七十四、さらば愛しき仲間たち
「偉いことになっちゃったねぇ。」
会場から出て、つい人ごとの様に私はそう呟いた。
「ホントですよ。まさか何の前触れも無く大嵐が来るなんて。」
「それよりも、嵐で大破する様な場所を会場に選んだ空手道連盟にびっくりだよ。」
牛鬼と式神に憑いていた悪霊を倒した後、私たち陰陽師たちは、関わった人たちの記憶の差し替えに奔走した。
牛鬼が爆散した際起こった問題。それは、その風圧で会場の窓ガラスや屋根が吹っ飛んだことだ。それを誤魔化す為、大嵐が来て会場が壊れたという、なんともこじつけ感満載の記憶と差し替えざるをえなくなったが、とりあえず作業はひと段落した。
「僕まさか、部活動最後の大会がこんな終わり方するなんて、思ってもみなかったよ。」
唯来姉がぽつりと、本音を溢すようにそう呟いた。
連盟側の慌て様を見る限り、大会が延期になることはないだろう。会場を大破させてしまった原因をつくったうちの1人としては、連盟側にも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。しかし、会場に来ていた選手たちや観客の命には変えられない。そう、思いたい。
全部都合の良い様になるなんて、この世界にあるはずが無いのだから。もしそうなら、私だって初めから膝の怪我なんてしていないのだから。選手として、当たり前の様に試合に出場しているはずなのだから。
「ねぇ。唯来姉。」
「ん?」
飛行機に乗る為に荷物を預けた唯来姉が、私の方を振り向く。
確かに、ここで高校での部活動生活は終わりを迎える。
もやっとした気持ちが消える訳では無いけれど、場違いなのかもしれないけれど、少しでも前を向ける終わり方にしたい。
言いたいことが、沢山ある。
一言では、言い尽くせない想いが。
でも、あえて短く、ありったけの気持ちを込めて伝えたい。
「今までありがとう!うち…空手が大好きだ!」
そう言った瞬間、普段は絶対に人にベタベタしない唯来姉が、思い切り抱きついて来る。
「僕も…大好きっ!」
「キャプテン…。」
「先輩ぃぃぃいいい!」
空港にいる通行人がギョッとしているのをそっちのけで、空手部女子は抱き合って、泣き合って、笑い合った。
最初は、「責任負わせちゃってごめん。」とか、「実質のキャプテン、やらせちゃってごめん。」とか、余計なこと言いそうになった。
だけどそれを言ったら、きっと怒るから。
秘密にしていることも色々あるけど、今日くらい、少しくらい普通の高校生に戻っても、バチは…当たらないよね?
こうして私の部活動生活は、懐かしい先輩との陰陽道バトルと、空手仲間たちとの抱擁で幕を下ろした。