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3.回復師としてのお仕事

 翌日、わたしはいつもの格好でギルドにいた。

 ホールにいる冒険者はわたしの他に、『クオーツ』というパーティーの面々。それからこのギルドのサブマスター。


「アヤオ、今日こそ俺のパーティーに入る気になったか!」

「入らないし。マスターの依頼で来ただけだし」


 わたしを見て駆け寄ってくるのは、剣士のライノだ。『クオーツ』には回復師がおらず、わたしを見てはいつもこうして勧誘してくる。

 短く整えられた濃紫の髪と濃茶の瞳、ギザ歯が特徴的な……まぁ格好いい方なんだと思うけど、ちょっとしつこい。


「ふふ、まぁた振られてる」

「ライノは引く事を知らないからな」


 その隣でにこにこと笑っているのは、パーティーの魔導師であるシャーリーさんと、重鎧士のメイナードさんだ。二人は先日結婚したばかり。

 シャーリーさんは緩くウェーブのかかった金髪を背に払う。そんな仕草のひとつひとつが色っぽくて、わたしはついつい見とれてしまう。そんなわたしに気付いたシャーリーさんは青瞳を悪戯に輝かせてウィンクをくれた。わたしを撃ち抜いてどうする。

 そんな奥さまの姿を愛しそうに見つめるメイナードさん。なにこの幸せ空間。


「アヤオ、今日はよろしく頼む」


 声を掛けてきたのはサブマスターのタパスさん。

 狼の獣人であるタパスさんは、群青色の毛並みが艶やかでとても格好いいと思う。右目を走る縦傷でその視力を失った為に引退したけれど、元々は凄腕の冒険者だったそうだ。時々こうして任務をこなしに出てくる辺り、やっぱり冒険者が好きなんだろうな。

 ちなみにタパスさんも別世界からの転移者だそうな。


「はい、宜しくお願いします! それで、今日は……」


 どんな任務なのか問おうとするわたしを片手で制したタパスさんは、周囲に視線を巡らせた。受付嬢のキリアさんによって人払いのされているホールには、わたし達しかいない。


「誘拐、違法な売買によって奴隷とした人々を斡旋している商人の捕縛。被害者の保護が任務だ。被害者の中には幼子もいる」

「幼子を奴隷に!? なんてひどい話なの!」


 シャーリーさんが怒りに声を震わせる。

 そしてその感情は、その場にいるわたし達全員が持つものだった。


 この世界には奴隷がいる。

 罪を犯したもの、借金の(かた)に売られるもの、理由は様々なれど奴隷は存在する。この世界に来て、奴隷という身分が普通に存在している事に、少なからずショックを受けたわたしは、やっぱり平和な世界に住んでいたんだなと改めて思うばかり。

 奴隷の人も、そう為らざるをえない事情がある。でもそれは誘拐だったり違法な契約によって交わされるものではない。


「お前達『クオーツ』にはアジトに突入し、その場にいる者全てを捕縛してもらう。できるな?」

「任せとけ。殺さなきゃいいんだろ?」

「ああ、手段は任せる。アヤオは俺と共に被害者の保護を。被害者は衰弱していると予想される……回復を頼めるか」

「もちろん、その為に呼ばれたんですから」


 魔法を使っての攻撃は風弾(かざだま)を撃つしか出来ないけれど(身を守るには充分すぎる)回復魔法は上級まで扱えるのだ。

 わたしの持つ風属性は元々癒しを司るけれど、その精霊とわたしの相性は思った以上に良かったらしい。広範囲にも使える回復魔法、それから状態異常の解除までそれなりに出来るわたしは、ギルドの回復師としては充分使えるそうな。

 ちなみにもっとすごい回復師ともなると、欠損した部位まで復元出来るらしい。わたしには無理ですが。


「お前の身は私が守る。安心して回復に専念してくれ」

「ありがとうございます。タパスさんが居れば安心ですね」

「おい、アヤオ。お前を守るのはサブマスだけじゃ――」

「さて、行きましょうか」


 ライノが眉を寄せて何やら主張してくるのを、わたしは軽く流してからキリアさんに手を振った。キリアさんは薄緑の髪をおだんごにしていて、うなじの後れ毛が非常に色っぽい。金色の瞳を悪戯に細めて、わたしに手を振り返してくれた。


 いつもの事だと慣れているシャーリーさんとメイナードさんは、ライノをフォローすることもなくギルドから出ていった。メイナードさんはごっついフルフェイスの兜をかぶっていて、正直なところ……あの姿は子どもの時に見た怖いテレビの鬼を思わせてちょっと恐ろしかったりする。

 

 ライノが何か喚きながらシャーリーさん達のあとを追いかけていった。

 わたしもその後に続こうとしたけれど、足を止めた。タパスさんがどうかしたかと、視線で問いかけてくる。


「……奴隷化していた被害者はどうなるんですか?」


 誘拐された人は、家に帰れるのだろうか。


「後程、()から役人も来ることになっている。被害者の身元を照会して、問題なければ奴隷から平民に戻せるだろう。誘拐されたものはその関係者から捜索願も出ているしな」

「誘拐された人は、ですよね。売買された人は……?」

「その売買自体が違法な取引になるからな、それも恐らく無効になるだろうが……売り主を摘発する為に聴取を受けてもらう事になる」

「分かりました。被害者の人達が元の生活に戻れるといいですね」

「ああ。その為にはお前の回復が必要だ」

「ふふ、任せてください! 張り切っちゃいますよー!」


両手に拳を握りしめて気合いを入れたわたしの頭を、タパスさんがぽんぽんと撫でてくれる。優しいその仕草は――娘さんにするのと同じものだった。四歳になる可愛い娘さんにするのと同じ様子に、今度パパって呼んでやろうかと思ってしまったのは内緒にしておこう。


「サブマスター、アヤオ、行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


 キリアさんに見送られたわたし達は、ギルドホールを後にした。

 見上げた空は真っ青で、雲ひとつない。湿度の高い風が足元で砂煙をたてた。


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