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豊葦原物語  作者: 秋野萌葱
第一部
6/9

謎の物体と恐怖の一瞬

来週からは土日で1話ずつ投稿していきます。

「ゲホっゲホっ。」


飛竜から地上に降りた私は吸い込んだ煙の臭さに思いっきりむせた。

目に入った煙が目にしみて、視界が悪い。

ぼんやりとした視界から見えたのは燃え上がる体を持った犬のようなどす黒い物体が暴れ、周囲に炎を纏った岩石を撒き散らしているのを武器で打ち落として防いでいる蒼月さんと、細身の剣を振り回して物体を切り裂こうと奮闘する朱若がいた。



「口元を布で抑えてできる限り煙を吸い込まないで、あと絶対に烙のそばから離れないで。」


翡翠は何度も何度も私に言い含める。

そして煙にむせる事なく平然とした顔で碧色の玉を片手に持った。


「解放・二式ノバルバード。」


翡翠が呪文みたいな言葉を唱える。


カッと、緑色の光が玉から溢れ、眩しさに私は目を瞑った。

光が収まってきて恐る恐る目を開けると、翡翠の手の中にあった玉は消え代わりにエメラルドのオーラを纏った白いバルバードが握られていた。


「はぁああッッッ!!!!」


翡翠が横に薙ぎ払うバルバードから繰り出した斬撃が飛び,物体に当たった。


『ぎゃぅっ!』


「凄い!当たったっ!」


一撃,二撃と的確に翡翠は攻撃を物体に当てていく。


翡翠の攻撃が効いたのか、物体の動きが少し鈍り蒼月さんと朱若の動きが格段に良くなる。

中段の構えを持ち変え、上段に握り直すと、朱若が地面を蹴って跳んだ。

朱若が握る白銀(しろがね)色の刀身に炎のようなオーラが浮かぶ。

どんどんとそれは色づいていき、熱を含んだ焼き切れるような鋭さが研ぎ澄まされる。


『我らが氏族(うじ)神朱雀よ。我が祈りを聞き届け猛き力を与えたまえ。』


朱若が言葉を紡ぐ。

神に祈るような切々とした願い。

それが言葉に現れるように朗々と祈りの声が響き渡る。


『我が望みし猛き力と共に大地を穢す(けがす)妖魔(ようま)を焼き払い給え!』


刀身の炎が業火のように燃え上がる。

祈りと共に最大級に研ぎ澄まされたその剣先が、物体に目掛けて勢いよく振り下された。


『ぎゃうぅぁあああああっ!!』


轟音にビビって思わず耳に手を押し付けると目を閉じる。

しばらくして轟音が止み、恐る恐る目を開けて辺りを見回した。


近くには肩で息をしながらも、バルバードに身を預けている翡翠がいた。

その少し先には薙刀を地に落とし、座り込む蒼月さん。

そしてさらに先には、死にかけコオロギのように仰向けに倒れてヒーヒー言ってる朱若がいた。

物体は一刀両断されて転がっていて、さっきまでの暴れっぷりが嘘のように沈黙していた。


「だ、大丈夫?翡翠?もう、物体死んだ?」


「朱若が大技を放ったから、妖力の線が半分以上切れて沈黙してる。」


「それって、もう動かないってこと?」


「多分。でも油断はできないから烙の側から絶対に動かないで。」


「翡翠たちは怪我してない?」


「命に関わる怪我は無いよ。ただ、暫くみんな動けないだろうから、待っててくれる?」


「わかった。」


出来るだけ距離を取るように飛竜の影に隠れ、そーっと顔をのぞかせて物体の様子を観察してみる。

犬のような四肢に、猫のような尻尾、胴の部分が切断されて傷口から黒々しいものが流れていて、まるで写真でしか見たことのないブラックホールを見ているような気分だった。

毛は生えていたが、それらは岩石のように硬いようにも見えた。


顔の部分に視線を移す。

額には、金鉱石のような色の丸いものが埋め込まれてあり、妖しく光っていた。

そして、閉じられた眼球部分を見る。


ぱちっとそれは目を開けた。

赤褐色視線が私の目とかち合った。


「ヒッ!まだ生きてるよ!あれ!!」


悲鳴まじりの声で叫ぶ。

瞬時に翡翠、朱若、蒼月さんの纏う空気が殺気に変わった。

けれど体力の限界が来ているのか、蒼月さんと朱若は武器にしがみつき立ち上がるも、体勢を保てずその場に崩れ落ちた。

物体は前足二本で跳躍すると、ずるずると胴体を引きずりながら全速力で私の方へ走り出した。


「ちぃっ。」


翡翠がバルバードをブン!と一振りすると、玉に戻す。

次の瞬間翡翠の手からロープみたいな物が私の体に巻きつき、ブン!と体が宙に浮かんで翡翠の飛竜に私は転がされた。


翡翠が私に向かって叫ぶ。


「飛んで!背中を二回叩いたら烙は飛ぶから!!」


「分かった!」


指示されたように、必死に腕を伸ばしてポンポンと烙の背を叩くと、翼が風を切り宙に浮かぶ。


『ピーッ!!』


けたたましい指笛が鳴り響くと共に、烙は上空に飛んだ。

追いかけてくる物体は、どんな法則を使っているのか階段を駆け上がるように空中を走り、私に迫ってくる。


「やばい!やばい!!追いつかれるよ!」


丸焼け。真っ二つ。嫌な単語が私の頭を占め始めたその時。

ふと、左手が熱く感じた。

みると手にあったのは翡翠から護身用に渡された銃だった。


『身の危険を感じたら躊躇わずに相手の目玉を撃ち抜いて』


ここにくる前に聞いた翡翠の言葉が脳裏に蘇った。

それと同時に手が動いた。

まず両足で鞍にしがみつき、カエルのように体をはりつかせると右手に持っていた手綱を引っ張ってグルグルと手首に巻きつける。

そして、片足を鞍の出っ張った部分に足を掛け、追いかけてくる物体に集中できる体勢をとる。

手汗がうっすらと滲む左手に持つ銃を構え直すと教えてもらった通りに安全装置を外し、銃口を物体に向けた。


ドクドクと心臓が脈うつ。

すり鉢で潰されていくように神経を集中させていった。

チャンスは一回きりしかない。

これを逃したら、二度と玉が当たらないという確信めいたものが私の中にあった。


だからこそ全てをかけてこれを当ててやる!!


『ダァン!』


一撃が銃口から放たれた途端にドッと疲労が押し寄せて目蓋が自分の意思と反してどんどん落ちていった。

ぼんやりとしていく意識の中で見えたのは玉が当たったのか悶絶している物体が見えた。

そして、一斉に飛んできた三本の武器に串刺しにされ、今度こそ物体は地面に落ちていった。


・・あれ?なんか、近くで怒鳴り声が聞こえるのは気のせいだろうか?


その後、私は目覚めたのちに怖い顔をした朱若たちからお説教のフルコースを受けることとなる。










 

      

・裏話・

沙羅蘭が気絶した後、身柄を回収に来た朱若が気絶に気づいた時、パニクって心臓バクバクでした。

飛竜の上で気絶する人間なんて滅多にいないですから。

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