六十二、特殊人格
猪笹王事件の後日談。
式神に憑いていた悪霊を祓った人物。小学5年生の猪飼若葉ちゃんが、陰陽師の新たな仲間に加わった。
二つの三つ編みの先が、猪の牙の様に前方を向いている、丸メガネの少女。
彼女はクリスマス・イブの日に、私たちが道案内をしてあげたババシャツコスプレイヤーと同一人物であった。
そして修業を開始してから、新たに陰陽戦術を会得した私は他メンバーと修業メニューが変わり、若葉ちゃんの陰陽術指導係も兼任する運びになった。
クリスマスも過ぎた年末、陰陽神社での修業を通して判明した事実。それは…。
「それでは!千晶さん!今日もよろしくお願いしますです!」
若干違和感のある日本語で、彼女は礼儀正しくにこやかに頭を下げた。
私はすかさず、その下げられた頭から丸メガネを奪いとる。
すると頭を下げた状態で、若葉ちゃんは不気味な笑い声を上げた。
「フフフフフフ。さぁ。始めようか。マイマスター。」
ゆらりと三つ編みを揺らして、彼女は顔を上げる。
「弟子であるこの私と!共に死の舞踏《サン=サーンス》を朝まで踊…。」
「らないよ。」
言葉を遮る様にそう言って、すっとメガネを若葉ちゃんにかけ直した。
「おや?どうしたのですか、千晶さん。そんなに私の近くにいらして。」
「いや。何でもないよ。」
何がなんだか分からないという顔で、可愛らしく首を傾げる小学生を見て、苦笑して答える。
そう、それこそまるで、アニメキャラクターのような話だ。彼女は、メガネをかけているかどうかで人格が変わる、多重人格者だった。
メガネをかけている時は、明るく元気な小学生。しかし、メガネを外すとキャラが変わり、謎の横文字を捲し立てたり、今にも必殺技を出しそうな妙な動きをするのだ。
正直、彼女に陰陽術を教えることよりも、彼女のメガネがうっかり修業中に飛ばないようにすることの方が大変だった。