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8章10節:魔人部隊との交戦

「リーズちゃんとウォルフガングは遊撃、ライルは後ろから援護してっ! 他の皆は防御優先で散開!」


 私が声を張り上げて指示を出すと同時、敵も動き出した。

 全部で十人ほどの魔人が一斉に跳び、それぞれの武器でこちらを叩き潰そうと迫ってくる。

 幹部ほどではないにせよ人間族を遥かに凌駕する速度だ。

 これは出し惜しみなどしていられないな。

 私は敵の一人――「剣を持っている男」に片方の手をかざした。

 するとその剣が宙に浮き、困惑している持ち主を背中から貫いた。

 私の前で聖魔剣でも何でもない剣を使うことはすなわち死を意味しているのだ。

 さて。さっそく一人削った訳だが、他の者たちは仲間が息絶えてもその異常な死に方に対する警戒こそすれ、感情的にはなっていない。

 彼らにとっては仲間の死など日常の一部に過ぎないのだろう。


「素人が! 戦場で怯えて立ち止まるとはな!」


 別の魔人がそう言って、恐慌状態に陥っている冒険者パーティめがけて空中から斧を振り下ろそうとする。

 それにリーズが私よりも早く反応し、《加速(アクセル)》を詠唱。

 片手しか使えないことによるパワー不足を速度で補い、鋭い突きを放つ。

 しかし敵も相当な手練であるようで、片腕を犠牲にすることで致命傷を回避。そのまま退いてリーズとの交戦を始めた。

 ここはあの子に任せよう。本当は《術式》を使って欲しくはなかったけれど、そんな甘いことを言っていられる状況でもない。

 私はリーズから少し離れたところで右往左往している傭兵隊を狙っている別の敵に狙いを定めて《神炎剣アグニ》を発射。

 その攻撃は斧の一振りで弾かれる。だが、奴は目の前の傭兵たちから意識を逸した。


「今ッ!」


 私が叫ぶと傭兵たちは一瞬戸惑いながらも勇気を振り絞って剣を突き出し、魔人を刺殺した。

 彼らはもう明らかに息絶えている敵を数人で囲み、滅多刺しにしている。


「もうそいつは死んでる! 周囲を警戒して!」

「はは、見たかクソ魔族共! 俺たちでもやれる――」


 その時、私の言葉を無視して悦に浸っている傭兵たちが一瞬で血溜まりへと変わった。

 また別の魔人が斧を振り下ろし、衝撃波で全員を押し潰したのだ。


「あの女だ! 雑魚は無視してあいつを狙え!」


 彼は私を指差すと、二人の仲間を引き連れて進路上に居る民兵たちを吹き飛ばしながらこちらに向かってきた。

 中距離から全体の様子を窺いつつ戦おうと思っていたがそうもいかないか。

 まあ私の方に敵が来るのであればその分、頼りない連中を守ることに意識を注がずに済む。決して悪い展開ではない。

 まず正面の敵に聖魔剣を放つ。直線的な攻撃であるため全て見切られたが、この結果も織り込み済みだ。

 そいつはこちらが無防備になったと思い込み、槍による一撃をかましてきた。

 私は即座に《竜鱗剣バルムンク》を手もとに呼び出して防御。体勢が崩れたところを狙い、他の聖魔剣を反転させて串刺しにする。

 あとの二人もすぐに倒してやる――そう思ったところで、彼らは予想外の行動に出た。

 私のすぐ傍を通り抜け、更に後方で援護してくれているライルや他の《術式》使いたちを狙いに行ったのだ。

 敵ながら見事なまでに迅速な判断だった。

 こうなると先に「あいつを狙え!」を叫んでいたことが効いてくる。その言葉によってライル以外の大半が「自分は攻撃されないだろう」と油断してしまっていたのだ。


「くっ……《加速(アクセル)》ッ!」


 私は少し焦りながらも詠唱し、素で人間離れした走力を持つ魔人に追いつく。

 そのまま《竜鱗剣バルムンク》と《変幻剣ベルグフォルク》を構えた。近接戦における攻守一体の構成だ。

 同時にライルの名を呼び、彼の手もとに《神炎剣アグニ》を転送する。

 あいつは剣の腕こそ劣っているものの、付与された能力自体が強い剣ならば問題なく活用出来るのである。

 一人は彼に任せるとして、私も速やかにもう一人を撃破するとしよう。

 まずは術士たちを蹂躙すべく放たれた斧の一閃をバルムンクによって弾く。それから残った聖魔剣を遠隔操作して攻めるも、的確に叩き落とされてしまう。

 さっき見せた技とはいえまさか対応されるとは。

 ならば切り合うのみ。その為に《変幻剣ベルグフォルク》を握っているのだ。

 私は魔人の重い攻撃を《強健(フォース)》も交えて防御しながら刃を繰り出していった。但し、飽くまで牽制なので剣の能力はまだ使わない。

 敵の反応を見るに《変幻剣ベルグフォルク》がエメラインの持ち物であったことは知らないようだ。だったら話は早い。

 何度か打ち合った後、私は剣の能力を解放して刃を伸長させた。

 さっきまで届かなかった攻撃が喉元に迫っていることに魔人が気付き、動揺を見せたがもはや手遅れだ。

 そのまま喉を貫いて終わらせてやった。


 ライルの方を見ると、ちょうどもう一人の魔人が炎に包まれていた。気配を隠匿した上で《神炎剣アグニ》によって死角から攻め立てた――といったところだろう。

 辺りには味方の死体も幾つか転がっているが仕方あるまい。

 ライルは防御力があるタイプではないから、攻撃対象を素早く切り替えられるような熟練者を相手取って「仲間を守り切れ」などと求めるのは無理がある。


 さあ、ここは片付いたから次の敵を倒そう。

 そう考えて辺りを眺めると既に戦闘は終わっていた。ウォルフガングとリーズが頑張ってくれたか。

 二人がこちらに歩いてくる。リーズは相当無理をしたのか息を切らしていた。


「大丈夫? リーズちゃん」

「ええ、平気です。しかし犠牲をたくさん出してしまいました……こちらに辿り着いた仲間で生き残っているのは半数程度かと……」

「志願してこの場に立っている以上、ホントは自分の身なんて自分で守らなきゃいけないんだ。それを考えたら私たちは充分頑張ったよ」

「……そう、ですね」

「じゃあ山道の方に移動し始めよっか。あっちの方が遥かに戦力が充実してるから自分たちだけで切り抜けてる……とは思いたいけどね」


 ライルが橋の方を見て口を開いた。

 アレスとバルディッシュの決闘は段々と激化している。破壊的な暴風が吹き荒れ、爆撃魔法が飛び交う様は人同士の争いというよりも天災そのものだ。


「あいつら残していって良いのかな」

「あれには介入出来そうにないし、かといってゲオルク達の為にしてあげられることも特にない。ここは予定通り先に動くべきだよ」

「まあ言われてみれば……やれやれ、忙し過ぎるぜ」


 私は軽く笑って同意を示した後、生き残った連中に指示を行って移動を開始した。

 この戦いで私たちの力量を実感したのだろうか、皆が素直に「あんたらに従おう」と言ってくれたのは幸いだ。

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