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豊葦原物語  作者: 秋野萌葱
第一部
3/9

間話 空から落ちた黒髪少女 

視点が変わって沙羅蘭が気絶する少し前の話です。

超高速で落下していく女性。

それを上回るスピードで落下する女性を受け止めようと必死に追いかける迅と俺。


風が右から左から迅の飛行の邪魔をして、中々女性に近付くことができない。


「ぐっ。厳しいなっ。」


手綱を操り、ジワジワと女性との距離を詰める。

今の距離は大体二メートル、キャッチするにはまだ弱い。


「迅、頼めるな?」


ポンポンと迅の背を数度なで高度を上げる指示を迅に出した。


「キュウ!」


迅は二、三度羽ばたくと風をきり、一気に距離を詰めて女性に近づく。


結構近づけたな。


しかし急接近したとはいえ、まだ二メートルも距離がある。

飛竜の背に乗っている為、足場も不安定だ。


この距離から手が届くか?


いや、絶対に手だと受け止めれない。


最悪バランス崩して地面へ真っ逆さまだ。


じゃあどうする?



「跳んで受け止めるしかない!」





[沙羅蘭が落下する少し前]


(うから)会議で思ったような結果にことが運ばなかった。


不貞腐れた表情を隠すために、竜舎に飛び込んだ俺は相棒の飛竜、(じん)の背に跨る。


「若!会議を抜け出して来て宜しかったのですか!?また長老方のお説教を受けますよ!」


「わかってる!1時間ほどしたら戻るから自由にさせてくれ。」


止めようとする従者にそう言い残し、広い竜舎の中を飛竜で一息に駆け抜ける。

出口を出るか出ないかのギリギリで俺は迅の鞍の(あぶみ)に足を掛け空に飛び上がった。




飛竜と共に遠さかるあるじの背を地上から見つめ従者は軽く苦笑した。


「・・はあ、あんなに上手く飛べるのは、朱の地でも若君くらいだぞ。」



側にいた竜舎番の翁は眩しそうに、朱若が飛び去った空を見上げ目を細める。


「へえ。私はしがない竜舎番で御座いますが確かに、あの方の飛行術にはいつも驚かされるばかりです。」


やれやれと、石段にしゃがみ込んだ従者の口から溜息が流れ出した。


「天才肌ゆえに周囲、特に大人との軋轢を生みまくるから、後始末に走り回る俺の仕事がどんどんと溜まっていくばかりだ。」


従者の口から靄のようにでてくる愚痴と溜息に翁はそれを面白がるように笑った。


「苦労が絶えませぬなあ、天地(あまじ)様も。」


それは労りなのか。それともからかいなのか。

少し気まずくなって天地は立ち上がる。


「さて、若の為にお説教回避の根回ししておきましょうかね。

 上手くいく確率はめっっっちゃ低いでしょうけど。」


「私も仕事に戻るとします。上役に怒鳴られるのは御免ですから。」



そんな従者とたまたまそばに居た竜舎番の褒め声も、グングンと高度をあげる朱若の耳には最早届くことはなかった。





「ああああああああああああああああ!!!クッソッ!俺の意見を蹴りやがって!あんの老害ども!」


およそ従者や人前では決して言うことが無い罵詈雑言を上空を飛ぶ俺は口汚く罵っていた。

先程まで、俺は族会議に参加していたが嫌気がさして飛び出し、今は上空で一人と一匹で日頃の鬱憤を晴らしていた。



会議の中で議題に上がったのは、(しゅ)(うから)の領内に流通する貨幣についてだった。


現在、中央府の法に従い、どの土地も金、銀、銅の三種で、刻印によって価値を決めている。

貨幣が統一される事は良いことだ。

混乱も少なく、物流の流れも円滑に進み、何より土地が潤う。

だから、貨幣制度に関しては何事も問題は無いのだが、問題は貨幣自身にある。


ここ数年、朱の地の金の算出が減って来ている。


今問題が目立っているのは朱の地だけだが、いずれは他の地でも問題が大きくなり、将来的に金銀が取れなくなるのが、中央府に在籍する学術師の見立てらしい。


ようは取ったら減ると同じ様に、金も銀も有限なのだ。

それに動植物のように自然と湧き出てくる確証も無い。


その事から俺は、段階的に混ぜ物の含有量を増やしていき、最終的に金1:混ぜ9で増やすのはどうかと提案したが。


ものの見事に反対された。

主に、中堅クラスからだった。


『前例が無いゴニョゴニョ。』


『不確定の行き当たりばったり計画ゴモゴモ。』



「どいつもこいつも尻込みやがって、そんなに自分の身が大事か!?」


考えても仕方がない、そう思っていても反対派の顔を思い出すとやっぱり腹が立つ。

そんなふうに悶々と一人考えていると。


「キュウ。」


迅が不安そうに鳴いた。

ハッと意識が戻り、辺りを見回す。


飛行に問題はないが、周囲の風も少し強い。

俺の不安が迅に伝わってしまったか。


「あ、ごめんな迅。こんなのらしくないよな。」


