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2章4節:酒場での出会い

 突然の決闘を終え、スラムの宿に帰った私たち。

 荷物を置いてからは予定通り自由行動をとることになった。

 リーズとライルはネルを連れて街の散策。あんなトラブルがあったというのに懲りないものだが、それだけネルが前向きということなのだろう。

 ウォルフガングはせっかくの休み時間だというのに、宿の近くにある広場で剣術修行をしている。


 いや、私も彼のことは言えないか。

 最初は久しぶりにゆっくり休むつもりだった。お菓子を食べながら市場で買った文学作品を読むという、平穏な午後を過ごそうと思っていたのだ。

 でも結局、《エグバート商会》や《蒼天の双翼》のことを考えると居ても立っても居られなくなってしまい、今はこうして情報収集の為に中心街の酒場に来ているのであった。

 

「……で、どうしてこんなことになってるのさ?」


 情報収集を始めてからしばらくして。

 私は成り行きで、見知った三人組、正確には三人プラス一人と相席になっていた。

 目の前では、童顔だが肉付きの良い金髪の女性――《竜の目》のシスティーナが、顔を真っ赤にして両側の人物の肩を掴んでいる。

 一方はリーダーである半竜人のゲオルク。

 もう一方は以前の戦いの時には見かけなかった、同い年くらいでセミロングのプラチナブロンドを持つ少女。「ルルティエ」という名のドラゴン使いだった筈だ。

 その更に隣には知らない町娘が居る。話に入りたそうにそわそわしながらシスティーナの方を見ているが、一言も喋っていない。


「あわぁぁ……リアちゃんでしゅよねぇ。この前はごめんにゃしゃひぃ、こっちも依頼だったので仕方がなく……仲直りする為にも一緒に飲みましょ~?」

「いや飲まないけど。私、お酒は避けてるんだ」

「うわあぁぁん冷たい~! 仲直りしたくないんでしゅかぁ……うぅ、ヒック……」

「そもそも別に仲良くないじゃん。実際に会ったの、王都奪還の時とこの前の戦闘の時だけだよ?」

「ガーン! そんな薄情なぁ~……」


 完全に悪酔いしているシスティーナ。別のテーブルについていた私を「仲直りがしたい」と言って呼び寄せたのは彼女だ。

 なお、私が酒を飲まないことにしているのは「酔って隙を見せたくないから」というのが一番の理由だが、元の世界で言うならまだ未成年なので抵抗感が抜けていないというのもある。


