四十六、揺らぐ覚悟
その後、私たちは3人で周辺の寺や神社を訪ね、犬神について知っていることは無いか、改めて聞いて回った。しかし、どこを訪ねても、青い顔をした人に締め出されてしまい、大した情報を得ることは出来なかった。
そして夜、泊まっていた宿へと戻って来た。
「どうしたらええんやろなぁ…。」
和室の中で、恭士さんがぽつりとそう呟いた。
「あのお婆さんは、あたしらにも犬神が憑いてるって言ってた。でも、恭士君の霊視では、この3人の誰にも憑いてるものは視えないんだろ?」
「あぁ。」
「お婆さんの見間違い…とかだと嬉しいんですけどね。」
私は、えへへと力なく笑った。
「私…陰陽師になったからには、自分の目に留まる人達を助けたい。自分にしか護れないものを護りたいって、そう思ってました。けど、あんなのをいざ目にすると…。」
膝の上で、拳をぎゅっと握った。堪えきれなかった涙が、一雫頬を伝う。
「やっぱり…、怖いです。戦うことが…、傷つくことが。」
あの夜の事件以来、3人の間に流れる空気は、随分と重いものになっていた。
「ちょっと…厠に行って来ますね。」
私はそう言って立ち上がった。
「1人で大丈夫?」
「ぷっ!やだなぁ茉恋さん。私高校生ですよ!?お化けが怖い保育園児じゃないんですから。」
無理に笑っているのが見え見えだったのが茉恋さんの複雑そうな表情で分かり、私は足早に和室を後にした。
「…何やねん、厠て。いつの時代や。」
「キレの無いツッコミだなあ。」
「うっさいわ。」
恭士はふっと鼻を鳴らした。窓の外を見ると、少しばかり、激しい雨が降っていた。