三十二、意識
「『おしら様』の話と、この町で起こっとる不吉な現象。それを照らし合わせれば、自ずと答えは現れる。」
息苦しい中、俺はふらつきながら木に手をついて立ち上がった。
「女たちの怪我や病気の症状を、男たちにごっそり移し変える。それが、あんたらのしとることやろ。」
着物の女は、さも忌々しそうに鼻で笑った。
『能力が分かったところで、男であるあなたに為す術はないわ。今この町の女たちにとって、私たちは崇め奉るべき神。頭が硬い人間の男どもは、大人しく制裁を受けるべきなのよ。』
「そか…。1つ聞くわ。あんたの今の意識、一体誰のもんや?」
女はピクリと眉間にシワを寄せた。
「俺らは、この辺で封印が解けたと思われる馬の式神と、そいつに取り憑いた悪霊を探してここに来た。けどあんた視たとこ、この地域の『おしら様』伝説と能力があまりに密接に関わり過ぎやねん。」
『…何が言いたいの?』
「悪霊と式神、そして『おしら様』、融合しとるんちゃうか?全部。」
『っ!』
「おまけにその体、人間の気配まで混ざっとる。だから聞いてんねん。誰の意思で行動してるんかってな。」
『…この意思は、誰か1人のものではないわ。』
女は俺を見下ろしたまま、ぽつりぽつりと話始めた。
『私が今使っているこの体…茉恋は、元々体が弱かった。彼女の両親は、医療でどうにもできなかった彼女の体を治す為に、遥々この土地にやって来たの。女の病を治すという、『おしら様』伝説が残るこの土地に…。』
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「おしら様…どうか…どうかお願いです!娘を…茉恋を助けて下さい!」
お堂の奥、その部屋の中で、女性はすがるように祈っていた。色とりどりの布を着せられた、千体の人形たちに囲まれて、大粒の涙を流しながら。