三十一、おしら様
「っ!!!」
突然、俺の背中に勢いよく何かがぶつかったような衝撃と激痛が走った。
「へっ…もうちょい術強くかけておくべきやったか。予定狂ってしもたな。」
そう言って苦笑すると、脚に思う様に力が入らず、思わず地面に片膝をついた。
『あまり驚かないのね。何もしていない自分が、突然負傷したことに。』
女は俺を見下ろしたまま言った。
「…まぁな。ハァ…この町の異変と民話の内容聞けば、大体の予想はつく。」
1週間前
「『おしら様』言うんはな。東北のいくつかの地域に残っとる民話やねん。」
「あっ…それ知ってる。」
『おしら様』。遠い昔、ある農家の女性が、自分の飼っている馬に恋をした。女性と馬は夫婦となり、それを知った女性の父親は、憤り、馬を殺して木に吊るしてしまった。それを知った女性は、馬の亡骸にすがりつき、大層悲しんで泣いた。娘の行動に、さらに腹をたてた彼女の父親は、亡骸となった馬の首を切り落としたそうだ。彼女が馬の頭にすがりつくと、馬と彼女の魂は、天へと登っていったという。
「その『おしら様』は、地域によって内容は違うんやけど、女の病を治す神として祀っている地域がある。それが、藤生茉恋の出身地や。」