四十三、犠牲者
「茉恋さんや私の時もそうでしたけど、やっぱり式神たちは、昔ながらの童歌とか民話と融合してるってことなんですかね?」
山奥の宿へと続く夜道を歩きながら、私は恭士さんにそう尋ねた。
「せやな。ここの『犬神』といい、絶対そうやとは言い切れんけど、共通点を持つもんに惹かれやすいんは、まぁ間違いあらへんやろ。」
「でも、千晶ちゃんの時もあたしの時も、悪霊祓ったら事件は収まったんだろ?未だに犠牲者が出てるのはどうしてだ?」
「さぁな。この事件がホンマに式神絡みかも分からん。ただ間違いなく言えるんは、これ以上死人出させる訳にはいかんっちゅうこ…。」
「ギャーッ!!!」
「「「!」」」
突然、前方にポツンと建っている民家から悲鳴が聞こえた。その民家へ向かって、全速力で走り出す。
恭士さんが最初に家に辿り着き、玄関先で大声を出した。
「もしもし!どうしました!もしもぉーし!」
返事が無い。玄関の扉に手をかけると、鍵が開いている。
「入るで!…!」
「「!」」
恭士がガラッと扉を開けた。鼻を突く、鉄っぽい匂い。部屋の奥を覗くと、血の海の上で1人の女性が横たわっていた。
「…っ!」
「はっ…!」
鼻の曲がりそうな匂いとその光景に思わず目をそむけた。横の茉恋さんは口元を押さえて、言葉を失っていた。
恭士さんが冷静に、女性の元へ歩み寄る。女性の意識はすでに無く、首から溢れ出た血が弱くなっていった脈の様子を、壁に鱗の様な模様で描いていた。その出血元の首には、獣に噛まれた様な傷跡。
「こいつは…。!」
突然、右側からゴトンッという音が聞こえた。
「あ…あれ…っ!」
茉恋さんが、右の部屋の窓を指さした。嵐でも通り過ぎたかの様に、荒れ果てた部屋。その部屋の窓で、紅く瞳をギラつかせ、棧に前足を乗せた獣がこちらを睨みつけていた。
『グルルルル…!』
獣が唸り声を上げ、今にも襲いかかってきそうな体勢になった。その時___。
『アオーン___。』
窓の外から、遠吠えが聞こえた。獣は静かになり、そちらの方に顔を向けると、まるで気が変わったとでも言うように、窓の外へと飛び出して行った。
私は慌てて窓の方へ駆け寄った。窓の外では血の様な、炎の様な赤い足跡だけが、空中に残っていた。