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六十三、お願い
「お願いします!」
年が明けてすぐ、陰陽神社の拝殿の中で、私は仙太郎さんに頭を下げてあることを必死に懇願していた。
しかしその願いを、仙太郎さんは静かに冷たくつっぱねる。
「だめだ。世の太平と個人の都合。秤にかければ、どちらが大切かなど、赤子にも分かることだ。諦めろ。」
「そこを何とか…お願いします!」
食い下がる私を、仙太郎さんはギリリと歯を食いしばり、いい加減にしろとでも言いたげに睨みつけた。
「何や?どないした?えらい剣吞な雰囲気だして。」
その場に、今日の分の修業を終えた恭士さんが、タオルで汗を拭きながらやって来る。
「生見。お前からも言ってくれ。楯本は来週の土日、式神を使うことはせず、修業を放り出して生身で北海道へ行きたいそうだ。」
「なっ!?そういう言い方しなくてもいいじゃないですか!私は…ただ…。」
仙太郎さんのやや意地の悪い言い方に、思わずムッとした。
「北海道?自分、そないなとこに何か外せへん用事でもあるんか?」
「あのぅ…実は…。」




