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豊葦原物語  作者: 秋野萌葱
第一部
2/9

モフモフと広がる世界

寒い。


ピリピリとした肌がひりつく感触。

そして、背中は妙にモフモフしていて、謎の浮遊感に私は目を開けた。


ちょっと待って。


私、川に落ちて死んだはずだよね?

それに、生きているとしても水に翻弄されてる感触はあるよね?


天井に広がるのは(なま)の大空、屋内でも無ければ、病室でもない。

周囲の状況がイマイチ分からなかった為、意を決して私は起き上がった。




「えっ。えっ。何これ。」


たっぷり十秒私の思考は全く動いていなかった。

それもそのはず、まず私の容貌が大分変わっていた。


ショートカットだった髪が伸びて腰まであり、結い上げていた髪型は崩れて乱れて髪をまとめていた白いバレッタは何処かへ消えていた。


そして、体がなぜか体感約ー4歳程若返っており、165cmが自慢だった私の高身長は、158cmまでに縮んでいた事に気づいた時は地味にショックだった。


そしていつ、誰が、着替えさせたのか分からないピッタリサイズのヒラッヒラの白いワンピースの裾が、風にバタバタと煽られていた。


辺りを見回す。


一気に視界が開け、不安定な大空に体が投げ出されそうになった。

驚いて、モフモフした何かをガシッと掴む。


これ、鳥だ。


え、なんで、なんで鳥の上にいるの、私。


半ばパニック状態になりながらも私はここが何処で、とてつもなく危険な状態である事を理解した。


今、私は大きな黄金の鳥の背中に乗って空にいる事。

しかも、飛行機ではないし意思疎通が取れない生き物のため、いつどこへ降り立つか分からない。

そんな鳥の背に乗る自分の命の危険性も相対的に跳ね上がる。


やばい!どうしよう!周囲に助けを求めることは出来るかな?


意を決して大声を出した。


「誰か〜!いませんか〜!助けてください〜!」


『・・・・・・・』


返事は返ってこない。


それもそうだ、普通鳥に乗って空を飛んでいる変な人なんて私以外誰もいないだろう。

いや、日本では鳥に乗るなんて奇特なことはまず出来ない。

下手をすれば無許可飛行、狂人エトセトラで逮捕案件だ。

それに野生の鳥は人間には馴れ合うことはないはずだ。


何から何まで不思議な現象に辟易していると、雲に阻まれた視界が開けた。


「え、何ここ。」


視界が開けた一面には、目を見張るほどの広大な島々が広がっていた。

中心部はポッカリと孤島のように浮かんであり、沢山の建物が上空から見えた。

そして、島の端々には大規模な橋が掛かってあり、孤島を囲むように周りには様々な島、小島が連なっていた。


鳥は北の島へ下降していく、そこから見えた景色は一言で表すと静謐だった。

最初に目に映ったのは広大な街中に張り巡っている小川。

よく目を凝らすと小川の大半は水路だった。

水路のように見えていても、一つ一つはしっかりとした防波堤が作られている大きな川だ。


水路は一つ一つをまるで均等に切り分けたかのような石を組み上げて積み上がってあり、隙間は一つもなかった。


カルーア色の建物が多く並んでいるので街の雰囲気も相まって独特の美しさがあった。


もう少し、それを見ていたい。


周りの静けさに心惹かれ、思わずそう思った。


だが、黄金(きん)の鳥は無情にも後ろ髪引かれる私を連れて次の場所へと飛び立った。




黄金の鳥が次に飛んできた場所は、全体的にヨーロッパ風の建物が広がる街並みが広がる土地。

地面は石畳で覆われており、街中には小さく見えるだけでも幾つもの小規模な露店が立ち並んでいる。


周囲の光景に目を奪われている中で、ある場所へと目が行く。


『カーン。カーン。』

     

金槌と、鉄の擦れ合う音が高らかに聞こえてくる。

音のする方向には、沢山の運搬物を運ぶ荷馬車が向かっていた。


小さく幾つかの煙も遠くに見える。


鍋や鉄板でも作っているのかな?それとも鍛治の街なのかな?


ここからでは何を作っているか分かりづらく、もっと見てみようと前のめりに体を向けた次の瞬間。

『ガクッ』と急に体が傾き、鳥の背から落ちそうになった。


「うわっと!危ない危ない。」


重心を傾けたせいで、鳥の飛行バランスが崩れそうになったらしい。


鳥の背って結構バランスを保たないと危ないんだ。


そうこう私が考えている間に、鳥はその場から離れ、次の場所へと私を連れて行った。




いくばくかの時間を経て、黄金の鳥の背からやっと見えてきたのは、大きな美しい神殿だった。

外観は古代ギリシャの神殿によく似ているが、所々に日本の神社のような要素がある。

その周りを白い石垣で囲まれていた。


白い神殿の色に合わせた鳥居、そして内部には漫画で見たことがある陰陽師の文様が、うっすらと見えた。


周りの静けさが、そして神殿から発せられる暖かな空気が私の心を包み込んでいく。


鳥の背中で、もふ毛を掴んでいた私の手の甲に熱を帯びた雫が落ちた。

思わず目を擦ると、それは私の涙だった。


何故だかはわからない。

何にが悲しい気持ちにさせたのかも分からない。


けれどその神殿が何処か懐かしく思えてきて、心が苦しくなり、涙は止まらなかった。


これは何?


分からない。分からない。


でも、暖かくて、優しくて痛いの。


まるで、養母(かあさん)抱きしめられている感じだ。




しばらく感傷に浸りながら、神殿を鳥の背から見つめていると。


「うわっ!うわわっ!」


急に黄金(きん)の鳥がおかしな動きを始めた。

グワン、グワンとあっちへ揺れたりこっちへ揺れる。


もふ毛を掴む手も、そして体もあっちこっちに揺れるものだから、思わず鳥の背中にポフっと全身が埋もれた。


あ、もふふかだ。


そう思う暇もほぼ与えられず、私は次の瞬間、2度目の死を覚悟する事となった。


「エ。」


スカスカなのである。

もう一度言う。スカスカなのである。


正確には鳥が消えていたのである。

もう自分の身を受け止めてくれる鳥も何もいない。


結論、自分の生存の可能性は一ミリも無い。


そして、現在の高度は大体ヘリコプターからバンジージャンプして見えるような景色である。

安全紐も何も無い。

私が行き着いた考えはそこまでだった。


「なっ!えっ!?ぎゃあああああ〜@:+*;@¥^ー__」


おおよそ声になってない悲鳴をあげて、私は気を失った。








あともう1話投稿します。

モフモフは正義。

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