七、瞳の色
一体何が起こったの…?
目の前で起きた怪事に混乱し、取り敢えず目の前の男性に声をかけた。
「あ…あのぅ…。これは…うわっ!?」
「逃げんで。」
男性は一言そう言うと、私を自分の右肩に担ぎ上げ、山の奥へと走り出した。
「え!?わっ!ちょっと、ギャァァァア!!!誘拐ぃぃぃぃい!!!」
「お前アホか!今それどころや無いことぐらい分かるやろ!!!」
「ていうか2人どーすんの!!!さっきの黒兎のとこに置いて来ちゃったじゃん!!!」
「ギャーギャーやかましい!今狙われてんのはお前やろ!!!お前があそこから離れれば!巻き込まんで済むんや!!!」
「そっか…なら安心…って出来ないよ!!!なんでうちが狙われてんの!!!心当たり微塵も無いんだけど!?…って来てる来てる来てる何か跳んで来てる!!!」
余りの話の展開の早さにパニックを起こしながら、男性の背中をバシバシと叩いた。
彼が後ろを振り返る。
先程の黒兎がとんでもない勢いで追いかけて来ていた。
「チィッ…。思っとったより早いな…。」
男性は舌打ちをしつつ、数回逃げる方向を変えながら走り続けた。その途中、自分の肩の上でギャーギャー騒いでいる私に、一つ問いかけた。
「なぁ…はっ…。一つ質問に答えてくれ。」
「はいっ!?今!?」
「あいつの目ぇ…っ…お前何色に見える?」
男性は息を切らしながら、現在の状況にあまり関係の無さそうなことを確認してきた。
「…えっ…どっからどう見ても蒼いじゃん。何言ってんの?」
「…そうか。」
男はそう呟いてニィッと笑い、突然逃げる脚を止めると私を地面に下ろした。
「そら良かったわ。」
「ってちょっと!何立ち止まってるの?もうすぐそこに来てるよ!ねぇ!」
黒兎はラストスパートをかける様に、私たち目掛けて襲いかかってきた。
しかし、私の顔面までわずか数センチのところで、パキンという音と共に透明な青い壁が現れた。
兎は壁にぶつかると青い火花を散らして跳ねかえり、そのまま壁の中に閉じ込められた。中でピョンピョンと飛び跳ね、暴れて抵抗しているのが見える。
「俺かて無駄に走りまわってたんとちゃうねん。なぁ?嬢チャン。」
「はっ…はいぃい!」
驚きのあまり、裏返った声で返事をしてしまった。
「実はこの結界…そう長くは持たへんねん。良くて5分ってとこや。」
「けけけけけけ、結界!?…ごごごごごご、5分!?」
「せや、こいつ鎮めんのは、俺にはできひん。」
そうこう言っている間にも結界にヒビが入り、ピキピキと音をたてている。男性は私の方へ振り返り、言葉をつづけた。
「俺は陰陽師。あれは、悪霊に取り憑かれたお山の大将。それを浄化するには…。」
男性は地べたに尻もちをついている私の手を引っ張り、立ち上がらせて言った。
「お前の言霊が必要や。」