「すまん、システィはマジで酒癖が悪いんだ。昔は敬虔な《天神聖団》の信徒で一切飲まなかったから、まだ身体が慣れてないんだと思うが」

「はぁ……だから酒場なんて行きたくなかったのに。しかも、よりによって敵であるコイツと相席になるし」


 以前に交戦したことは綺麗さっぱり水に流したのか、本気で済まなさそうな顔をしているゲオルク。

 一方でルルティエの方は頬杖をつきながら私を睨んでいる。彼女の方は私たちのせいで依頼の完遂に失敗したことを引きずっているようだ。

 或いは、年齢が近そうだからライバル意識を持たれているのかも知れない。


「そう言うなルル。もう依頼は終わったんだ、今のオレたちは別に敵同士じゃない……勿論、そっちにその気がないならな?」

「安心して。どうもきみ達は根っからの仕事人気質みたいだし、クズ連中からの仕事が終わったなら少なくとも今は潰す気はないよ」

「随分と言ってくれるねピンク髪。潰されるのはあんたの方だよ。どんなドラゴンがお好み?」

「もぉ~喧嘩しにゃいでくだしゃひぃぃ~! そんな脅しみたいなこと言っちゃ『めっ』ですよルルちゃん!」

「いや、だってこのピンク女、私たちのこと見下してるみたいだから……!」

「『めっ』ですよ!」

「う、うん……」


 どうやら二人ともシスティーナには頭が上がらないようだ。

 彼らの関係性も気になるところだが、今はもっと聞くべきことがある。


「……ねえ、駄目元で聞いてみるけど、《エグバート商会》の正体について何か知ってる? きみ達の元・依頼主でしょ」


 顔に笑みを張り付けたまま、周りの無関係な人間に聞こえないように小声で言う。

 瞬間、ルルティエとゲオルクの視線が鋭くなった。

 システィーナは机に突っ伏して、この世の救いのなさを嘆いているが。


「あんたさぁ、知ってても言うと思う? 依頼主のことなんかバラしたら冒険者としての信用問題になるに決まってるよ」

「そういうこった。オレらに聞いてくれるな」

「だよね、ごめんね。まぁこっちは『一応聞いた』ってだけだから許してよ……じゃあ、《蒼天の双翼》については?」


 そう質問すると、ゲオルクはほんの少しだけ悲しそうな顔をして宙を眺めた。


「あ~、こんな世界じゃ珍しいくらい気の良い連中だったんだけどな。惜しい奴らを失くしたもんだ」

「実質的には傭兵なキミ達と違って『冒険者』してた冒険者パーティだったからね」

「私たちが冒険者らしくないのは認めるけど、実質的には殺し屋なあんたらに言われたくもない」

「別に殺しばっかりやってる訳じゃないんだけどなぁ……んで?」

「詳しいことはオレ達も知らん。ただ、最近は冒険者が王都に集まってるから、何かしら同業者同士でトラブルになるんじゃないかと予感していたが」


 確かに、現在ここに滞在している冒険者は心なしか多いような気がする。

 序列入りパーティだけでも私たち、第三位、第七位、ちょっと前までは第八位の四つが居た。

 恐らく、この頃は王都周りの治安が悪化気味であるがゆえに、依頼が増えてきているのが原因だろう。


「ゲオルク的には『冒険者同士の抗争があった』と考えてるのかな?」

「や、別にそこまでの確信はねえ。でも、よくあることだろ? 嫉妬心拗らせて別のパーティを闇討ちしたりとか、依頼遂行中に襲撃したりだとかさ」

「まぁね……《蒼天の双翼》は活動スタイル的に街の人々に恨まれるようなことは少ないだろうから、実際その線が濃厚なのかもね」

 

 一人で頷いて納得していると、ルルティエが口を挟んでくる。


「で、そんなこと聞き出してあんたはどうするつもりなの?」

「ほら、もし本当に何らかの悪意による結果だとしたら、私たちだって狙われる可能性があるじゃん? 警戒はしておきたいなって」

「なるほど……随分と用心深いね?」

「そのお陰でここまで生きてこられたからね。ま、第三位みたいなのも居るけどさ」

「フェルディナンドか……実際、今まで何度も暗殺されかかってるそうだけれど、金の力で衛兵をたくさん雇っているから事なきを得ているみたい」

「そんな目に遭っても冒険者続けてるっていうんだから、少なくとも肝は据わってるようだね。あれはいつか大成するかも~」

「あんな小物の将来なんてどうでもいいよ」

「なはは! ともかく、そっちも適度に気をつけなよ。きみ達の実力なら余計なお世話だと思うけれど」

「ホントに余計なお世話……でも一応、心に留めとく」


 話が一区切りついた頃には、システィーナはテーブルの上で「みんな仲良くしてくださ~い」なんて寝言を言いながら眠っていた。

 私は購入した飲料水を飲み干し、木製のカップをテーブルに置いた。

 そろそろ夜になるから宿に戻ろうと思ったのだ。

 席を立つ前、ふと彼らの様子を見る。テーブルの端に居る女性は相変わらずオドオドしたままであった。


「……そういえば、こっちの人は? ずっと何か話したそうにしてるけど、きみ達の知り合い?」

「オレたちが借りてる宿の主人の娘さんだ。『買い物をするなら荷物持ちがしたい』ってことで付いて来てな」

「女の子を荷物持ちとして手伝わせたんだ?」

「いやいや。最初は断ったさ。でも『上客にはどうしてもサービスしたい』らしくてな……」


 当の本人は何も言わず、ただ首を縦に振っている。

 そんな様子を見て、なにか形容しがたい違和感を覚えた。

 彼らがこの女性を武力で脅して労働させていると疑っている訳ではない。《竜の目》がそういう手合いではないのは、たった三度しか会っていなくても分かる。

 彼らも、そしてこの女性本人も望まない何かしらの意思が働いているような気がするのだ。


「本人の目の前で言うことじゃないが、最近の情勢的に冒険者向けの宿の競争率が高まってるから、少しでもオレ達を引き留めたいのかもな」

「う~ん、どうだろね。さて、私はそろそろ行くよ」


 そう言って立ち上がると、急にシスティーナが泣きながら起き上がってきた。


「まってくださひぃ~、もっとお話しましょ~よ~! オッ……うげ……ぎもぢわるいですぅ……」


 なんだか大変なことになりそうだなと思い、引き留めようとする《竜の目》の三人を無視して私はさっさと酒場から出ていった。

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