大学空手部
大学空手部
今日も今日とて、朝から雲行きが怪しい。
数学の時間、天岡が授業をサボって出て行った。
天岡はクラスでは一番の年長者だ、本来なら大学生くらいだろうか。
そのせいか不良グループとは距離を置いているし、不良達も天岡に一目置いている。
ボクシングをやっているという噂もある。
学園の学生食堂は大学の建物の中にあった。
昼休み、福が学食に向かっていると、天岡が長い学ランを着た三人の大学生に囲まれていた。
「我々は高岡学園大学空手部の者だ。お前は今、裏門から入って来たようだが、どこへ行っていた?」
「あんたらには関係ないだろう?」
「大有りだ!空手部と応援団は、学園長から高校生の素行には呉々も注意をするようにと仰せつかっている」三人の中で、一番体格のいい男が言った。
天岡は相変わらず半笑いの顔で答えた。「太宰府の天神さんで名物の梅ヶ枝餅を買ってきた」
「何?餅だと!」
「クラスの仲間に分けてやろうと思ってな」天岡が不敵に笑った。
「ふざけるな、ちょっと来い!」男が天岡の右肘を掴む。
天岡はその手を振り払った。眼が針のように細くなっている。
「ちょっと待ってください!」思わず福が割って入った。「僕が頼んだのです」
三人の大学生は、福を怪訝そうに見つめた。
「嘘をつけ、庇えばお前も同罪だぞ!」
男達が福に迫る。今度は天岡が割って入った。
「俺が行けばいいのか?」
天岡の顔から笑みが消えている。男達は思わず後ずさった。
「こ、今回だけは見逃す。だが次に見つけたら、その時は覚悟しておけ!」
三人の大学生は、捨て台詞を残して建物の方へ去って行った。
「これをみんなに配ってくれるか?」
天岡はバッグの中から紙包みを出して福に渡した。
それはまだ、ほんのり温かかった。
「人数分ある筈だ・・・」
天岡は高校の校舎の方にゆっくりと歩いていった。
この様子を、多くの学生達が遠くから見ていた。
この事があってから、天岡はよく福に話しかけて来るようになった。
そのせいか、福の立場は特殊なものになって行った。
不良達が、福にも一目置くようになったのだ。
試験の時などは、試験に出そうなところを聞きに来る。
担任も福に伝達事項などを頼むようになった。
こんな事、福には初めての経験だった。中学時代は一度もなかった事だった。
入学以来誰も引き受け手の無かった学級委員は、自然発生的に福の仕事になっていった。