲げて我が領地に乗り込んできたので、さきほど問答無用で撃滅したところだ。


「死体から回収した装備は一箇所にまとめておいて。使えるものは後で再分配するから」


 私は衛兵らに指示を出しながらも、過労で痛む額を押さえる。


 王都から帰還して以来、テログループによる散発的な攻撃への対応や志願兵の審査、協力者たちへの連絡、情報の整理などに追われ、気がつけば二週間ほど経っていた。

 宣戦布告によって反ライングリフ派勢力の賛同の声と支援が集まりつつある一方、中傷も激しいものとなり、私たちを「《魔王軍》の再来」などと呼ぶ者も現れるようになった。

 理由は「人間族の代表たるライングリフに歯向かう不届き者だから」というだけではない。私が魔王の剣を使っていることが知れ渡り始めたのだ。

 恐らくはローラシエルと交戦している間にライングリフの手下が戦場から逃亡し、その情報を持ち帰ったのだろう。

 つまりは戦闘中に予想した通りの展開である。これだからなるべくあの剣は使いたくなかった。

 まあ実際のところ、私は皇帝家と協力してルミナス帝国を蘇らせようとしているわけで、認めたくはないけれど《魔王軍》じみてきているのかも知れない。

 ともかく結果として、さっき討伐したような人間族至上主義系テロリストが領地を襲撃しに現れるようになった。

 もちろん、これが単なる偶然だとは思わない。ライングリフが彼らを煽動し「壊滅したところで誰も困らない使い捨ての戦力」として利用しているのだ。

 あのクソ兄貴のことだからそういうやり方をするに決まっている。


 ただ、未だライングリフ派との直接対決は起こっていない。

 ソドム方面から派兵し、物量に任せた短期決戦を仕掛けてくる可能性も見ていたが、私の思った以上に奴は慎重だった。

 王都からソドムに人を送る方法があるのは確実にしても部隊の編成が不十分なので、テロ組織を使って時間を稼ぐに留めているといったところか。

 これは《魔王剣アンラマンユ》という脅威を知ったからこその判断だろう。あれの前で生半可な物量戦は通用しない。本気で私を潰すなら辺境伯領を包囲できるほどの圧倒的大軍勢を出して防戦を不可能にするか、少なくともローラシエルクラスの精鋭を複数ぶつけるしかない。

 戦力の逐次投入を避け、一手で逆転の余地を与えず圧殺することを目指す。うんざりするほど合理的だ。

 これにより、私は防御側の優位性を崩せるような手札を用意した上でこちらから打って出ねばならなくなった。


 しかし先にも述べたように協力者は増えつつあるから、決して無理難題ではない。

 東方系勢力からは人、物、金が送られ、レンに至っては直属の部下である《黄泉衆》まで寄越してくれた。

 ラトリアの穏健派貴族もライングリフ派に目を付けられない範囲で資金提供を行ってくれている。

 また、ライングリフ派に不満を抱いている傭兵や民兵、冒険者も私の軍勢に加わることを望んでいる。

 世間的にはそれほど取り沙汰されていないが、魔王戦争終結以来、彼らの間で「傷痍兵の処遇」が問題化しているのだ。

 あの激しい戦いにより傷ついた戦士は多く、中には手足や感覚器官を喪い、生活に支障をきたしている者も居る。実戦に不慣れだったばかりに外傷はなくとも精神を病んでしまったケースも聞いたことがある。

 このような状態になったラトリア王国正規軍人は手厚く保護され、現在も恩給を得ている一方で、傭兵、民兵、冒険者にはそれがなかった。

 ライングリフ派も彼らの不満を受けて生活保護政策を打ち出したが、正規軍人や貴族、中流以上の平民の「自分たちを優先しろ」「下層市民に税を使うな」という声も大きく、未だ平等に保護が行き渡っていないのが実情である。

 そのため、深く傷つきながらも冷遇された戦士達への仲間意識から義憤に駆られた者が続出し、今こうして私のもとに集っているわけである。

 そんな状況下で、「アルケー製の《術式》の販売が早くも軌道に乗り始めた」という嬉しい報告を受けた。

 これがこのまま継続的な収入源として育ってくれれば、他勢力からの支援金という不安定なものに依存せずとも兵を雇い続けられるし、傷痍兵をはじめとする社会的弱者への支援も展開できる。


 だが、相手がライングリフ派ということを考えるとこれでもまだ足りない。

 向こう側にもまた戦況をひっくり返す切り札、すなわちウォルフガング、ルアとフレイナ、クロードといった《権限》持ちが居るのだから。

 これは次期国王候補の命が懸かった戦争だ。外様のクロードはともかく、あとの三人は何がなんでも私たちを滅ぼしに来るだろう。

 彼らに対抗できるような存在と言えばまずは同じ《権限》持ちが思い当たるが、今回、その集まりである聖人会に頼ることは出来ない。

 ルール上、ライングリフ派も加えて採決せねばならないからだ。通るかどうかも分からない提案の為にこちらの動きを奴らに教えるわけにはいかない。


 となれば別口で序列入りパーティを雇うのがいい。

 《権限》所有者が居る第一位や第二位、第三位に繰り上がった《神聖騎士団(ハイリヒ・オルデン)》が来てくれるのであれば心強いが、それ以外も優秀なパーティばかりである。

 そう思った私は冒険者ギルドを通して序列入り指名――と言ってもライングリフと繋がっている第四位は除外している――の依頼を出した。

 そして今日、返答のあった唯一のパーティが交渉の為、この領地に訪れることになっている。


 なんてことを考えていると、ちょうど彼方から一体の竜が飛んでくるのが目に入った。

 衛兵たちが警戒し弓を構える。


「お、来た来た」


 私はそう言いながら片腕を広げて彼らを制止した。

 やがて、馴染みのある三人組を背中に乗せたその白銀の竜は目の前までやって来て、草原の上に着陸した。

 

 序列第五位《竜の目》。

 これから私の仲間になってくれる――かも知れない、頼れるパーティだ。

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