四、狂狂回る
「お月様綺麗だねぇ。」
街頭の少ない夜道を明るく照らす月を見て、私はそう呟いた。
「今日は十五夜だからね。お陰でライト使わなくても道がよく見える。助かるわ…あ。」
京さんはスマホでマップを見ながら答えると、突然何かに気が付き、歩みを止めた。
「ん?どしたの?」
「ごめんっ!道間違えたみたい。さっきのとこ右じゃなくて左だわ。」
「はははっ。いーよいーよ。僕らは京さんの後ろついて歩いてただけだから。」
「旅館に帰れさえすれば、道の一本や二本間違えても全然オッケーだよ。」
唯来姉と私は快くそう言った。3人は道を引き返し、本来の道へ戻った。はずだった。
「あれっ?おっかしいな。」
そう言って京さんは、首を傾げた。
「何?また道間違った?」
「うん…多分そうなんだけど…。なんか…」
マップを見つめて言い淀む彼女の様子を見て、私と唯来も彼女のスマホを覗きこんだ。すると、先程行ったコンビニが確かに表示されているのだが、肝心の位置情報がおかしい。現在地を示す矢印が、その周辺を3秒に1回程度別の地点へ移動し、ぐるぐると回っているのだ。
「うわぁ…。」
「電波悪いんだねここ。近くの人に聞いてみるしか無いか。と言っても…。」
唯来姉と私は人を探して辺りを見回したが、見えるのは閉店して灯りが消えた店ばかりだった。しかし、ふと斜め上へ続く道を見ると、その先に建つ赤い鳥居が目にとまった。
「ねぇ、折角だからお参りして行かない?気休めだけど、無事に帰れますようにって。」
唯来姉は鳥居の方向を向いて、私たちに提案した。
「う〜ん…、夜の参拝って、あんまり良くないって聞くけど…。中の方に神主さんとかいるかもしれないし、行ってみるか。」
2人とも唯来の意見に賛成し、鳥居へと続く坂道をゆっくりと登っていった。