不安をほぐす様にゆっくりと、首元を撫でてやる。

幸せそうに、グルグルと迅は喉を鳴らした。


やれやれ、心のイライラが収まったのは良いが、まだ宮に戻る気も起きない。


さてどうしようと考え、ブラブラと上空を飛んでいるとあることを思い出す。


そういえばこっち方面は確か神殿があったはず。


どうという事もない今朝の上空巡回の場所の一つだった。


だが、妙に心に引っかかり、俺は手綱で進路変更の指示を迅に出し神殿に向かった。





悪い予感とはよく当たるものだと迅に急速接近の指示をしながら、虚空を睨み苦々しく思った。

俺は、只今上空落下している女性を保護するために、迅と落下中の女性の回収作業を試みている。


「何で、何で落下物が人間なんだよ。」


愚痴っても仕方ない。応援を呼ぶ暇もない。

今はただ、落下中の女性をどうにかして回収しないと、最悪、いや、確実に死んでしまう。


超高速で落下していく女性。

それを上回るスピードで落下する女性を受け止めようと必死に追いかける迅と俺。


風が右から左から迅の飛行の邪魔をして、中々女性に近付くことができない。


「ぐっ。厳しいなっ。」


手綱を操り、ジワジワと女性との距離を詰める。

今の距離は大体二メートル、キャッチするにはまだ弱い。


「迅、頼めるな?」


ポンポンと迅の背を数度なで高度を上げる指示を迅に出した。


「キュウ!」


迅は二、三度羽ばたくと風をきり、一気に距離を詰めて女性に近づく。


結構近づけたな。


しかし急接近したとはいえ、まだ二メートルも距離がある。

飛竜の背に乗っている為、足場も不安定だ。


この距離から手が届くか?


いや、絶対に手だと受け止めれない。


最悪バランス崩して地面へ真っ逆さまだ。


じゃあどうする?



「跳んで受け止めるしかない!」


未だ試した事のないやり方の為、一か八かの賭けだった。


呼吸がはやまっていく。

心音がどくどくとうるさい。


気の高ぶりを鎮めながらゆっくりと鎧から足を離した。

迅に静止の指示を出して鞍に足を置くと立ち上がる。

背足を揃えて、跳躍の構えをとった。


5・4・3・2・1


飛ぶ_!


「せいっ!」


女性に向かって空に跳び上がった。

前傾姿勢になり、腕を必死に伸ばす。

ズン!と両腕にかかる重みと共に俺は女性を受け止める。


次の瞬間、ガクッと体勢が崩れ、落下スピードが速くなった。


やばいやばいやばい!!


心臓が、過去最高に早鐘を打つ。

右肩に取り付けていた細い小さな竹笛を咥える。


ピイ—————!


口に咥えた笛に思いっきり息を吹き込んだ。

次の瞬間、近くに待機していた迅が動きだす。

風をきってこちらへどんどんと近づいてくる。


俺は、出来うる限り背を縮め、体を丸めると、着地の姿勢を作った。


一回転で落下の衝撃と体重をできる限り抑える。


ボスッ!


着地の衝撃と共にナイスタイミングで俺と女性は迅の背に飛び乗った。




「はああああああああああ。心臓止まるかと思った。」


鞍に座り直すと、一気に脱力感が心臓を襲ってくる。

それもそうだ。

迅のタイミングが合わないと、俺と女性は今頃空中真っ逆さまである。

死の恐怖は跳躍時には感じなかったが、気を抜いた今になって体を襲ったのだ。


まだ、気を失っちゃあ駄目だ。


迅に指示を出せなくなり、最悪の場合背から落ちてしまう。

気を奮い立たせ、気付けの丸薬を口にする。


一息付くと、片腕で抱えた女性の顔を覗き込んだ。

顔色は白く血の気がない。

次に持ち物を確認してみる。

しかし、これといった所持品もなければ、階級を示す倫玉(りんぎょく)も無い。


「何処の地の者だ?」


所属や出身地が道具で判断、確認ができない場合、髪色や、瞳の色で大体を判別する事が多い。

髪色や瞳の色でどの土地で生まれたかの傾向に偏りがあるからだ。


確認のために、髪を一房掬って見つめる。

サラサラとした黒髪が、一本、二本と絡めた指からつたい落ちた。


「・・・・?(こく)の者か?」


黒髪の者は大体(こく)の地の出身の者が多い。


だが、髪色だけでは確証も無い。

瞳孔も確認したかったが、この状態では体勢を変える必要があり少し危険だ。


どうする?館に連れていくか?


駄目だ。連れて行ったら絶対ろくでも無いことに巻き込まれる予感しかない。


少し面倒だが、あの人を頼ってみるか。


羽織っていた薄い外套を黒髪の女性の肩に巻き付ける。

俺は女性を抱え直し、迅に指示を出して中央へと進路変更をした。

出会いとともに厄介ごとに巻き込まれていく朱若少年。

沙羅蘭と朱若は元の歳はちょっと離れていますが、沙羅蘭が十五歳の見た目になったことで歳の差もめっちゃ縮まりました。

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